上 下
19 / 135

18 今は届かない領域でも、手を伸ばさない理由にはならないですよね

しおりを挟む
「――では、いきますっ!!」

 私・八重垣やえがき紫苑しおんのイメージと共に、魔力の塊は勢いよく次々と射出、スカード師匠へと降り注いでいった。

 この魔力の塊の射出による攻撃も、昨日橋を作った後に発想として浮かんでいたので、時間の合間に少しだけ試していた。
 と言っても、今の規模で試したわけではなくて、ごく小さな――割りばし位のスケールでやってみたのです。
 周囲に迷惑かけちゃいけないからね、うん。

 私自身を空中に浮遊させる事は難しかったけど、魔力の塊を浮かび上がらせるのはさして難しくなかった。
 そして、それを速度を持って撃ち出す事も、思ったより簡単にイメージできた。

 最初に空中にフックを作ってその上に塊を乗せて、その後部から魔力をぶつけて射出する一連の流れ。
 そうして放たれた割りばしサイズ魔力の塊は――まぁ正直威力は皆無だった。
 というか普通に割りばしを落としたのと変わらないというか。射出した塊残ってたし。

 なので更にそれにイメージを重ねて、塊が触れた瞬間、魔力が破裂するようにやってみた。
 一応できたのだけど、それも威力はちょっと花火よりもささやかに魔力が破裂する程度。
 しかも、イメージが完全じゃないからなのか、破裂しない場合もあった。

 で、現在――正直まだ未完成なのはわかりきっていた。
 実際、師匠は軽くかわすし、ちゃんと炸裂したのは半分程度の数。

 そもそもだ。
 昨日許可を得て見せてもらった師匠のレベルは――255。
 魔力以外のステータス全てが最早私では足下に及ばないなんてレベルじゃない、路傍の石ころ以下だ。

 勝てるはずはない。絶対に勝てない。
 だけど、今はそんな事を考えない。

 そして、絶対に勝てない、というのは、一つ間違いないプラスな面がある。
 すなわち、
 
 であるならば、何もかも気にせずに、師匠の思惑通りに力を振り絞れるってものです。
 ――堅砂くんがいてくれるお陰で、レーラちゃんの事を気にせずに済むのもありがたい。

「フゥゥゥッ!!」

 息を吐きながら全身に流れる魔力を感じ取って――足に流れる分を増強させるブーストする
 直後、私は自身の想像を上回る速度で地面を蹴っていた。
 これに関しては試す時間がなかったのでぶっつけ本番――というのがやはりまずかったのか、思った以上の速度に、私の認識が追い付かなかった。

 師匠へと殴り掛かるもこちらも簡単に回避された上、勢い余って転び回った。

「発想はいい。だが制御もままならないんじゃお粗末だな」

 当然隙が生まれる私に、師匠が接近する。
 ――正直、動きがまるでよく分からなかった。
 師匠は何か普通に一歩踏み出しただけのように見えたのに、それだけで私のさっきの動きよりも遥かに速い。

 だけど、来るルートが分かっているのなら――!

「フゥッ!」 

 私は転びながらイメージしていたブロック位の大きさの魔力を射出する。
 ――が、やはりまだ訓練が足りないのか、想定よりも若干下の位置で具現化、射出された。

 だけど、私の『遅さ』と師匠の『速さ』が噛み合ったお陰でブロックは師匠の直前で放たれ、衝突した。
 パァンッ!と炸裂音が鳴り響く。

「―― 一応喰らったが、やっぱり大した威力じゃないな」

 当然師匠は無傷――分かり切っている。

 だから、私の本命は別なんだよね、これが!

「ハァァァッ!!」

 炸裂する直前、体勢を立て直した私は自分の真下に魔力の塊を発生、それによって
 空中で私は右足を大きく振り上げて、渾身の力で振り下ろすかかと落とし

「――へぇ」

 どこか感心したような声を漏らす師匠の頭上に、私が降り下ろした、落下の分の威力も含めた右足がクリーンヒット――!!
 確実に全力を叩き込めた、そんな手応えはあった。
 
 だけど。

「型は綺麗だが――軽すぎる」

 師匠は微動だにしなかった。
 直後、無造作に私の右足を掴み、いかにも軽く、ひょいっといった風情で放り投げる。

 だがそれは、そんな軽いものではなかった。
 私は陸上選手が投げるハンマーよろしく、凄まじい勢い、速度を体感して、意識が飛びそうになる。

「ひょわぁぁぁっ……?!」

 どうにか意識を繋ぎ止め、体勢を整えようと思考した瞬間、の放つ拳が私の腹部に突き刺さった。

「げふぅっ?!!」

 口の中から何かの液が吐き出された直後、私はそのまま地面に打ちのめされる。 
 全身の痛みに堪えながら・咳き込みながら、起き上がろうとするも―――。

「ッ?!」

 ビキィッ、と身体の左側で砕け折れる音が内外から響く。
 それに反応する間もなく、私は大きく大きく弾き飛ばされて、その先にあった大木に叩きつけられ、地面に転がった。

「――正直、予想外の戦法で挑まれて驚いた。だが、そんなのはただの付け焼刃だ」

 私にゆっくり歩み寄りながら、師匠が告げる。

「発想自体は良い……お前さんなりに全力を出そうとしたのも評価しよう。
 だが、馴染みのない動きをすれば、当然そこには無駄が生まれる。
 さっきの攻防の中で一番マシな攻撃だったのは、踵落としだけだ。
 あれだけはおそろしく綺麗だったし、無駄もなかった。
 アレにある程度の速度と力が伴えば、俺にダメージを与える事も出来ただろうが、如何せん足りなかったな。
 まだ手加減する余裕が――ん?」
「おねえちゃん!!」
「あ、馬鹿!!」

 倒れ伏している私の少し向こう側に、レーラちゃんが両手を広げて立つ姿が見えた。
 
「おねえちゃんをいじめないで――!」
「――っ。ああ、いや、なんだ、俺はいじめてるんじゃないんだが。
 これはお姉ちゃんの要望に応えて、強くしてる最中で――」
「フゥゥゥッ!」
「いや、威嚇されても困るんだが――」

 いやぁ……なんというか――実に参りました。
 こんなものを見せられたら、元気百倍、倒れたままではいられないってなものです。

「あ、あはは、ごめんごめん、レーラちゃん。勘違いさせちゃって。
 その人は――私の師匠は、私を強くするためにやってるだけで、いじめじゃないんだよ。
 だから心配しないで?」

 そう言って起き上がった私は、心配をさせないように左手でピースサインを形作った――んだけど、なんか違和感が。

「おねえちゃんの手、なんか変になってるぅぅ――!?」
「八重垣、君、左手が圧し折れて、なんかすごい状態なんだが――」

 あ、ホントだ。
 レーラちゃんと彼女を連れ戻そうとやって来た堅砂かたすなくんの指摘で気付く。
 左手が不注意で倒した可動フィギュアみたいに人ではありえない感じになってる。

 ――勿論超絶痛いです、はい。
 レーラちゃんや堅砂くんを心配させないために堪えまくっておりますが、ぶっちゃけ泣きそうです。うぎぎぎぎ。

 だけど、それを顔には出さずに私は今度は親指を立てたサムズアップ

「だ、大丈夫大丈夫。このぐらいでめげてられないからね」
「お、おねえちゃん……」
「脂汗出まくった状態でそれを言われても説得力ないんだが」

 むしろ逆に引かせてしまったようだった。うーむ、ままならないなぁ。
 でも、それでも。

「でも、本当に大丈夫。
 師匠は今、色々な事を私に教えてくださっている最中だから、それをしっかり学ばないと」

 心だけはまだまだ行ける。その位に私の中には気合が充填されております。
 ふふふ、子供に心配かけまいと力を振り絞るってヒーローっぽいよね――うふふふふ。
 
 それに、事前に回復アイテム使用をあえて見せてくれたのも大きい。
 あれは師匠自身への攻撃の躊躇いを無くす為でもあり、こちらへも怪我を心配する必要はないというメッセージでもあるんじゃないかな。

 だから――。

「だから、私はまだまだ大丈夫。
 心配してくれてありがとう、レーラちゃん、堅砂くんも。
 すみません、お待たせしました」  

 私は迷いなく進み出て、構えて、師匠へと再び対峙する。
 そんな私を見て師匠は、小さく苦笑いを浮かべた。

「ちゃんと反撃を想定していたみたいで安心した。
 こっちがただ受けるだけの組手だと思ってて大泣きされるんじゃないかと、ちょっと焦ったぞ」
「いやいや、攻撃するんですから攻撃されるのは至極当然です」

 ――まぁ、思った以上にボコボコにされて色々と痛んではいますが。

 だけど。
 
「というか、すみません。確かに見苦しい付け焼刃でした。
 次は慣れた動きの中で工夫してみます」

 抑えつけていたものを解き放つ感覚、もう少しでものにできそうな感覚がある。
 それが出来たら、ほんの少し、少しだけでも強くなれる気がした。
 私がなりたい私に――誰かの力に、誰かの助けになれるような、立派な人間に、一歩でも近づける気がした。
 私が八重垣紫苑というゴミに限りなく近い存在の生存を許せる、小さな力になりそうだった。

 だから痛みを、全身を流れる汗を気にしてはいられず――私は折れた左手の拳を固く握りしめる。
 うぐぎひひひ……まだまだやれますとも、ええ。

「――なんか、妙に生き生きしてるな。少し前と違って全然どもりもしてないし。
 戦うのが好きなのか、紫苑は」
「……。そのつもりはないんですけどね」
「ふむ、まあいい。
 悪いな、余計な事を考えさせた……忘れて思いっきり来い」

 若干戸惑う私に、師匠は獰猛な笑みを浮かべて見せた。

 何故だろうか。
 私にはそれがすごく楽しそうに見えた。
 
 ……
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

10秒あれば充分だった

詩森さよ(さよ吉)
ファンタジー
俺、黒瀬透は親友たちと彼女とともに異世界へクラス召喚に遭ってしまった。 どうやら俺たちを利用しようという悪い方の召喚のようだ。 だが彼らは俺たちのステータスを見て……。 小説家になろう、アルファポリス(敬称略)にも掲載。 筆者は体調不良のため、コメントなどを受けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。

天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。

朱本来未
ファンタジー
 魔術師の大家であるレッドグレイヴ家に生を受けたヒイロは、15歳を迎えて受けた成人の儀で盗賊の天職を授けられた。  天職が王家からの心象が悪い盗賊になってしまったヒイロは、廃嫡されてレッドグレイヴ領からの追放されることとなった。  ヒイロは以前から魔術師以外の天職に可能性を感じていたこともあり、追放処分を抵抗することなく受け入れ、レッドグレイヴ領から出奔するのだった。

隣のクラスの異世界召喚に巻き込まれたジョブ「傍観者」

こでまり
ファンタジー
教科書を忘れてきてしまった希乃葉(ののは)は隣のクラスの親友である美月葉(みつは)に教科書を借りに教室を訪れる。しかし彼女の席にその姿は無く首を傾げていると美月葉の隣の席の男子が彼女は朝から来ていないことを教えてくれた。美月葉の机は空。教科書を借りられず肩を落としていると見かねた美月葉の隣の席の男子、湊(みなと)が貸してくれるという。教科書を受け取り何かお礼をと声をかけたそのとき、教室の床が眩く光った。景色が一変し、絢爛な広間に希乃葉たちは立っていた。どうやら異世界にクラス丸ごと召喚されたらしい。ステータスと唱えれば自身のステータスが分かると言われその通りにしてみれば希乃葉のジョブには「傍観者」の文字があった――… 当作品は小説家になろうでも掲載しております。

新人神様のまったり天界生活

源 玄輝
ファンタジー
死後、異世界の神に召喚された主人公、長田 壮一郎。 「異世界で勇者をやってほしい」 「お断りします」 「じゃあ代わりに神様やって。これ決定事項」 「・・・え?」 神に頼まれ異世界の勇者として生まれ変わるはずが、どういうわけか異世界の神になることに!? 新人神様ソウとして右も左もわからない神様生活が今始まる! ソウより前に異世界転生した人達のおかげで大きな戦争が無い比較的平和な下界にはなったものの信仰が薄れてしまい、実はピンチな状態。 果たしてソウは新人神様として消滅せずに済むのでしょうか。 一方で異世界の人なので人らしい生活を望み、天使達の住む空間で住民達と交流しながら料理をしたり風呂に入ったり、時にはイチャイチャしたりそんなまったりとした天界生活を満喫します。 まったりゆるい、異世界天界スローライフ神様生活開始です!

器用貧乏の底辺冒険者~俺だけ使える『ステータスボード』で最強になる!~

夢・風魔
ファンタジー
*タイトル少し変更しました。 全ての能力が平均的で、これと言って突出したところもない主人公。 適正職も見つからず、未だに見習いから職業を決められずにいる。 パーティーでは荷物持ち兼、交代要員。 全ての見習い職業の「初期スキル」を使えるがそれだけ。 ある日、新しく発見されたダンジョンにパーティーメンバーと潜るとモンスターハウスに遭遇してパーティー決壊の危機に。 パーティーリーダーの裏切りによって囮にされたロイドは、仲間たちにも見捨てられひとりダンジョン内を必死に逃げ惑う。 突然地面が陥没し、そこでロイドは『ステータスボード』を手に入れた。 ロイドのステータスはオール25。 彼にはユニークスキルが備わっていた。 ステータスが強制的に平均化される、ユニークスキルが……。 ステータスボードを手に入れてからロイドの人生は一変する。 LVUPで付与されるポイントを使ってステータスUP、スキル獲得。 不器用大富豪と蔑まれてきたロイドは、ひとりで前衛後衛支援の全てをこなす 最強の冒険者として称えられるようになる・・・かも? 【過度なざまぁはありませんが、結果的にはそうなる・・みたいな?】

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

ちょっと神様!私もうステータス調整されてるんですが!!

べちてん
ファンタジー
アニメ、マンガ、ラノベに小説好きの典型的な陰キャ高校生の西園千成はある日河川敷に花見に来ていた。人混みに酔い、体調が悪くなったので少し離れた路地で休憩していたらいつの間にか神域に迷い込んでしまっていた!!もう元居た世界には戻れないとのことなので魔法の世界へ転移することに。申し訳ないとか何とかでステータスを古龍の半分にしてもらったのだが、別の神様がそれを知らずに私のステータスをそこからさらに2倍にしてしまった!ちょっと神様!もうステータス調整されてるんですが!!

ボッチはハズレスキル『状態異常倍加』の使い手

Outlook!
ファンタジー
経緯は朝活動始まる一分前、それは突然起こった。床が突如、眩い光が輝き始め、輝きが膨大になった瞬間、俺を含めて30人のクラスメイト達がどこか知らない所に寝かされていた。 俺達はその後、いかにも王様っぽいひとに出会い、「七つの剣を探してほしい」と言われた。皆最初は否定してたが、俺はこの世界に残りたいがために今まで閉じていた口を開いた。 そしてステータスを確認するときに、俺は驚愕する他なかった。 理由は簡単、皆の授かった固有スキルには強スキルがあるのに対して、俺が授かったのはバットスキルにも程がある、状態異常倍加だったからだ。 ※不定期更新です。ゆっくりと投稿していこうと思いますので、どうかよろしくお願いします。 カクヨム、小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

処理中です...