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107 決戦の日―― 一気呵成のその先に……嫌な予感がするんですがががが

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 私・八重垣やえがき紫苑しおんは、クラスの皆から預かった魔力を束ねて作り上げたヴァレドリオンの光刃を屍赤竜リボーン・レッドドラゴンへと振り下ろした。

 ―――――しかし。
 何故かそこにあるはずの手応えは存在していなかった。

 あれ? あれあれあれあれぇ!? 

 いや、こ、これどういうことぉっ!?

 刹那、攻撃をミスしたのかと僅かに焦りが頭を駆け巡った(当社比十倍くらいの速度で)。
 
 何故なら、手にはヴァレドリオンを振るった感触だけ。
 その先にある刃の手応えが、何かを切り裂いた際の抵抗が何も、極僅かにも感じられなかったからです。

 だから私は何らかの手段で投影された幻影を斬って、隙を作ってしまったのではないかと背筋が凍る思いでございましたよ。

 だけど――――それが間違いである事に、直後私は気付いた。

 私の落下に合わせて刃は進む。進んでいく。
 そうして進んでいく度に屍赤竜リボーン・レッドドラゴンの皮膚は切り裂かれ、その赤い血がまるで間欠泉のように勢いよく吹き出していた。

 私の【ステータス】もまた、屍赤竜リボーン・レッドドラゴンに与えたダメージを確かに知らせております。

 ――そう。
 手応えの無さの正体は……皆の魔力を結集したヴァレドリオンの虹色の魔力刃が……ためだったのです。

 私の魔力のみのヴァレドリオンでは少し切り裂く事さえ簡単には行かなかった。
 私達の中で一番攻撃力が高い守尋《もりひろ》くん達の強化魔法がたくさん積まれた合体攻撃でも両断出来なかった。

 そんな、屍赤竜リボーン・レッドドラゴンの頑健な皮膚。

 それがまるで豆腐を切り裂く包丁のように――いや、それ以上の手応えのなさであっさりと切り裂かれていく――!!

『―――――――――――――――――!!!??』

 あまりの驚きゆえか、ダメージゆえか、屍赤竜リボーン・レッドドラゴンは大きく口を開いて、声なき声を上げた。
 それは人では聞き取れない声だったのか着地した瞬間、頭上からビリビリと振動となって私に届く。
 
 そして、届いたのは屍赤竜リボーン・レッドドラゴンの声だけじゃなかった。

『『『――――――っ!』』』

 クラスの皆それぞれが混ざり合った歓声が私の耳に確かに響き渡っていた。 
 
 それらの事実が総合・統合されて私は改めて確認する。
 今のヴァレドリオンの刃は、屍赤竜リボーン・レッドドラゴンを破壊出来るのだ、と。

「ん……?」

 瞬間、屍赤竜リボーン・レッドドラゴンを切り裂いた中で、何かが光ったような気がした。
 神域結晶球かとも思ったが、そういう輝きではない――多分何か反射するようなものが視界に映っただけかな。

 ともあれ、油断は禁物だ。
 屍赤竜リボーン・レッドドラゴン体力HPは今の一撃で一気に減ったが――その端から少しずつ、微量だけど回復が始まっている。
 やはり神域結晶球を破壊しないと完全に倒す事は出来ないのだろう。 

 出来れば今の一撃で神域結晶球へも少なからず攻撃が届いている事を願っていたんだけどねぇ――

『生憎と、届かなかったな――!』

 こちらを嗤うような屍赤竜リボーン・レッドドラゴンの声が響く。

『そして神域結晶球は我の思うまま、身体の何処にでも移動が出来るのだ――!!
 当初の場所のままだと思い込んでいた汝らの想定の甘さを呪うがいい――!』

 決定的なチャンスを逃したと屍赤竜リボーン・レッドドラゴンは思っているんだろうなぁ。
 実際、さっきはこれまでで最大の、屍赤竜リボーン・レッドドラゴンを倒し得る機会だった事に違いはない――だけど。

「そ、そそそ、想定の甘さを呪うなら――そちらもですっ!!」

 これから改めての事――!!

 【ステータス】で、今の攻撃でのヴァレドリオンの魔力損耗率を確認した私は、吼えた。

 これなら……いけそうですよ、ええ!

 ダメージによるものか、何故か屍赤竜リボーン・レッドドラゴンのこちらへの攻撃はワンテンポ遅かった。
 河久かわひさくんによる攻撃予測とはじめくんからの指示がなくてもギリギリ間に合っていただろう程に。

 だから私を轢き潰そうと叩きつけられた屍赤竜リボーン・レッドドラゴンの巨大な尻尾を私は一足飛びで回避。
 それと同時に屍赤竜リボーン・レッドドラゴンの両足の腱を続けざまに斬り裂いた。

『がァッ!?』
「な、何故なら――貴方を切る事での魔力刃の摩耗は、こちらの想定よりずっと低かったんですから……!!」

 そう、こちらにとってもあちらにとっても想像以上の切れ味ゆえか、そもそも屍赤竜リボーン・レッドドラゴンの防御力だけは上がっていなかった事が幸いしてか、ヴァレドリオンに蓄積された魔力は殆ど減っていなかったのだ。
 懸念されていた、攻撃する事による魔力の消耗・減少がほぼない――であれば、屍赤竜リボーン・レッドドラゴンの身体を攻撃しない理由はない。 

 おそらく本来の――生きていた頃の赤竜さんの皮膚強度であればこうはなっていなかっただろう。
 少なくとも、切り裂く事は出来てもこうまで易々とはいかなかったんじゃないかな。

 幸運にも元々が死者の身体であったがゆえの脆さがそのままだった……それも含めて屍赤竜リボーン・レッドドラゴンの想定は甘かったんだと思いますね、ええ。

 ――ちなみに。
 現在の【ステータス】では、魔力損耗率は確認できるのだけど、ヴァレドリオン自体の損耗は確認出来なかった。
 普通の装備は確認出来るのだけど……何故かヴァレドリオンだけは不可能みたい。

 多分ヴァレドリオンの特殊すぎるからなぁ。
 今の私ではヴァレドリオンの本質的な構造を図り知る理解する事が出来ないんだと思います。

 それが分かれば魔力蓄積の際、壊れるかどうかの限界をしっかりと確認出来たのに、と嘆きたい所だけど、それは後回し。

 限界まで強化された事で身体が火達磨になっているような感覚を堪えつつ、状況を確認する。

 立っていられずバランスを崩す屍赤竜リボーン・レッドドラゴン――だけど即座に状況を把握し、ドラゴンは翼を展開、飛翔した。
 足の再生を待っていては攻撃の的になると判断しての事だろうね。

 その判断自体は速い――――だけど、最初にワンテンポ対応が遅れてしまった事が大きく響いている。
 屍赤竜リボーン・レッドドラゴンはそのワンテンポ分、私達に行動を先読みさせる、あるいは先んじる余地を与えてしまっていた。
 そしてダメージが重なっていく事での行動阻害による悪循環もそこに加わっている。

 それは、大幅に弱体化しても未だ私達を圧倒出来るはずのステータス、それをもってしてもギリギリひっくり返せない遅れだった。

 それを最大限活用し……屍赤竜リボーン・レッドドラゴンが飛翔した直後、

『―――!!?』
「ハァァァァァッ!!」

 同時だった。
 屍赤竜リボーン・レッドドラゴンが頭だけ振り向いてそれに気付くのと、
 私が振り下ろしたヴァレドリオンが屍赤竜リボーン・レッドドラゴンの片翼を両断し終えたのは。

 ドラゴンの巨体を鑑みれば、翼も相応に大きいとはいえ、それでもそのはためきで空を飛べるとは思えない。
 多分翼に魔力的な効果も含めての飛翔なんだろう。

 それゆえにというべきか当然というべきか、翼を失えば空に居続ける事は出来ない。
 屍赤竜リボーン・レッドドラゴンは大きく体勢を崩し、地面へと落下、叩きつけられた。

 ここで調子に乗るのは危険だと、私はあえて追撃はしなかった。
 動きに注意しつつ、離れ過ぎない程度の距離をとって地面へと着地した。

 案の定、屍赤竜リボーン・レッドドラゴンの尻尾が大きく空を裂いた。
 ひょええええっ……危ない危ない。

 それだけでも真空の刃を飛ばす程の鋭い一撃――追撃していたら、私は真っ二つになっていたと思います……超怖いです。
 見えない攻撃でも【ステータス】は正確に攻撃範囲を私に知らせてくれていた。
 なので、背後の皆――結界や防御手段はあるだろうけど防御のついでに一応――に攻撃が届かないようヴァレドリオンで斬り捨てて真空を霧散させておきました。

『おの、れっ! おのれぇぇ!!』

 良い様に攻撃されている事への苛立ちから屍赤竜リボーン・レッドドラゴンは倒れたまま怨嗟の声を上げる。
 その凄みは一瞬思わず顔を歪めてしまう程のプレッシャーが籠っていた。

 だけど、足を止めている暇はない。
 今の内に可能な限り身体を破壊して動きを封じなくちゃ。
 幸いにも、屍赤竜リボーン・レッドドラゴンの再生力は斬られた部位を瞬時に生え変わらせるほどじゃない。
 であるなら、回復を試みても即座には動けない程のダメージさえ与えれば、その間に神域結晶球を探し出して破壊を試みる事が出来る。

 あと一歩でそれが叶う――そう判断して屍赤竜リボーン・レッドドラゴンへ改めて踏み込もうとした、その時。

『最早、手段は選ばぬ――――わが命を賭してでも、汝らと、この土地だけは絶対に滅ぼす……!!』

 憤怒と憎悪に満ち満ちた咆哮染みた宣言と共に、屍赤竜リボーン・レッドドラゴンの体内から光が溢れ出した――。

 いやいやいや、なんか凄まじく嫌な予感がするんですけどぉ―!?
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