上 下
68 / 145

66 陰キャ、まさかの修羅場遭遇……!?――絶対縁がないと思ってたんですががが

しおりを挟む
「うーん、っと」

 星が綺麗な夜空の下、私・八重垣やえがき紫苑しおんは歩きつつ、今日の疲れを振り払うように身体を伸ばしております。

 師匠からの素敵な心遣いのあと、鍛錬そして買い物――予定よりも短い時間で終わったけど、ある人達と出会った事で最終的には予定どおりの時刻となった――を終えた私達は、私達異世界人用の寮へと戻った。
 それからいつものように夕食後に互いの報告を終えて、明日の予定を立てて、お風呂に入り――今に至る。

 ちなみにレーラちゃんは眠たそうにしていたので、酒高さけだかさんに頼んで速めのお風呂&睡眠と相成りました。
 昨日の出来事がふと頭を過ぎるけれど、エグザ様がもう危険はないと語っていた事も思い出したので、私の思考は明日の事へと移り変わっていた。

 明日はも含めて鍛錬しないと。それから――。
 そうして考えながら自室に向かって歩みを進めていた時だった。

「あ、こんばんは、八重垣さん」

 寮の庭先で腕立てとかの簡単なトレーニングをしていた守尋もりひろたくみくんが、こちらに気付いて声を掛けてきた。
 ――気を散らさないように黙って通り過ぎるつもりだったんだけど……。

「え、えと、こ、こんばんは。トレーニングの邪魔しちゃった?」

 だったら申し訳ないなぁと思いながら尋ねると、守尋くんはぶんぶんぶんっ!と力強く首を横に振った。

「いやいやいや、姿を見かけたからなんとなくにね、うん」
「そ、そう――邪魔してないなら良かった」

 熱心にトレーニングしていたのか、魔術の外灯で照らされる守尋くんは上気している様子であった。
 それから、何故かは分からないけれど何処か落ち着かなそうにそわそわしているようで――むむ、ホントに邪魔してないのか、ちょっと心配。

「――じゃ、じゃあ、私はこれで」
「あ、ちょ、ちょっと待って」

 早めに去った方がいいかもと歩みを再開しようとした瞬間、守尋くんがそれを制止した。

「ん? な、何か用事? 明日の事の確認とか?」
「いや、そうじゃないんだけど――」

 守尋くんはそう言ってから、しばらく言葉を探すように視線を彷徨わせた。
 だけど、いつまでもそうしていられないとばかりに顔を上げて、私の顔を見据えて言った。

「あのさ、八重垣さん……実は、君に少し話したい事があるんだ」

 ああ、さっきまでの様子はそれでだったのか、と納得する。

 おそらく何かしら話し難い事なんだろう――何か女の子関係の相談事とかかな?
 いや、それだったら幼馴染の伊馬《いま》さんに訊けばいいんじゃないかな――むむむ、思い浮かばない。

 まぁなんにせよ、話があるというなら聞かない理由はない。
 人の良い守尋くんの相談事なら尚更だ。

「そ、そうなんだ。私なんかで良ければ、遠慮なく話して。ああ、場所を変えた方がいいかな――」
「あ、いや、今じゃなくて――今回の、領主様からの依頼が無事に終わった時に、聞いてもらいたいんだ」
「――そ、それは全然いいけど。今でなくて本当にいいの?」

 依頼の達成――それを果たすまでにはきっと色々な事が起こりそうな気がする。
 うん、どう考えてもただではすまなさそーです、はい。

 それを考えると早い内に話しておいた方がいいんじゃないかと思うけれど――そう思って尋ねると、彼は少し慌てた様子を見せた。
 
「いや、その、今はちょっと無理というか、自信がないというか――なので、今度でお願いします」
「む、むむむ――? よ、よく分からないけど、守尋くんがそれでいいなら」
「うん、ありがとう。じゃあその、その時に」
「う、うん。その時に。――お互いにがんばろうね」

 守尋くんは異世界ここに来る前、寺虎くんとよく話していた――内容は喧嘩的だったにせよ――間柄なので、彼との相対には複雑な気持ちだろう。
 きっと、未来への展望というか、そういう気持ちへの後押しが何かしら欲しかったんじゃないだろうか。
 だからこその、私への『話したい事』なんじゃないかなと、私は思ったんだけど、どうかなぁ。

 その推測が正しいかどうかは分からないし、そんな大事な気持ちの後押しが私に十全出来るとは思わない――ただ、せめてもの応援の気持ちを伝えたくて、私はエールを口にした。
 
 すると彼は嬉しそうに笑って、親指を立ててくれたサムズアップしてくれた
 ――逆に気を遣わせてないかなと心配だったが、流石に考え過ぎかなと苦笑しつつ、私はその場を後にした。

(しかし、話したい事――なんだろう。私何か知らない間に守尋くんにやらかしてたかな)

 何度考えても思いつかず、首を傾げつつ歩いていた、その時だった。

「――ん?」

 少しでも経験値が入ればと、基本開くようにしている私の『贈り物』である【ステータス】、その表示に名前が一つ浮かび上がった。
 そして、それとほぼ同時に声が響いてきた。

「……八重垣――貴女、メッセージ、読まなかった?」

 魔術の外灯の明かりが届かない暗がりからの聞き覚えのある声は、表示された名前と一致している。
 ただ――その声は、普段の明朗快活さがなく、どこかほの暗いものであった。

「え?」
「『お前は調子に乗り過ぎた。その報い、いつか受けてもらう』――あれ、ああしたら止まってくれると思っての警告だったんだけどなぁ」

 え? え? なんだか、えと、その、怖いんですけど。すごく。
 なんというか、声音がすごく冷えてるというか――。
 というか、それって、少し前に私のドアに張られてたいたずらの――?

「あ、あの、なんのこと――ひぇぇぇぇっ!?」

 その瞬間、私は思わず叫んでいた。叫ばずにはいられなかった。

 暗がりの中から、らしくない声と共に現れたのは――伊馬いま廣音ひろねさん。
 彼女の右手には魔術用の杖が、そして左手には――護身用と思われるナイフが握られていて。 

「それでも調子に乗っちゃうなら――少し話し合わないとね?」

 彼女は、大きく目を見開きながら、ニッコリと笑顔を浮かべていた。

 いやいやいや、怖い怖い怖いぃー!!?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす

こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!

お父様、お母様、わたくしが妖精姫だとお忘れですか?

サイコちゃん
恋愛
リジューレ伯爵家のリリウムは養女を理由に家を追い出されることになった。姉リリウムの婚約者は妹ロサへ譲り、家督もロサが継ぐらしい。 「お父様も、お母様も、わたくしが妖精姫だとすっかりお忘れなのですね? 今まで莫大な幸運を与えてきたことに気づいていなかったのですね? それなら、もういいです。わたくしはわたくしで自由に生きますから」 リリウムは家を出て、新たな人生を歩む。一方、リジューレ伯爵家は幸運を失い、急速に傾いていった。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

処理中です...