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66 陰キャ、まさかの修羅場遭遇……!?――絶対縁がないと思ってたんですががが
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「うーん、っと」
星が綺麗な夜空の下、私・八重垣紫苑は歩きつつ、今日の疲れを振り払うように身体を伸ばしております。
師匠からの素敵な心遣いのあと、鍛錬そして買い物――予定よりも短い時間で終わったけど、ある人達と出会った事で最終的には予定どおりの時刻となった――を終えた私達は、私達異世界人用の寮へと戻った。
それからいつものように夕食後に互いの報告を終えて、明日の予定を立てて、お風呂に入り――今に至る。
ちなみにレーラちゃんは眠たそうにしていたので、酒高さんに頼んで速めのお風呂&睡眠と相成りました。
昨日の出来事がふと頭を過ぎるけれど、エグザ様がもう危険はないと語っていた事も思い出したので、私の思考は明日の事へと移り変わっていた。
明日は今日新たに教わった事と貰ったものも含めて鍛錬しないと。それから――。
そうして考えながら自室に向かって歩みを進めていた時だった。
「あ、こんばんは、八重垣さん」
寮の庭先で腕立てとかの簡単なトレーニングをしていた守尋巧くんが、こちらに気付いて声を掛けてきた。
――気を散らさないように黙って通り過ぎるつもりだったんだけど……。
「え、えと、こ、こんばんは。トレーニングの邪魔しちゃった?」
だったら申し訳ないなぁと思いながら尋ねると、守尋くんはぶんぶんぶんっ!と力強く首を横に振った。
「いやいやいや、姿を見かけたからなんとなくにね、うん」
「そ、そう――邪魔してないなら良かった」
熱心にトレーニングしていたのか、魔術の外灯で照らされる守尋くんは上気している様子であった。
それから、何故かは分からないけれど何処か落ち着かなそうにそわそわしているようで――むむ、ホントに邪魔してないのか、ちょっと心配。
「――じゃ、じゃあ、私はこれで」
「あ、ちょ、ちょっと待って」
早めに去った方がいいかもと歩みを再開しようとした瞬間、守尋くんがそれを制止した。
「ん? な、何か用事? 明日の事の確認とか?」
「いや、そうじゃないんだけど――」
守尋くんはそう言ってから、しばらく言葉を探すように視線を彷徨わせた。
だけど、いつまでもそうしていられないとばかりに顔を上げて、私の顔を見据えて言った。
「あのさ、八重垣さん……実は、君に少し話したい事があるんだ」
ああ、さっきまでの様子はそれでだったのか、と納得する。
おそらく何かしら話し難い事なんだろう――何か女の子関係の相談事とかかな?
いや、それだったら幼馴染の伊馬《いま》さんに訊けばいいんじゃないかな――むむむ、思い浮かばない。
まぁなんにせよ、話があるというなら聞かない理由はない。
人の良い守尋くんの相談事なら尚更だ。
「そ、そうなんだ。私なんかで良ければ、遠慮なく話して。ああ、場所を変えた方がいいかな――」
「あ、いや、今じゃなくて――今回の、領主様からの依頼が無事に終わった時に、聞いてもらいたいんだ」
「――そ、それは全然いいけど。今でなくて本当にいいの?」
依頼の達成――それを果たすまでにはきっと色々な事が起こりそうな気がする。
うん、どう考えてもただではすまなさそーです、はい。
それを考えると早い内に話しておいた方がいいんじゃないかと思うけれど――そう思って尋ねると、彼は少し慌てた様子を見せた。
「いや、その、今はちょっと無理というか、自信がないというか――なので、今度でお願いします」
「む、むむむ――? よ、よく分からないけど、守尋くんがそれでいいなら」
「うん、ありがとう。じゃあその、その時に」
「う、うん。その時に。――お互いにがんばろうね」
守尋くんは異世界に来る前、寺虎くんとよく話していた――内容は喧嘩的だったにせよ――間柄なので、彼との相対には複雑な気持ちだろう。
きっと、未来への展望というか、そういう気持ちへの後押しが何かしら欲しかったんじゃないだろうか。
だからこその、私への『話したい事』なんじゃないかなと、私は思ったんだけど、どうかなぁ。
その推測が正しいかどうかは分からないし、そんな大事な気持ちの後押しが私に十全出来るとは思わない――ただ、せめてもの応援の気持ちを伝えたくて、私はエールを口にした。
すると彼は嬉しそうに笑って、親指を立ててくれた。
――逆に気を遣わせてないかなと心配だったが、流石に考え過ぎかなと苦笑しつつ、私はその場を後にした。
(しかし、話したい事――なんだろう。私何か知らない間に守尋くんにやらかしてたかな)
何度考えても思いつかず、首を傾げつつ歩いていた、その時だった。
「――ん?」
少しでも経験値が入ればと、基本開くようにしている私の『贈り物』である【ステータス】、その表示に名前が一つ浮かび上がった。
そして、それとほぼ同時に声が響いてきた。
「……八重垣――貴女、メッセージ、読まなかった?」
魔術の外灯の明かりが届かない暗がりからの聞き覚えのある声は、表示された名前と一致している。
ただ――その声は、普段の明朗快活さがなく、どこかほの暗いものであった。
「え?」
「『お前は調子に乗り過ぎた。その報い、いつか受けてもらう』――あれ、ああしたら止まってくれると思っての警告だったんだけどなぁ」
え? え? なんだか、えと、その、怖いんですけど。すごく。
なんというか、声音がすごく冷えてるというか――。
というか、それって、少し前に私のドアに張られてたいたずらの――?
「あ、あの、なんのこと――ひぇぇぇぇっ!?」
その瞬間、私は思わず叫んでいた。叫ばずにはいられなかった。
暗がりの中から、らしくない声と共に現れたのは――伊馬廣音さん。
彼女の右手には魔術用の杖が、そして左手には――護身用と思われるナイフが握られていて。
「それでも調子に乗っちゃうなら――少し話し合わないとね?」
彼女は、大きく目を見開きながら、ニッコリと笑顔を浮かべていた。
いやいやいや、怖い怖い怖いぃー!!?
星が綺麗な夜空の下、私・八重垣紫苑は歩きつつ、今日の疲れを振り払うように身体を伸ばしております。
師匠からの素敵な心遣いのあと、鍛錬そして買い物――予定よりも短い時間で終わったけど、ある人達と出会った事で最終的には予定どおりの時刻となった――を終えた私達は、私達異世界人用の寮へと戻った。
それからいつものように夕食後に互いの報告を終えて、明日の予定を立てて、お風呂に入り――今に至る。
ちなみにレーラちゃんは眠たそうにしていたので、酒高さんに頼んで速めのお風呂&睡眠と相成りました。
昨日の出来事がふと頭を過ぎるけれど、エグザ様がもう危険はないと語っていた事も思い出したので、私の思考は明日の事へと移り変わっていた。
明日は今日新たに教わった事と貰ったものも含めて鍛錬しないと。それから――。
そうして考えながら自室に向かって歩みを進めていた時だった。
「あ、こんばんは、八重垣さん」
寮の庭先で腕立てとかの簡単なトレーニングをしていた守尋巧くんが、こちらに気付いて声を掛けてきた。
――気を散らさないように黙って通り過ぎるつもりだったんだけど……。
「え、えと、こ、こんばんは。トレーニングの邪魔しちゃった?」
だったら申し訳ないなぁと思いながら尋ねると、守尋くんはぶんぶんぶんっ!と力強く首を横に振った。
「いやいやいや、姿を見かけたからなんとなくにね、うん」
「そ、そう――邪魔してないなら良かった」
熱心にトレーニングしていたのか、魔術の外灯で照らされる守尋くんは上気している様子であった。
それから、何故かは分からないけれど何処か落ち着かなそうにそわそわしているようで――むむ、ホントに邪魔してないのか、ちょっと心配。
「――じゃ、じゃあ、私はこれで」
「あ、ちょ、ちょっと待って」
早めに去った方がいいかもと歩みを再開しようとした瞬間、守尋くんがそれを制止した。
「ん? な、何か用事? 明日の事の確認とか?」
「いや、そうじゃないんだけど――」
守尋くんはそう言ってから、しばらく言葉を探すように視線を彷徨わせた。
だけど、いつまでもそうしていられないとばかりに顔を上げて、私の顔を見据えて言った。
「あのさ、八重垣さん……実は、君に少し話したい事があるんだ」
ああ、さっきまでの様子はそれでだったのか、と納得する。
おそらく何かしら話し難い事なんだろう――何か女の子関係の相談事とかかな?
いや、それだったら幼馴染の伊馬《いま》さんに訊けばいいんじゃないかな――むむむ、思い浮かばない。
まぁなんにせよ、話があるというなら聞かない理由はない。
人の良い守尋くんの相談事なら尚更だ。
「そ、そうなんだ。私なんかで良ければ、遠慮なく話して。ああ、場所を変えた方がいいかな――」
「あ、いや、今じゃなくて――今回の、領主様からの依頼が無事に終わった時に、聞いてもらいたいんだ」
「――そ、それは全然いいけど。今でなくて本当にいいの?」
依頼の達成――それを果たすまでにはきっと色々な事が起こりそうな気がする。
うん、どう考えてもただではすまなさそーです、はい。
それを考えると早い内に話しておいた方がいいんじゃないかと思うけれど――そう思って尋ねると、彼は少し慌てた様子を見せた。
「いや、その、今はちょっと無理というか、自信がないというか――なので、今度でお願いします」
「む、むむむ――? よ、よく分からないけど、守尋くんがそれでいいなら」
「うん、ありがとう。じゃあその、その時に」
「う、うん。その時に。――お互いにがんばろうね」
守尋くんは異世界に来る前、寺虎くんとよく話していた――内容は喧嘩的だったにせよ――間柄なので、彼との相対には複雑な気持ちだろう。
きっと、未来への展望というか、そういう気持ちへの後押しが何かしら欲しかったんじゃないだろうか。
だからこその、私への『話したい事』なんじゃないかなと、私は思ったんだけど、どうかなぁ。
その推測が正しいかどうかは分からないし、そんな大事な気持ちの後押しが私に十全出来るとは思わない――ただ、せめてもの応援の気持ちを伝えたくて、私はエールを口にした。
すると彼は嬉しそうに笑って、親指を立ててくれた。
――逆に気を遣わせてないかなと心配だったが、流石に考え過ぎかなと苦笑しつつ、私はその場を後にした。
(しかし、話したい事――なんだろう。私何か知らない間に守尋くんにやらかしてたかな)
何度考えても思いつかず、首を傾げつつ歩いていた、その時だった。
「――ん?」
少しでも経験値が入ればと、基本開くようにしている私の『贈り物』である【ステータス】、その表示に名前が一つ浮かび上がった。
そして、それとほぼ同時に声が響いてきた。
「……八重垣――貴女、メッセージ、読まなかった?」
魔術の外灯の明かりが届かない暗がりからの聞き覚えのある声は、表示された名前と一致している。
ただ――その声は、普段の明朗快活さがなく、どこかほの暗いものであった。
「え?」
「『お前は調子に乗り過ぎた。その報い、いつか受けてもらう』――あれ、ああしたら止まってくれると思っての警告だったんだけどなぁ」
え? え? なんだか、えと、その、怖いんですけど。すごく。
なんというか、声音がすごく冷えてるというか――。
というか、それって、少し前に私のドアに張られてたいたずらの――?
「あ、あの、なんのこと――ひぇぇぇぇっ!?」
その瞬間、私は思わず叫んでいた。叫ばずにはいられなかった。
暗がりの中から、らしくない声と共に現れたのは――伊馬廣音さん。
彼女の右手には魔術用の杖が、そして左手には――護身用と思われるナイフが握られていて。
「それでも調子に乗っちゃうなら――少し話し合わないとね?」
彼女は、大きく目を見開きながら、ニッコリと笑顔を浮かべていた。
いやいやいや、怖い怖い怖いぃー!!?
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