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81 決戦の日――誰にとっての四面楚歌?

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「あなたたち、いつの間に――?!」

 自分が、いや自分達が置かれていた状況に気付いて阿久夜あくやみおさんは驚きの声を上げた。
 うん、まあそりゃ驚くよね。

 自身の背後にいた、未だ倒されていなかった彼女の仲間達――つばさ望一ぼういちくん、正代ただしろしずかさん、麻邑あさむら実羽みうさん。
 その三人が武器を突きつけられていたからだ。

 その内、翼くんと麻邑さんは『ウリウリー!』とこれ見よがしに武器を突きつけられているのに、ニコニコとしていた。

「いやーうん、気が付いたらこの状況だったんだよね。
 これは抵抗できないかなー」
「うんうん、これは抵抗できないよね、マジ☆
 流石のあたしもこれには降参だわー」

 翼くんに鞘に入った剣を向けているのは、私達の経理担当の網家あみいえ真満ますみさん。
 麻邑さんに杖を突きつけているのは、クラス委員長の河久かわひさうしおくん。

 2人共戦う訓練こそしていたけれど、実戦経験はそう多くない。
 それでも自分達も出来る事をしたいとこの役目を引き受けてくれたんだよね……感謝です。

 ただ、これについては事前の話し合いの中で、一くんの――私の意見も取り入れた――『他の連中はそれほど危険はないだろう』という判断による所が大きかった。
 そして――。

『今、確認が取れた。紫苑、君の予想通りだ。そして了承も得た』

 状況が傾いた今を狙っての堅砂かたすなはじめくんの【思考通話テレパシートーク】での説得が少し前に完了したみたい。   

 予想通り、それはすなわち――麻邑さんは最初から寺虎くん達のブレーキ役として彼らの中に入り込んでくれていた、ってこと。

 麻邑さんは元の世界にいる時から『皆仲良く楽しく』な人だった。
 そんな彼女が少し勝手な判断を下した寺虎くん達についていったのは、正直最初は意外で呑み込めなかったんだよね。

 だから、私は逆に考えた。
 麻邑さんは、あえて寺虎くん達についていったんじゃないかなぁ、と。

 正直その方がしっくり来て、どうも強力な魔術を幾つも覚えていた様子の彼女が寺虎くん達に積極的に力を貸さなかった理由としては正解な気がしたんだ、うん。
 多分彼女は要所要所で寺虎くん達がより危ない方向に行かないように、行動を裏切りだと疑われない程度に気をつけていたんだと思う。
 麻邑さんがいなかったら、寺虎くん達は私達の想像以上に危ない事をしていたんじゃないかな。

 そしてつばさくんは欲求ドストレートな行動を取るけど、その根本は麻邑さんとベクトルが近い『楽しい事』。
 少なくとも彼自身が明確に誰かを積極的に傷つけるような行動を取った事は今まで一度もなかったし。

 だから、その辺りについて、彼らの決定基盤であっただろうを構成する四人の内の三人を倒させてもらってから一くんに連絡を取ってもらった、というわけでございます。

 私としては事を荒立てる前に事前に確認した方がいいんじゃ、と提案したのだけれど。

『その連中は確かにそれほど危険はないかもしれない。
 だが、状況が向こう側有利の状態だと、アイツらの判断が安全優先に傾かないと限らない。
 それに事前に裏切り行為が見え隠れする行動をされると、
 寺虎に脅されたり、阿久夜の能力で洗脳されたりして、いざという時に裏切られかねない。
 だから、俺達が有利の状態に持ち込んでからが一番連絡のタイミングとしては正しい』

 と、一くんに説得された次第です。
 確かに麻邑さん達を信じても他の面々の行動でその意志を塗り潰されないとは限らない――私では今一つ足りない発想だったので、ありがたい限りです。

 ともあれ、そうした状況判断の下の説得はどうやら功を奏したみたい。
 二人は両手を上げて降参の合図を私達に送っていた――その際、阿久夜さんに気付かれないように私達へと密かなウィンクをしていたので、その意志も間違いないみたい。

 そんな二人に、阿久夜さんは怒りの色を隠す事なく半ば叫んでいた。

「貴方達、よくもまぁそんな白々しい――!!」
「いやだって、流石にクラスみんなの努力を横からかすめ取るのはさぁ――どうかと思うよ、うん。
 紫苑ちゃんの活躍見て俺は目が醒めたね」
「うんうん、八重垣やえっちの地道な積み重ねによる勝利はまさに点滴穿石で見事だったね」
「――俺も戦ってたんだが?」
堅砂野郎の活躍は割とどうでもいい。でもナイスファイトだったと思うぜ☆」
堅砂すなっちは見事な知恵の勝利だったね~ でもちょっと姑息かも?」
「……」

 あ、一くんイラッとしてる。
 私で足しになるかは分からないけど、後で良い戦いだったよ、とちゃんと伝えよう、うん。

「ともかく、澪ちゃんもそんなに怒らないで、一緒に降参しようよ」
「そそ、皆楽しく仲良くが一番っしょ。ね?」
「う、うん、それがいいよね」

 麻邑さんの親指を立てる姿サムズアップに同じように親指を立ててサムズアップで返す私。
 さすが、私が敬意を持つ陽キャ代表・麻邑さん――今回の件でますます私は尊敬の念を深めましたね、ええ。

 そうして二人して積極的に降参に回るものだから、当てにならないと判断した阿久夜さんは、最後の一人・正代さんに呼び掛けた。

「静……! 貴女は裏切らないでしょう? そうしたらどうなるか、分かっているでしょう――?」

 やはり阿久夜さんは正代さんを『あの事』絡みの事で脅していたみたい。
 まあちょっとした事情があるのです、ええ。

 だけど――。

「ああ、そうだな。
 だが一つ言わせてもらうが……阿久夜、お前今ここでが言えるか?」
「何を馬鹿な事――っ!?」

 鞘に納めたままの剣を向けられつつの、淡々とした正代さんの指摘に阿久夜さんはハッとした表情を形作った。
 そう、秘密を使って彼女を脅して動かしているのであれば――ここでそれを暴露してしまったら、最早彼女が阿久夜さん言う事を聞く義理はなくなるよねぇ。

「気付いたな?
 ここでお前があの事についてバラしたり脅したりしても無意味って事だ。
 それに――」

 そこで正代さんはチラリと私の方を一瞥してから、言った。

「もういい加減我慢するのも飽きた。
 あれだけ気合入った戦いを見せられて、いつまでもヘーコラ言う事聞くのは馬鹿馬鹿しくなっちまったしな。
 だからバラしたいなら好きにすればいいさ」
「静ぁ――!! ~~~っ!」

 凄まじく悔し気に正代さんの名前を呼んだ後、阿久夜さんは唇を噛み締めて俯く。
 そんな彼女から視線を移し、正代さんは小さく息を吐いた。 

「……ってなわけだから、そんなビビんじゃねーよ薙矢。
 お前に危害は加えねぇ」
「そ、そうだと助かるなぁ」

 正代さんが話しかけたのは、彼女に剣を突きつけている――というにはおっかなびっくりな様子の男子。
 
 彼こそ、この状況を作ってくれたMVPたる人物、薙矢なぎやれいくん。
 彼の『贈り物』は――【時牢とろう】……なんとびっくり時間停止だ。

 クラス一同のステータスと『贈り物』について皆に伝えていた際、
 薙矢くんにも彼のステータスと一緒にこの能力についての概要を伝えたんだけど……何分、能力が能力だ。

 わざわざ私に改めて尋ねに来た以上、私的には彼が『贈り物』を悪用するとは思えなかった。
 ただ、周囲の反応は想像がつかないので声を抑えて伝えたんだけど――それを噂・秘密大好きの女子・針南《はりな》桂《かつら》さんに横から聴かれて・喧伝されてしまったのです。
 
 結果、彼は自身の『贈り物』についてクラス全員に詳しく話さざるを得なくなった。

 彼的にはただ、臆病な自分らしく、危険な状況でも確実に逃げられる手段が欲しかっただけとの事だった。

 だけど、女子からは自分達を対象に良からぬ事に使うんじゃないかと詰め寄られる状況になってしまったので、
 こうなっては致し方ないと、私は薙矢くんの許可を得て、そう簡単に良からぬ事に使える能力ではない二つの要因を説明しました、ええ。

 一つは、時間停止可能時間は30秒である事。
 もう一つは、時間停止は薙矢くんの接触した対象は解除されてしまう事。

 30秒で出来る事はそんなにないし、
 時間停止解除は髪の毛一本・衣服一枚触れた程で全身に及ぶため、これまた良からぬ事には使えない――
 そういう事を実践を兼ねて丁寧に説明した上で、
 クラスメートなんだからもっと信用しようと守尋くん達も声を上げてくれた事で、皆の疑念は収める事が出来た。

 その後、私は改めて自分の迂闊さを謝ったのだけど、薙矢くんは――

『い、いやぁ、僕も、そのぉ、折角すごい力がもらえるんだからって、深く考えずに時間停止にしちゃったから――
 じょ、女子が警戒するのも当然だし―――気にしないで』
 
 そう恥ずかしそうに俯きながら謝罪を受け入れてくれた。
 説明の中、たくさん女子に詰問されてしまったにもかかわらず、だ。
 うん、間違いなく良い人だよね。

 と、そんな経緯もあって。
 彼の『贈り物』について皆が知っていたのもあり、今回の状況打破について話し合った際、薙矢くんの力が使えないかという流れになり――彼はそれを快く引き受けてくれたのです。
  
『えと、ここでちゃんと働いて、皆の疑惑を少しでも払拭したいからね』

 と答えつつも、彼は皆の前で答えながら震えていた。
 だから守尋くんや私は無理はしなくてもいいと伝えたけれど……それでも彼は、積極的な協力を約束してくれた。

 そして今……彼は震えながらも自分の役割をしっかり果たしてくれております。

 私達の戦いが決着した直後、網家さん、河久くんを伴って時間停止――三人にしっかと接近してくれたんだよね。
 ちゃんと説得できなかった時の次善策――私達に脅されて止む無く降参したという形にする為に。

 結果的には説得が成功したので必要はなかった――
 いや、こうして状況を作ってくれたからこそ説得が確実に成功したのだと、私は思っております。

 ――ふと視線を送ると、薙矢くんは小さくガッツポーズを取っていた。
 なので私も同じポーズを返しつつ、小さく――不気味にならないよう気を付けつつ――笑い返した。

 三人には、事が終わったら改めてお礼を伝えよう、うん。

 そうして私が小さく決意している中、正代さんが口を開いた。

「――ただ、一応最後の義理だ。
 今回の事が完全に終わるまで、うちは堅砂達おまえたちにも手を貸さねぇ。それでいいな?」
「ああ、十分だ正代。
 さて、これで俺達に敵対しているのはお前だけになったぞ、阿久夜」
「……」
「お前の頭が悪くないのであれば、無駄な抵抗はやめて、さっさと降参するべきじゃないか?」
「――――――頭が悪いのは、どちらでしょうね?」

 一くんに宣告された直後、阿久夜さんは顔を上げて――大きく笑みを浮かべる。
 それは絶望的な状況にある人のものとは思えない、強く自信に満ちた笑顔だった。

「薙矢くんにこれほどの蛮勇が出来たのは驚きですが――それなら、わたくしを先に確保するべきでしたね……!!」

 そう言って彼女は高々と左手を掲げて、パチィンッ!!と指を鳴らした。
 それが彼女が使役する魔物達の起動・活動開始事を、彼女の『贈り物』――【かの豊穣神のようにチャーム・ドミネイト】の発動である事を私達は理解していた。

 やっぱりそうくるよねぇ……うう、中々『みんな仲良く』できないなぁ。
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