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43 他の人から見た自分って、自分が思うのと違う事あるよね

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「え、ええと、あ、阿久夜あくやさん、えと、なんで私なのかな――?」

 私・八重垣やえがき紫苑しおんは、いきなり向けられた怒りに戸惑い、呟いた。
 向けてきたのは、クラスメートにして今は対峙する状態となっている阿久夜あくやみおさん。

 彼女が言う所には、同じくクラスメートである堅砂かたすなはじめくんが彼らしくなくなったのは私のせい――らしい。
 多分文脈からするとそういう事なのだろうけどねー。

「そもそも堅砂くんは今も堅砂くんらしいと思うんだけど」

 だけど、らしくなくなったりはしてないんじゃないかな?
 堅砂くんは勝つために手段を問わず出来る事をする人だろう。

 とは言っても、問わない中でちゃんと選ぶべき所を選んでいるというか。
 卑怯……というか人の道から外れるような事まではきっとしない、そういう人だと私は認識しているし、きっとそれは間違いじゃないと思うなぁ。
 ――多分そのギリギリまでは攻めそうな感じはありますけどね、ええ。  

 なんだけど、阿久夜さんはそう思っていなかったようだ。
 不愉快な表情のままで彼女は私を睨み続けていた。

「何処が――! クラスメートになったばかりの頃の彼なら貴方達の事など怪我をしようが死のうが見向きもしなかったはず――」
「いや、その頃でも流石にそこまで冷たくないつもりだが」
「そうだよなぁ」
「(コクコク)」

 あまりの言い様に堅砂本人が顔を引きつらせ、守尋くんが突っ込み、私も2人の言葉に首を縦に振った。

「ああ、以前の全てをゴミを見るような目で見ていた貴方はどこに行ったのやら――!」
「聞けよ」

 だが、その意見を完全無視して阿久夜さんは舞台の上に立っているような身振り手振りで嘆いた。
 それだけを見れば実に綺麗で、彼女が自信を誇りに思うのも分かる。
 ――でも人の話は聞いた方が良いと思うよ、うん。

「それもこれも、人畜無害を装った毒婦――八重垣さん、貴方のせいです!」
「じ、じんちくむふがいをよそおったどくふ――?!」

 これまでの人生で色々言われた経験はあるけど、そんなセリフは初めてで驚きを隠せない。
 自慢じゃないけど頭はそんなに良くないのに毒婦呼ばわりは間違っていると思いますよ、マジで。
 なのでおそるおそる尋ねてみる。

「あ、あの、その、さ、参考までにお聞きしますが、私の――ど、どの辺に毒が?」
「存在そのものに決まってます。正直言って貴方は前々から目障りでした」
「えぇぇ――?」

 欠点が分かれば改善も出来るのだけど、流石にそれはどうしようもない。
 確かに私は欠点だらけだし、人に良い影響を与えられるような存在ではないけれど、流石に存在そのものを否定は……まぁしょうがないか私だもの☆

 ……いや、流石に直で言われると凹みますが!?

『気にするな、ただの難癖だ』
『そ、そうなのかなぁ――そうだといいけど』

 戸惑う私に堅砂くんが思考通話テレパシートークでフォローを入れてくれる。ただただ感謝です。
 そうしてフォローしてくれたお陰で冷静さを少し取り戻した私は思考を巡らせる。

 まあ、その――確かに、堅砂くんは変わったのかもしれない。

 以前の堅砂くんはこうして気遣いを形にする事はなかったんじゃないかな。
 でも、それは私と彼との関係性の変化によるもので、彼自身の変化じゃないと思う。
 ただ、そういう変化をなんとなくで感じているのなら――それが私のせいだというのは間違いじゃないのかもしれない。
 そ、そうだったらごめんなさいとしかいいようがないなぁ。

「そんな貴方の存在が彼を汚す事、わたくし耐えられません――何故なら……」

 そして、も、ももも、もしかして。

 阿久夜さんは――堅砂くんの事が好き――なのかな?
 だとすれば、彼女でもない私が彼と行動を共にする事が多いのが気にかかるのは当然のような。

「え、えと、阿久夜さん――」

 で、でで、であるならば、謝った上で誤解を解いておかねば!!
 今は緊急状況でそんな場合ではないのは分かっておりますが!
 これが乙女の一大事であるならば放置は出来ませんね、ええ!
 こういう事は話せる時に話しておかないと機会を逸してしまうものだしね。 

 あ、でも、それはそれとして、こんな状況での告白はよろしくないのでは?
 いや、本人が望むならそれはそれでいいんだけど、流石にもっとロマンチックな場所で二人きりの方が――!

 そう思って声を上げようとした時だった。

「堅砂くんは……世界で数少ない。このわたくしが見込んだ、オブジェなんです――!」
『――は?』

 そのタイミングで阿久夜さんが発した言葉に、その場のほぼ全員が異口同音の戸惑いの声を上げた。

 勿論私も含みます――オブジェってなに? どういうこと?

「端正な顔立ち、冷水のような表情、切れ長の美しい眼差し、そしてその内面もまた美しい氷のよう――!
 いずれわたくしが揃えるわたくしを引き立てる存在の一人として相応しいと見込んでいるんです……
 その存在意義が損なわれる事は、私の未来の美しさが損なわれるも同然!
 過去現在未来を問わず、わたくしの魅力を損なうものは、許せなくて当然です――!!」

 あー……――どうやら、乙女的な心配は、要らなかったようですね、ええ。

「ハァァァ……」
「いや、その、気にするなよ、堅砂――あっちが勝手に見込んでるだけなんだから」
「うん、あの主張は流石にスルーしていいと思う――落ち込まないで、ね?」
「あんなの無視よ、無視」
「ああ、あれは放っとけ。アイツがおかしいんだ」
堅砂かたっち、どんまい!」

 あまりの発言に守尋くん、私、伊馬いまさんのみならず、彼女側である正代ただしろさん、麻邑あさむらさんまでも堅砂くんを励ました。
 ちなみに寺虎くんは大爆笑していた――それもあって、私はちょっと正直ムッとしてしまった。

「あ、阿久夜さん、流石に今の言葉はどうかと思うよ、うん」
「――それです、毒婦」

 どう話したものかと考えながら声を上げた瞬間、阿久夜さんはビシィッと擬音が聞こえてきそうな動きで私を指さした。
 発言の意図が理解できず、私は首を傾げる。

「え?」
「わたくしが前々から貴方の事を気に食わなかったのは、そういう所です。
 普段は遠巻きから見ている癖に、いざとなれば正論と共にしゃしゃり出てきてインパクトを与える―――ズルですよ、ズル!! 
 そうして出番を奪われたら、わたくしが世界の中心になれないじゃないですかっ!」
「い、いやいやいや、奪ってない奪ってない……華やかな阿久夜さんと違って、私はただの陰キャだし」
「そこも気に食わないんです!」
「え、えぇぇ――?」
「貴方事あるごとに自分の事陰キャ呼ばわりしてますが、普通陰キャは目立たないんですよ!
 なんですか貴方!
 その容姿も相まって前々からそうですが、異世界に来てますます存在感醸し出して!?」
「????? そ、そんな事はないと思うけどなぁ、ねえ?」

 言っている事がさっぱり分からず、堅砂くんに尋ねる。
 すると――何故か堅砂くんは視線を逸らした。

 え? 何故に?
 不思議に思って周囲の人達に目を向けたのだが。

「隅の方でいつも笑ってるのは陰キャかも」
「話しかけたらいつもビクッとはしてるわね」
「確かに、暗いと言えば暗いけどなぁ」
「帳消しにするだけのもの持ってるよね……」

 目を逸らされたり、首を横に振られたり、あと何故か赤面されたりで、私の言葉への肯定は半分しか得られなかった。
 えええ……私的には訳が分からないんですががががが。

「忘れたとは言わせませんよ……! 
 あれは体育大会、クラス対抗戦のリレーで、アンカーの一人前の子が前の競技で足を痛めて走れなかった時の事――」

 その時の事は覚えている。
 アンカーの伊馬さんと準アンカーの紙駒かみごまさんで一気に追い上げる作戦だった。
 そんな責任重大の役割なので、みんな簡単には引き受けられない状況だった。
 だから、誰も引き受けないなら『私で良ければ』とおずおずとこわごわと立候補しただけ――だったと思うけど。

「皆からわたくしが推薦されて、その美しい走り姿を披露、さらに勝利を決定的なものにする事でわたくしの存在を知らしめようと思っていたのに!
 貴方が横から『よ、よかったら私に任せて』とか割とクールに言ってのけて! 
 さらに全員を抜き去った上でバトンを渡す始末!!」
「速かったな」
「うん、八重垣さんおそろしく速かった」
「かっこよかったわよね」
「球技大会でもそう!
 9回裏一点差2アウトの状態で代打を引き受けて鮮やかにスリーベースヒット……!!」
「初球打ちで恐れ入ったな」
「しかもビビらせようとした悪球を一刀両断」
「スカッとしたわね……」
「そ、そんなだったっけ――?」 

 認識の齟齬に私は思わず首を傾げる。
 そもそも勝利を決定的にしたのは私じゃないと思うけど。
 後を次いで走ってくれた伊馬さんや、その後ホームランを打った守尋くんがそうだと思うし。

 私の思い出的にはどちらもおっかなびっくりで挑んでどうにか責任を果たしたけど、緊張感でボロボロなだけだったような。
 皆からお礼の言葉ももらったけれど、しどろもどろでしか答えられず恥ずかしい思いをして、私は陰キャだなぁと痛感したのに。

 だというのに――阿久夜さんは私を再度指さして、こう告げた。

「貴方、傍から見たらクラスの窮地を救う……いざという時は頼りになる主人公じゃないですかっ!」
「えぇぇぇ?!」
「いや、それは流石に言い過ぎだと思うが。そこまで凛々しくはない」
「でも時々陰キャか?って思う時あるよな、八重垣さんは」
 
 人付き合いがが下手で、皆と仲良く出来ない自分が不甲斐無くて、今も過大評価に恐れ戦いている私が陰キャでなかったらなんだというのか。
 だけど、阿久夜さんにとっての私はそうではなかったようで。

「い、いやいやいや、どう考えても私はただの陰キャだよ、うん」

 そんな私の言葉が最後の引き金になったらしく、阿久夜さんの眉がピクッと大きく跳ね上がった。

「――まぁいいです。
 なんにせよ、八重垣紫苑……貴方の存在は私にとって目障りこの上ない」
「ああ、俺にとっての堅砂や守尋だな、分かるぜ」
「野蛮人――寺虎くんに同意するのは気が進みませんが、そんな貴方がたを教育するのに、今回うってつけの機会のは間違いないわけでして。
 依頼がなくてもわたくしたちは動いていましたよ」

 そう言って、阿久夜さんはパチィンッと指を鳴らした。
 強く大きく響き渡ったそれは、それまで停止していた魔物達を再び動かす合図だった。

「さぁ、貴方達の大ピンチの再開です――! 精々楽しませてくださいね」

 そう言って阿久夜さんは笑った。魅力的に、妖しく、楽しそうに。
 ――全く違うはずなのに、レーラちゃんの笑顔を思い出させるような……そんな無邪気さを露にしながら

 
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