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「レオー。おウマさんになって」
「ええ? また?」
三歳になった俺の日課は、愛しの妹マリーのおウマさんになることだ。
異世界広しといえども、三歳児のおウマさんになる三歳児がいるだろうか?
「あらあら、いいわね。マリー」
クリスティーナが家事をしながら笑う。
我がコートネイ一家はランドル王国の勢力圏外であるイグロス帝国の片田舎、グマン村に引越していた。引越しの理由は俺の爆炎魔法。あの魔法による山火事で、ランドル王国の大臣にルドルフがあの辺りに住んでいるのではないかと疑われてしまったからだ。
クリスティーナはランドル王国と敵対しているイグロス帝国に身元を明かして匿ってもらおうと主張したが、宮中の権力闘争で破れた経験のあるルドルフはそれを望まなかった。
結局、俺達の一家は帝国の秘境とも言われるグマン村に居を構えた。もちろん、グマン村でも「コートネイ」という家名は名乗っていない。ただ単に、よくある名前である「ルドルフさん一家」と呼ばれていた。
俺としては田舎でも不便を感じたことはない。同年代の友達は全くいなかったが、まだ三歳ということもあったし、いつも妹のマリーを遊び相手としていた。
欲しいものはルドルフに頼めば大体何でも作ってくれるし、お小遣いも要求すれば無頓着にくれる。
アーティファクトを買い取ってくれる商人のヴァスコさんも、ルドルフを追ってグマン村に引越して来てくれた。もっとも彼は、ルドルフが売れるアーティファクトを作り続ける限りは、何処に住んでいても手紙を出せばすぐに来てくれるだろう。
目下のところ、田舎で困ることは食べ物にバリエーションがないということぐらいだろうか。
だが、三歳の俺は、どの道まだあまり固いものを食べられない。それに、俺は一歳半ぐらいまでクリスティーナの乳を吸っていたのだ。
一歳ぐらいからルドルフが「母乳はもういいだろう」とうるさかったけど。
このところルドルフは、本格的に地球の科学技術とこの世界の魔法技術を融合させる研究に入っている。既に様々な新魔法や新アーティファクトが開発されたようだ。
「うげえ」
おウマさん――俺のことだが――はマリーの重さに潰れてしまった。当然だ。いかに魔法の才能があっても筋力は三歳児なのだ。同じ大きさの人間を長時間支えられるわけがない。正直くたくただ。
「レオー。もっともっとー」
それでもマリーにくりくりの目を潤ませておウマさんをせがまれると、どうしても無理をしてしまう。ああ、マリーなんて可愛いんだ。成長したら女神のようなクリスティーナを超えるかもしれない。
最近はマリーに普通のスキンシップを避けられるようになったので、おウマさんが唯一の……
頑張ってみたが、またすぐにベシャッと潰れてしまった。
「マリー。あんまりレオに無理言っちゃダメよ」
クリスティーナが洗濯物を干しながら言った。
マリーは三歳児なのに賢いので、母親に言われたことをすぐに理解する。俺も三歳児だけどね。
「じゃあ、レオ、もりいこー」
――グマンの森か。
グマン村周辺が帝国の秘境と言われているのにはわけがある。帝国内部にありながら帝国に従属していない猫型の獣人が住む森がすぐ隣にあるからだ。
この世界には〝亜人〟と呼ばれている知的生物がいる。姿はほとんど人間なのだが、尻尾が生えていたり、獣のような耳が生えていたりするらしい。
俺も遠目に見かけたことはあるが、会話したことはないし、彼らのことを詳しくは知らない。
ちなみに、この世界では〝人間は〟すべて共通言語だ。これは、古代この世界を統一したマドニアという大帝国の影響である。マドニアは世界を統一し、統一言語、統一通貨、統一単位を強力に推し進めたのだ。やがて、マドニアは分裂して滅んだのだが、統一言語や単位といった恩恵は今も残っている。
一方で、マドニアは獣人をはじめとする亜人を人間とは区別して弾圧した。そのため獣人達は人間と同じ統一言語を使っていないのだ。……今でも一部で獣人差別が残っているみたいだけどね。
ただ、猫型獣人は人間に敵対的な亜人ではない。むしろグマン村の村人とはたまに食料を交換し合ったりするような関係にあるらしい。
「じゃあ行ってみようか。マリー」
「うん。いくー」
グマンの森には、亜人はいても魔物はいない。
この世界では魔力を持ち、人間を襲う生物を「魔物」とか「モンスター」と呼んでいる。人を襲う種類の動物であっても、ほとんど魔力を持たなければ厳密にはただの危険な野生生物とカテゴライズされるため、「魔物」とは呼ばない。ちなみにグマンの森には危険な野生生物もいない。
だから俺は、グマンの森なら安全だろうと判断したが、当然、三歳児の母親はそうは思わない。
「ちょ、ちょっと! 二人だけで森なんかに行っちゃダメよ」
「でも、レオがもうおウマさんはできないっていうしー」
クリスティーナがアーティファクトの図面を書いているルドルフに声をかける。
「パパ。レオとマリーが森に行きたいみたいなの。一緒に行ってあげて」
「ええ? 今、魔法で飛ばす人工衛星アーティファクトの図面がイイところなんだけどな~」
ルドルフは渋ったが、クリスティーナから「最近は研究ばかりで家族を蔑ろにしている」と指摘されると、ようやく立ち上がった。
ほんとだよ。ルドルフは一体何を作るつもりなんだろう。
「じゃあ行こうか」
そう言って、ルドルフはマリーを抱き上げる。俺は歩きか。
まあ、魔法使いにも体力は必要だ。子供のうちから体を鍛えておくのは悪くないだろう。
俺達は三人で家を出て、森を目指す。
猫型獣人の森は入口までなら何度も入ったことがある。俺がルドルフとこっそり魔法の訓練をしている場所もその辺だ。
訓練を続けて分かったのだが、俺の魔法の才能は大賢者と言われている父でも舌を巻くほどのものだったようだ。
だが、弱点もあった。威力のコントロールがほとんど利かないのである。いつでもその魔法の最大威力をぶっぱなしてしまう。
前のように辺り一帯を焼き払ってしまうようなことは流石になかったが、このグマンの森でも住んでいる獣人を相当驚かしていることだろう。迷惑をかけているのは自覚しているので、今はルドルフが作ってくれた魔力を封じる結界の中で訓練している。
本当は早く魔法の威力のコントロールを覚えたいのだが、「威力を抑えるなんて勿体ない。それは後にして今は魔力を伸ばそう」というのがルドルフの主張だった。
ルドルフは王族の魔法指南役だったのだ。言うなれば魔法教師の頂点である。ここは反発せずに言われたことをそのまま全力で吸収する方が良いのかな、と思う。
……そんなことを考えている間に、森の入口に到着した。この辺はまだ陽光がタップリ入る場所で、木々や地面の苔が青々としていて美しい。
ルドルフは心ここにあらずといった様子で、何やらブツブツと呟いていた。
「衛星アーティファクトが実現すれば、理論上は半径三十キロ以上の索敵と先制攻撃が可能になるはずだ」
……。話題を変えた方が良さそうだ。
「マリーはどうして森に来たかったの?」
「うんとね。ねこさんとおはなししたかったの」
え? ねこさんって、ひょっとして獣人のことだろうか?
◆◆◆
「マリー。ねこさんって獣人のことか?」
マリーに尋ねると、ルドルフが急に素っ頓狂な声をあげた。
「そうか! ゴーレムの人工知能を応用すれば、衛星アーティファクトの自動制御の問題を解決できるかも!」
どうやら、先ほどからルドルフをうんうん唸らせていた問題の解決策を思いついたらしい。
「レオ、マリー。ちょっと設計図を取ってくるよ。二人とも、僕が戻るまでここで待っていられるよね?」
マリーが元気よく答える。
「うん!」
「じゃあすぐに戻ってくるから。レオ、マリーを頼んだよ」
三歳児を森の中に置いて行く気か、この親は。
マリーを俺に任せてルドルフは家に戻ってしまった。……まあいいか。
ルドルフが駆けていく足音が聞こえなくなり、やっと静かになったと思っていると、いつの間にか俺達は何十匹もの猫に囲まれていた。
「げっ。何だこれ!?」
一応俺は、攻撃的な魔力を持つ生物……つまりは魔物を感知する魔法を展開しているつもりなのだが、まだ慣れていないから失敗してしまったのだろうか。
いや、たとえそうだとしても、ルドルフやクリスティーナが感知に失敗するとは思えない。グマンの森の入口なら十分に二人の感知範囲だと思うが、両親がやって来る気配もないのだ。どういうことだろうか。
俺はマリーを背後に庇いつつ、猫達を魔法で迎撃できる態勢をとった。
ところが、マリーは俺の前に出てしまう。
「あ、マリー駄目だ!」
マリーが急に猫の鳴き真似をする。
「にゃにゃにゃーにゃ」
へっ?
すると、マリーの声に呼応するように猫達も鳴きはじめる。
「にゃーにゃー」
「にゃっにゃにゃにゃ」
ひょっとして……
「マリー。この猫達と話しているのか?」
「うん。そうだよ」
マジかよ。ただの猫か山猫に見えるけど、こいつらは猫型の獣人でこの鳴き声は獣人の言語なんだろうか?
それなら、マリーが猫型獣人の言語を使って猫と会話していると解釈できる。
「この猫達って獣人なの?」
「じゅうじんってなに?」
俺も獣人に詳しいわけではない。遠目で耳や尻尾が生えている人間を何度か見ただけだ。
「いや、俺もよく分からないんだけど、猫達は人の姿に変身できたりするの?」
「きいてみるね。にゃにゃにゃーにゃにゃ?」
猫語にしても猫型獣人の言葉にしても、それを話せるマリーはどうなっているのだろうか。
「ただのねこだって」
マリーが猫の答えを通訳してくれる。
「そうなのか」
「でも、じゅうじんのむらにつれていってくれるって」
「マジか?」
猫耳、尻尾のついた獣人か。女の子の獣人もいるんだろうか? それはちょっと会ってみたい。
でも、猫と話せるのもマリーの妄想かもしれないしなあ。逆に、本当に猫型獣人の村に行くことができれば、マリーが猫語を話している可能性が高まるが。
「レオ。いこー?」
「う、う~ん」
俺は危険性も考えて躊躇していたが、マリーはさっさと数匹の猫についていってしまう。
確かに、猫達はマリーを案内しているように見えるし、感覚的には危険な感じはしない。村にいる獣人もいい人かもしれない。ええい! 行ってみるか。
太古には、人間にも目の前の生物が敵かどうか見分ける本能ぐらいはあったはずだ。
不意に、元の世界のイギリスに〝好奇心は猫を殺す〟という諺があったことを思い出す。過剰な好奇心が原因で命を落とすこともあるのでほどほどにしなさい、という戒めだ。
俺は今、まさに好奇心に負けて猫の道案内を受けているわけだが。
猫型獣人はグマン村の村人との交流もあるって聞いているし、きっと大丈夫さ。
猫達とマリーは獣道をどんどん進み、俺は警戒しながらその後ろをついていく。
「なあ、マリーはこの猫達のこと知っているの?」
「よくうちにあそびにきているよ」
「何だって? うちの周りには魔力を持たない暗殺者でも感知する魔法がいくつも仕掛けられているんだぞ。ルドルフやクリスティーナでも気がつかなかったっていうのか?」
「う~ん。ひとじゃなくてねこだからだよ。かくれんぼもとくいなんだよ」
……そうだったのか。確かに、人型じゃないから警戒網から漏れたのかもしれない。猫は隠密行動も得意そうだしな。
しかし、それは二つの国家から狙われているコートネイ家にとっては弱点といえるだろう。帰ったらルドルフに伝えなくては。
歩いている途中で、俺は木々に書かれた古代言語に気がついた。
これは結界だ! 結界の中に入ることを無意識に避けてしまう効果を持った古代言語が、辺りの木々にビッシリと書かれていた。
この様子だと、どうやら本当に猫型獣人の村に向かっているようだ。
さらに二十分ほど歩くと、森の木々が開けたところに小さな村があった。
村の中を歩いている子供達は人間に近いシルエットだが、本当に猫耳や尻尾が生えている。
「着いた! ……ってことは、マリーが話していた言葉は本当に猫語だったんだ。ならウチにこの猫達が遊びに来ていることも本当なのかも」
「うん! わたしぎゅうにゅうあげているよ」
そう言えば、クリスティーナが「牛乳がなくなるのが早い」とか言っていた気もする。
マリーは本当に一体どうなっているんだろう? 動物と話せるなんて、俺の魔法の才能よりも凄いんじゃないだろうか?
村にいる猫型獣人は何故か子供ばかりで、俺達の周りにわらわらと集まってきた。
年の頃は俺達と同じくらいに幼いようだ。
「にゃにゃにゃ!」
「にゃにゃにゃ~?」
「にゃっにゃっにゃ」
マリーと猫型獣人達と猫の鳴き声の大合唱になる。
俺には言っていることがサッパリ分からない。そう思っていると、マリーが説明してくれた。
「いっしょにあそぼうだってさ」
「本当かあ~? まあ、害意はなさそうだけど、結界を作って人間を入れないようにしている奴らだぞ」
完全に警戒を解くわけにはいかない。
そもそも人を遠ざけたいようなのに、どうして俺達は村に入れてくれたんだろうか? マリーは彼らに信用されているのだろうか。
「マリー。どうして俺達をここに入れてくれたのか聞いてくれ」
「それは貴方達が、まだ子供だからだよ」
何と、一人だけ耳も尻尾も黒い女の子の猫型獣人が人間の言語で答えた。黒猫なんだろうか。
「君は!? 人間の言葉を喋れるのか」
「おばば様と私だけね」
この女の子は五歳ぐらいに見える。無愛想だが相当可愛い。猫型獣人なのだから当たり前だけど、いわゆる猫目ってやつがとても良い。
「おばば様?」
「貴方達、ここに来てしまったのならおばば様に会って」
その子は俺の問いかけには答えず、それだけ言って去っていった。
マリーと猫型獣人達が話している。
「にゃにゃ?」
「にゃにゃーるいにゃーにゃ」
マリーはしきりに頷いたあと、教えてくれた。
「あのこはルナちゃん。おばばさまは、いちばんえらいひとだって」
なるほど。おばば様とやらはこの村の長老のようなものだろうか。
ルナって獣人の女の子が言っていたように、挨拶に行った方が良いかもしれない。
「マリー、おばば様は何処にいるの?」
「あのおうち」
村の中に一際古い東洋風にも見える社のような木造の建物があることに気がつく。
こんなもん最初からあっただろうか? ともかく行ってみよう。
社の中を覗くと、中は真っ暗で何も見えない。
「どうぞ、お客人。おあがりなさい」
漆黒の闇の奥から大人の女性の声が聞こえる。おばば様と聞いていたから年寄りかと思ったが、クリスティーナよりは少し年上といったぐらいの声だろうか。
意を決して中に入ってみる。マリーも元気よくあとに続いた。
「おじゃましまーす」
足を踏み入れて気づく。ここは謁見の間ではないだろうか。奥の方は見えなかったが、俺達が進むのに合わせて、ぽっぽっぽっと左右に魔法の火が灯り、どうやら広間らしいと分かった。
広間の奥は一段高くなっていて、そこに、やはり猫耳の女性が横たわっていた。微笑んでいるし、別に体調が悪いのではないだろう。キセルでも吸えば江戸時代の花魁に見える、妖艶さと貫禄がある。しかし、おばば様という呼ばれ方から予想していたようなお婆さんにはとても見えない。二十代前半から半ばぐらいのグラマラスな女性だ。
猫型獣人がゆっくりと口を開く。
「人間がこの村に入ってしまったか。まあこの村の子供達には人間と争うなと言っていたし、人間でも子供ならば安全だとも教えていたしな」
なるほど。人間の子供は無害だと教えていたのか。それはつまり、大人の人間は……警戒対象だということでもある。俺は少し警戒度を高めた。
だが、それを読み取られてしまったのかもしれない。
「む。お前らは少し普通の子供とは違うな。ひょっとして……心は大人か!」
そう言うと、目の前のグラマラスな猫型獣人は攻撃的な魔力を見せはじめた。
マズイ。かなり強力な魔力を感じる。自分の方が魔力量は勝っていると思うが、ここは敵のテリトリー。さらに、実戦経験は相手の方が遥かに上だろう。
見るからに強敵! 足が震えてしまう。
だが妹のマリーだけは守らなくてはならない。
「マリー下がれ! お前は逃げるんだ!」
「いや! おにいちゃんといっしょにいる!」
次の瞬間、目の前のおばば様と言われている猫型獣人から魔力が霧散していくのを感じた。
「どうやら心は人間の大人であっても、薄汚れているわけではないようだな」
冷や汗が流れ落ちた。おばば様とやらは敵意を解いてくれたようだ。
「どういうこと?」
マリーが首をかしげる。俺は、この獣人が大人の人間を警戒する理由が何となく分かっていた。
村に子供の獣人しかいないのが関係しているのだろう。
おばば様はマリーの質問に静かに答えた。
「獣人の大人はみんな人間に連れて行かれたんじゃ」
やはり……。それでも、俺はつい反論をしてしまう。
「でも、それをしたのはグマン村の人達じゃないよ」
「分かっている。イグロス帝国の政府の人間だろう」
イグロス帝国はその名の通り帝政国家で、昨今覇権主義を強めている。領土内に独立した亜人のテリトリーなど認めたくないだろう。
その上、帝国は獣人を二等国民――つまり、半奴隷扱いしていたはずだ。財産の所有権などは認めていない。
たとえ、獣人達がこのグマンの森に住むことを許されていても、彼らの財産は帝国のものだ。
彼ら自身が奴隷のように売られることはないものの、森の所有者である帝国にどのように扱われようと、帝国法の範囲内なのだ。
「ある日、イグロスの兵が村に来た。そして今後毎年、地方行政府とやらに百二十万ダラルの税を納めろと言ってきたのだ」
百二十万ダラル。俺の体感だけど、一ダラルは日本だったら大体百円ぐらいの価値だと思う。そうすると年間一億二千万円ぐらいか。
もちろん、こんな森で生活している獣人が払える額ではない。獣人達はそもそも貨幣経済で生きているわけではないのだ。
「毎年十万ダラルぐらいなら、グマン村の村人との交流を増やせば払えるかもしれぬ。そう交渉しに行った者達が帰って来なかった。次は戻って来ない者達を返してくれと交渉しに行ったが、結局誰も帰って来なかったのだ」
帝国は最初からこの森の獣人を潰すつもりなのかもしれない。
「最後は、残った者が帝都に直談判に行った。仲間を返してくれない場合は実力行使も辞さんとな」
「行ってしまったのか……」
憶測だけれども、猫型獣人の一人ひとりは相当強いようだ。このおばば様も相当な魔力を秘めていたし、身体能力も並みの人間より遥かに優れているのだろう。
それが逆に災いして、獣人の中には、人間などいざとなったら蹴散らしてやればいいと思っている者もいるそうだ。裏を返せば、帝国側も獣人達の個々の強さを警戒し、彼らの結束を恐れたというわけか。
「そう。私は止めたんだがな」
イグロス帝国はこの世界の二大強国の一角だ。少数の獣人が束になってもどうこうできるような相手ではない。
年間百二十万ダラルぐらいルドルフなら払えないこともなかったんだが、獣人の大人達が帝都に直談判に行った今となっては……
いやいや、俺は何を考えているんだ。ルドルフがカネを用意しても、カネの出処が疑われるに決まっている。俺達一家はランドル王国の大臣達や、母さんの実家であるヴァンテェンブルク王家に狙われているわけで、目立つのは厳禁なんだ。
「いなくなったじゅうじんのおとなたちはどうなったの?」
マリーがそう聞くと、おばば様と呼ばれている獣人は急に両腕を頭の後ろに組んで、胸を強調するセクシーポーズを取った。――意味が全く分からない。
「私はいくつに見える?」
「おばば様の年齢ですか?」
「おい。誰がおばば様だ」
え?
急におばば様はドスの利いた声を出す。出会った時よりも何か怖い。
「え、えっと。獣人の子供達からそう呼ばれているのではないのですか?」
「ルナだな。いいから、お前には私がいくつに見えると聞いているのじゃ」
「まあ二十一か二十二歳ぐらいですかね?」
一、二歳はサービスした。前世ではその方が無難に生きられたような気がするのだ。
おばば様は笑顔で頷いた。
「そうだろう? お前は二十一歳の女性をおばばと呼ぶのか?」
「いえ……呼びませんけど。あの、その、すみません」
確かに、見た目は若い女性だし、おばばとは呼べないだろう。
「ミラと呼べ」
「え? ミラ?」
「うむ。それが私の名だ」
「ああ、はい。ミラ様ですね」
「まあ話を元に戻そう。お前は二十一歳に見えるというが、実はその……それよりも少しだけ上だ。いや結構上かな……」
まあ、おばばという呼ばれ方から、本当はもっと上だと推測しているんだけれどなあ。
「上というと、どれぐらい?」
「その、そうだな。まあ、プラス八十ぐらい」
「百歳……なんですか?」
「うん」
見た目は若いおねーさんで、前世の自分の年齢から考えたら少し年上のお姉さんと呼べなくもないミラ様は、なんと百歳だった。
「……って、ちょっと、何で口に出して、百歳って言うの!?」
ミラ様は目に涙を溜めながら、真っ赤になって怒りだした。
「そんなこと言ったって、ミラ様が言い出したんじゃないですか?」
「ああ、そうだった。つまり私は、獣人は年をとっても肉体は若いままだと言いたかったのだ。二十歳ちょっとで見た目の年齢は止まるし、運動機能は死ぬ直前まで衰えない」
「そうだったんですか」
「そうじゃ。別に私の見た目が若いだろうと自慢したかったわけじゃない」
それだけの説明を聞くのに、大分回り道をさせられたような気がする。
「つまり、人間達にとっては色々と獣人の利用価値が高いということになる」
なるほど。やっと最悪の理由を理解した。
「ワシには人間の考えることは正確には分からないが、恐らく近いうちにグマンの森には帝国の軍隊が来るじゃろう」
俺もこの世界のことにまだ詳しくないが、多分、いや間違いなく当たっているだろうと思う。
帝国の対応を聞くと、無茶な課税も交渉に行った獣人を返さないのも、明らかに挑発目的。獣人達を怒らせて騒動を誘発し、森を攻める口実を得ようとしているとしか思えなかった。
「ところで、お前はこの森の入口で親と魔法の訓練をしている子供ではないか?」
やはり、魔法の訓練は獣人達にも気づかれていたようだ。
「あ、はい。そうです。驚かせちゃったかも。すみません」
「だから、お前の実力は分かっている。無理を承知で頼むが、力を貸してはもらえんか? お前とあの父親が私ら獣人に協力してくれるならば、帝国の兵を一、二度ぐらいは追い返すことはできよう」
俺は、つい顔をしかめてしまったので手で覆って隠す。確かに一度ぐらいなら追い返せるかもしれないが、それでどうする。帝国兵は公称で二百万。その気になれば、森をまるごと灰燼に帰すほどの部隊を何十回も送れる。そんなのを相手にして森を守るのはとても無理だ。
それに、ただでさえコートネイ家は二つの国家から狙われているようなものなのに、帝国にまで睨まれてはたまったもんじゃない。
「ごめん。ウチの家族は目立ったことはできないんだ」
「そうか……。いや、こちらこそ無理を言ってすまなかったな。お前達はいつでもこの村に遊びに来て良いぞ。歓迎しよう」
きっとこれはコートネイ家を懐柔しようとするミラ様の策だろう。ミラ様はコートネイ家が強大な力を持っていることが分かっているのだ。
だが如何に獣人達と仲良くなろうとも、コートネイ家が森の獣人達の味方をして、帝国と争うなど狂気の沙汰としか言えない。協力を拒否する以外に選択肢はなかった。
◆◆◆
獣人達を助けて欲しいという話を断ってからも、マリーと一緒にミラ様と少しだけ雑談を続けた。
しばらくして、俺達は社を出る。
社の外には先ほどの黒耳、黒尻尾の女の子、ルナがいた。
「あまり村に長居してほしくないから送るよ。帰り道が分からないでしょ」
獣人の村に来るまでの道中に魔法でマーキングをしていたので自力で帰ることもできたが、折角だから送ってもらうことにした。
マリーは歩きながらルナに色々と話しかけている。
「にゃにゃにゃーにゃ」
「にゃにゃにゃっ」
先に行く二人は楽しそうに猫語で会話している。
森の大木を通り過ぎたところにある、ちょっと高い段差で、前を歩くルナのショートパンツが俺の目の高さになった。ショートパンツから飛び出ている尻尾がフリフリと可愛い。
「にゃにゃー」
「にゃにゃにゃん」
マリーとルナは二人で盛り上がっていた。俺は猫語が分からないから、少しハブられている気持ちになってしまう。
「なあ、お前らはにゃーにゃーと何を話しているの?」
「んとねー。もりでみたけどレオのまほうはすごいって」
ルナにも見られていたのか。こっちも獣人を森で何度か見かけているから、その時かもしれない。
「す、凄いなんて言ってないよ。マリーが勝手に言っているんだからね」
「えー!? ほかにも、あのこわいおねえちゃんにもひるまなくてすごいって」
「い、言ってない。言ってないから!」
それも見られていたのか。全く気がつかなかった。
「言ってない。本当に言ってないよ。にゃにゃにゃにゃーにゃ!」
ルナは顔を赤くしてさらに先に進んでしまった。
あの時のミラ様の剣幕には本当にビビったし、マリーがいなかったら逃げ出していたかもしれない。そう考えると、あまり凄いとは言えないな。
しばらく森の中を歩き続けると、次第に見覚えのある景色に変わっていき、森の入口が近付いていることが分かった。
「レオー! マリー!」
遠くから俺達を呼ぶ声が聞こえる。
ルドルフが必死に俺達を探していた。アイツはもっと苦労して探せばいいんだ。
「じゃあ、私はこれで……」
ルドルフの姿を見て、ルナが去ろうとする。俺は慌ててルナを引き止めた。
「ちょっと待てよ。もうそろそろ夕飯の時間だし、ウチで飯でも食っていかないか?」
「え? 遠慮しておくよ」
俺は、マリーが森の猫達に牛乳をあげていたという話を思い出す。
「牛乳も沢山あるぜ。肉とか魚とかもあるしさ」
ルナは尻尾を立てた。確か地球の猫で言えばうれしい時の動きだが、まだ躊躇いがあるようだ。
「で、でも……親がいるんでしょ?」
「俺の親は人畜無害だよ。マリーも来て欲しいってさ」
「うん。きてきて」
マリーも大きく頷いて、ルナの手を取る。
「じゃ、じゃあ少しだけ……」
結局ルナはウチに来てご飯を食べ、そのまま泊まっていくことになった。
今、クリスティーナとマリーはルナと三人でお風呂に入っている。
俺も一緒に入りたいが、ルドルフと話す方が先だ。
「――という事情だったんだ」
俺はルドルフに経緯を説明した。
「なるほどね。そういうことか。獣人に興味はないけど、帝国には腹が立つね」
「お、おい。まさか……獣人に協力するつもりか」
「いや、そんなことはしないよ」
「……だよな」
職人肌のルドルフは、政治的な謀略などを憎む傾向が強いようだ。
それでも、ウチは目立ってはいけない。俺はルドルフに帝国に一泡吹かそうなど考えないでほしいと思っていたが、そんな心配はアッサリと否定してくれた。
翌朝、俺とルドルフとマリーでルナを森の入口まで送った。
一晩過ごしたルナは、最初に会った時のクールで硬い印象がとれて、大分笑ってくれるようになった。
ルナは恥ずかしそうに少しだけ手を振って、森の奥へ消えていった。
ひょっとしたら、近いうちにルナも帝国に……と思うと正直辛い。俺は考え込みながら我が家へ歩みを進める。さっきからずっと、ルドルフも押し黙ったままだ。
その時、マリーが言った。
「パパとレオなら、きっとたすけてあげられるよ」
マリーは全て分かっていたのだ。唐突な発言に驚いた俺とルドルフは、綺麗に「マリー」とハモってしまった。
「レオー。おウマさんになって」
「ええ? また?」
三歳になった俺の日課は、愛しの妹マリーのおウマさんになることだ。
異世界広しといえども、三歳児のおウマさんになる三歳児がいるだろうか?
「あらあら、いいわね。マリー」
クリスティーナが家事をしながら笑う。
我がコートネイ一家はランドル王国の勢力圏外であるイグロス帝国の片田舎、グマン村に引越していた。引越しの理由は俺の爆炎魔法。あの魔法による山火事で、ランドル王国の大臣にルドルフがあの辺りに住んでいるのではないかと疑われてしまったからだ。
クリスティーナはランドル王国と敵対しているイグロス帝国に身元を明かして匿ってもらおうと主張したが、宮中の権力闘争で破れた経験のあるルドルフはそれを望まなかった。
結局、俺達の一家は帝国の秘境とも言われるグマン村に居を構えた。もちろん、グマン村でも「コートネイ」という家名は名乗っていない。ただ単に、よくある名前である「ルドルフさん一家」と呼ばれていた。
俺としては田舎でも不便を感じたことはない。同年代の友達は全くいなかったが、まだ三歳ということもあったし、いつも妹のマリーを遊び相手としていた。
欲しいものはルドルフに頼めば大体何でも作ってくれるし、お小遣いも要求すれば無頓着にくれる。
アーティファクトを買い取ってくれる商人のヴァスコさんも、ルドルフを追ってグマン村に引越して来てくれた。もっとも彼は、ルドルフが売れるアーティファクトを作り続ける限りは、何処に住んでいても手紙を出せばすぐに来てくれるだろう。
目下のところ、田舎で困ることは食べ物にバリエーションがないということぐらいだろうか。
だが、三歳の俺は、どの道まだあまり固いものを食べられない。それに、俺は一歳半ぐらいまでクリスティーナの乳を吸っていたのだ。
一歳ぐらいからルドルフが「母乳はもういいだろう」とうるさかったけど。
このところルドルフは、本格的に地球の科学技術とこの世界の魔法技術を融合させる研究に入っている。既に様々な新魔法や新アーティファクトが開発されたようだ。
「うげえ」
おウマさん――俺のことだが――はマリーの重さに潰れてしまった。当然だ。いかに魔法の才能があっても筋力は三歳児なのだ。同じ大きさの人間を長時間支えられるわけがない。正直くたくただ。
「レオー。もっともっとー」
それでもマリーにくりくりの目を潤ませておウマさんをせがまれると、どうしても無理をしてしまう。ああ、マリーなんて可愛いんだ。成長したら女神のようなクリスティーナを超えるかもしれない。
最近はマリーに普通のスキンシップを避けられるようになったので、おウマさんが唯一の……
頑張ってみたが、またすぐにベシャッと潰れてしまった。
「マリー。あんまりレオに無理言っちゃダメよ」
クリスティーナが洗濯物を干しながら言った。
マリーは三歳児なのに賢いので、母親に言われたことをすぐに理解する。俺も三歳児だけどね。
「じゃあ、レオ、もりいこー」
――グマンの森か。
グマン村周辺が帝国の秘境と言われているのにはわけがある。帝国内部にありながら帝国に従属していない猫型の獣人が住む森がすぐ隣にあるからだ。
この世界には〝亜人〟と呼ばれている知的生物がいる。姿はほとんど人間なのだが、尻尾が生えていたり、獣のような耳が生えていたりするらしい。
俺も遠目に見かけたことはあるが、会話したことはないし、彼らのことを詳しくは知らない。
ちなみに、この世界では〝人間は〟すべて共通言語だ。これは、古代この世界を統一したマドニアという大帝国の影響である。マドニアは世界を統一し、統一言語、統一通貨、統一単位を強力に推し進めたのだ。やがて、マドニアは分裂して滅んだのだが、統一言語や単位といった恩恵は今も残っている。
一方で、マドニアは獣人をはじめとする亜人を人間とは区別して弾圧した。そのため獣人達は人間と同じ統一言語を使っていないのだ。……今でも一部で獣人差別が残っているみたいだけどね。
ただ、猫型獣人は人間に敵対的な亜人ではない。むしろグマン村の村人とはたまに食料を交換し合ったりするような関係にあるらしい。
「じゃあ行ってみようか。マリー」
「うん。いくー」
グマンの森には、亜人はいても魔物はいない。
この世界では魔力を持ち、人間を襲う生物を「魔物」とか「モンスター」と呼んでいる。人を襲う種類の動物であっても、ほとんど魔力を持たなければ厳密にはただの危険な野生生物とカテゴライズされるため、「魔物」とは呼ばない。ちなみにグマンの森には危険な野生生物もいない。
だから俺は、グマンの森なら安全だろうと判断したが、当然、三歳児の母親はそうは思わない。
「ちょ、ちょっと! 二人だけで森なんかに行っちゃダメよ」
「でも、レオがもうおウマさんはできないっていうしー」
クリスティーナがアーティファクトの図面を書いているルドルフに声をかける。
「パパ。レオとマリーが森に行きたいみたいなの。一緒に行ってあげて」
「ええ? 今、魔法で飛ばす人工衛星アーティファクトの図面がイイところなんだけどな~」
ルドルフは渋ったが、クリスティーナから「最近は研究ばかりで家族を蔑ろにしている」と指摘されると、ようやく立ち上がった。
ほんとだよ。ルドルフは一体何を作るつもりなんだろう。
「じゃあ行こうか」
そう言って、ルドルフはマリーを抱き上げる。俺は歩きか。
まあ、魔法使いにも体力は必要だ。子供のうちから体を鍛えておくのは悪くないだろう。
俺達は三人で家を出て、森を目指す。
猫型獣人の森は入口までなら何度も入ったことがある。俺がルドルフとこっそり魔法の訓練をしている場所もその辺だ。
訓練を続けて分かったのだが、俺の魔法の才能は大賢者と言われている父でも舌を巻くほどのものだったようだ。
だが、弱点もあった。威力のコントロールがほとんど利かないのである。いつでもその魔法の最大威力をぶっぱなしてしまう。
前のように辺り一帯を焼き払ってしまうようなことは流石になかったが、このグマンの森でも住んでいる獣人を相当驚かしていることだろう。迷惑をかけているのは自覚しているので、今はルドルフが作ってくれた魔力を封じる結界の中で訓練している。
本当は早く魔法の威力のコントロールを覚えたいのだが、「威力を抑えるなんて勿体ない。それは後にして今は魔力を伸ばそう」というのがルドルフの主張だった。
ルドルフは王族の魔法指南役だったのだ。言うなれば魔法教師の頂点である。ここは反発せずに言われたことをそのまま全力で吸収する方が良いのかな、と思う。
……そんなことを考えている間に、森の入口に到着した。この辺はまだ陽光がタップリ入る場所で、木々や地面の苔が青々としていて美しい。
ルドルフは心ここにあらずといった様子で、何やらブツブツと呟いていた。
「衛星アーティファクトが実現すれば、理論上は半径三十キロ以上の索敵と先制攻撃が可能になるはずだ」
……。話題を変えた方が良さそうだ。
「マリーはどうして森に来たかったの?」
「うんとね。ねこさんとおはなししたかったの」
え? ねこさんって、ひょっとして獣人のことだろうか?
◆◆◆
「マリー。ねこさんって獣人のことか?」
マリーに尋ねると、ルドルフが急に素っ頓狂な声をあげた。
「そうか! ゴーレムの人工知能を応用すれば、衛星アーティファクトの自動制御の問題を解決できるかも!」
どうやら、先ほどからルドルフをうんうん唸らせていた問題の解決策を思いついたらしい。
「レオ、マリー。ちょっと設計図を取ってくるよ。二人とも、僕が戻るまでここで待っていられるよね?」
マリーが元気よく答える。
「うん!」
「じゃあすぐに戻ってくるから。レオ、マリーを頼んだよ」
三歳児を森の中に置いて行く気か、この親は。
マリーを俺に任せてルドルフは家に戻ってしまった。……まあいいか。
ルドルフが駆けていく足音が聞こえなくなり、やっと静かになったと思っていると、いつの間にか俺達は何十匹もの猫に囲まれていた。
「げっ。何だこれ!?」
一応俺は、攻撃的な魔力を持つ生物……つまりは魔物を感知する魔法を展開しているつもりなのだが、まだ慣れていないから失敗してしまったのだろうか。
いや、たとえそうだとしても、ルドルフやクリスティーナが感知に失敗するとは思えない。グマンの森の入口なら十分に二人の感知範囲だと思うが、両親がやって来る気配もないのだ。どういうことだろうか。
俺はマリーを背後に庇いつつ、猫達を魔法で迎撃できる態勢をとった。
ところが、マリーは俺の前に出てしまう。
「あ、マリー駄目だ!」
マリーが急に猫の鳴き真似をする。
「にゃにゃにゃーにゃ」
へっ?
すると、マリーの声に呼応するように猫達も鳴きはじめる。
「にゃーにゃー」
「にゃっにゃにゃにゃ」
ひょっとして……
「マリー。この猫達と話しているのか?」
「うん。そうだよ」
マジかよ。ただの猫か山猫に見えるけど、こいつらは猫型の獣人でこの鳴き声は獣人の言語なんだろうか?
それなら、マリーが猫型獣人の言語を使って猫と会話していると解釈できる。
「この猫達って獣人なの?」
「じゅうじんってなに?」
俺も獣人に詳しいわけではない。遠目で耳や尻尾が生えている人間を何度か見ただけだ。
「いや、俺もよく分からないんだけど、猫達は人の姿に変身できたりするの?」
「きいてみるね。にゃにゃにゃーにゃにゃ?」
猫語にしても猫型獣人の言葉にしても、それを話せるマリーはどうなっているのだろうか。
「ただのねこだって」
マリーが猫の答えを通訳してくれる。
「そうなのか」
「でも、じゅうじんのむらにつれていってくれるって」
「マジか?」
猫耳、尻尾のついた獣人か。女の子の獣人もいるんだろうか? それはちょっと会ってみたい。
でも、猫と話せるのもマリーの妄想かもしれないしなあ。逆に、本当に猫型獣人の村に行くことができれば、マリーが猫語を話している可能性が高まるが。
「レオ。いこー?」
「う、う~ん」
俺は危険性も考えて躊躇していたが、マリーはさっさと数匹の猫についていってしまう。
確かに、猫達はマリーを案内しているように見えるし、感覚的には危険な感じはしない。村にいる獣人もいい人かもしれない。ええい! 行ってみるか。
太古には、人間にも目の前の生物が敵かどうか見分ける本能ぐらいはあったはずだ。
不意に、元の世界のイギリスに〝好奇心は猫を殺す〟という諺があったことを思い出す。過剰な好奇心が原因で命を落とすこともあるのでほどほどにしなさい、という戒めだ。
俺は今、まさに好奇心に負けて猫の道案内を受けているわけだが。
猫型獣人はグマン村の村人との交流もあるって聞いているし、きっと大丈夫さ。
猫達とマリーは獣道をどんどん進み、俺は警戒しながらその後ろをついていく。
「なあ、マリーはこの猫達のこと知っているの?」
「よくうちにあそびにきているよ」
「何だって? うちの周りには魔力を持たない暗殺者でも感知する魔法がいくつも仕掛けられているんだぞ。ルドルフやクリスティーナでも気がつかなかったっていうのか?」
「う~ん。ひとじゃなくてねこだからだよ。かくれんぼもとくいなんだよ」
……そうだったのか。確かに、人型じゃないから警戒網から漏れたのかもしれない。猫は隠密行動も得意そうだしな。
しかし、それは二つの国家から狙われているコートネイ家にとっては弱点といえるだろう。帰ったらルドルフに伝えなくては。
歩いている途中で、俺は木々に書かれた古代言語に気がついた。
これは結界だ! 結界の中に入ることを無意識に避けてしまう効果を持った古代言語が、辺りの木々にビッシリと書かれていた。
この様子だと、どうやら本当に猫型獣人の村に向かっているようだ。
さらに二十分ほど歩くと、森の木々が開けたところに小さな村があった。
村の中を歩いている子供達は人間に近いシルエットだが、本当に猫耳や尻尾が生えている。
「着いた! ……ってことは、マリーが話していた言葉は本当に猫語だったんだ。ならウチにこの猫達が遊びに来ていることも本当なのかも」
「うん! わたしぎゅうにゅうあげているよ」
そう言えば、クリスティーナが「牛乳がなくなるのが早い」とか言っていた気もする。
マリーは本当に一体どうなっているんだろう? 動物と話せるなんて、俺の魔法の才能よりも凄いんじゃないだろうか?
村にいる猫型獣人は何故か子供ばかりで、俺達の周りにわらわらと集まってきた。
年の頃は俺達と同じくらいに幼いようだ。
「にゃにゃにゃ!」
「にゃにゃにゃ~?」
「にゃっにゃっにゃ」
マリーと猫型獣人達と猫の鳴き声の大合唱になる。
俺には言っていることがサッパリ分からない。そう思っていると、マリーが説明してくれた。
「いっしょにあそぼうだってさ」
「本当かあ~? まあ、害意はなさそうだけど、結界を作って人間を入れないようにしている奴らだぞ」
完全に警戒を解くわけにはいかない。
そもそも人を遠ざけたいようなのに、どうして俺達は村に入れてくれたんだろうか? マリーは彼らに信用されているのだろうか。
「マリー。どうして俺達をここに入れてくれたのか聞いてくれ」
「それは貴方達が、まだ子供だからだよ」
何と、一人だけ耳も尻尾も黒い女の子の猫型獣人が人間の言語で答えた。黒猫なんだろうか。
「君は!? 人間の言葉を喋れるのか」
「おばば様と私だけね」
この女の子は五歳ぐらいに見える。無愛想だが相当可愛い。猫型獣人なのだから当たり前だけど、いわゆる猫目ってやつがとても良い。
「おばば様?」
「貴方達、ここに来てしまったのならおばば様に会って」
その子は俺の問いかけには答えず、それだけ言って去っていった。
マリーと猫型獣人達が話している。
「にゃにゃ?」
「にゃにゃーるいにゃーにゃ」
マリーはしきりに頷いたあと、教えてくれた。
「あのこはルナちゃん。おばばさまは、いちばんえらいひとだって」
なるほど。おばば様とやらはこの村の長老のようなものだろうか。
ルナって獣人の女の子が言っていたように、挨拶に行った方が良いかもしれない。
「マリー、おばば様は何処にいるの?」
「あのおうち」
村の中に一際古い東洋風にも見える社のような木造の建物があることに気がつく。
こんなもん最初からあっただろうか? ともかく行ってみよう。
社の中を覗くと、中は真っ暗で何も見えない。
「どうぞ、お客人。おあがりなさい」
漆黒の闇の奥から大人の女性の声が聞こえる。おばば様と聞いていたから年寄りかと思ったが、クリスティーナよりは少し年上といったぐらいの声だろうか。
意を決して中に入ってみる。マリーも元気よくあとに続いた。
「おじゃましまーす」
足を踏み入れて気づく。ここは謁見の間ではないだろうか。奥の方は見えなかったが、俺達が進むのに合わせて、ぽっぽっぽっと左右に魔法の火が灯り、どうやら広間らしいと分かった。
広間の奥は一段高くなっていて、そこに、やはり猫耳の女性が横たわっていた。微笑んでいるし、別に体調が悪いのではないだろう。キセルでも吸えば江戸時代の花魁に見える、妖艶さと貫禄がある。しかし、おばば様という呼ばれ方から予想していたようなお婆さんにはとても見えない。二十代前半から半ばぐらいのグラマラスな女性だ。
猫型獣人がゆっくりと口を開く。
「人間がこの村に入ってしまったか。まあこの村の子供達には人間と争うなと言っていたし、人間でも子供ならば安全だとも教えていたしな」
なるほど。人間の子供は無害だと教えていたのか。それはつまり、大人の人間は……警戒対象だということでもある。俺は少し警戒度を高めた。
だが、それを読み取られてしまったのかもしれない。
「む。お前らは少し普通の子供とは違うな。ひょっとして……心は大人か!」
そう言うと、目の前のグラマラスな猫型獣人は攻撃的な魔力を見せはじめた。
マズイ。かなり強力な魔力を感じる。自分の方が魔力量は勝っていると思うが、ここは敵のテリトリー。さらに、実戦経験は相手の方が遥かに上だろう。
見るからに強敵! 足が震えてしまう。
だが妹のマリーだけは守らなくてはならない。
「マリー下がれ! お前は逃げるんだ!」
「いや! おにいちゃんといっしょにいる!」
次の瞬間、目の前のおばば様と言われている猫型獣人から魔力が霧散していくのを感じた。
「どうやら心は人間の大人であっても、薄汚れているわけではないようだな」
冷や汗が流れ落ちた。おばば様とやらは敵意を解いてくれたようだ。
「どういうこと?」
マリーが首をかしげる。俺は、この獣人が大人の人間を警戒する理由が何となく分かっていた。
村に子供の獣人しかいないのが関係しているのだろう。
おばば様はマリーの質問に静かに答えた。
「獣人の大人はみんな人間に連れて行かれたんじゃ」
やはり……。それでも、俺はつい反論をしてしまう。
「でも、それをしたのはグマン村の人達じゃないよ」
「分かっている。イグロス帝国の政府の人間だろう」
イグロス帝国はその名の通り帝政国家で、昨今覇権主義を強めている。領土内に独立した亜人のテリトリーなど認めたくないだろう。
その上、帝国は獣人を二等国民――つまり、半奴隷扱いしていたはずだ。財産の所有権などは認めていない。
たとえ、獣人達がこのグマンの森に住むことを許されていても、彼らの財産は帝国のものだ。
彼ら自身が奴隷のように売られることはないものの、森の所有者である帝国にどのように扱われようと、帝国法の範囲内なのだ。
「ある日、イグロスの兵が村に来た。そして今後毎年、地方行政府とやらに百二十万ダラルの税を納めろと言ってきたのだ」
百二十万ダラル。俺の体感だけど、一ダラルは日本だったら大体百円ぐらいの価値だと思う。そうすると年間一億二千万円ぐらいか。
もちろん、こんな森で生活している獣人が払える額ではない。獣人達はそもそも貨幣経済で生きているわけではないのだ。
「毎年十万ダラルぐらいなら、グマン村の村人との交流を増やせば払えるかもしれぬ。そう交渉しに行った者達が帰って来なかった。次は戻って来ない者達を返してくれと交渉しに行ったが、結局誰も帰って来なかったのだ」
帝国は最初からこの森の獣人を潰すつもりなのかもしれない。
「最後は、残った者が帝都に直談判に行った。仲間を返してくれない場合は実力行使も辞さんとな」
「行ってしまったのか……」
憶測だけれども、猫型獣人の一人ひとりは相当強いようだ。このおばば様も相当な魔力を秘めていたし、身体能力も並みの人間より遥かに優れているのだろう。
それが逆に災いして、獣人の中には、人間などいざとなったら蹴散らしてやればいいと思っている者もいるそうだ。裏を返せば、帝国側も獣人達の個々の強さを警戒し、彼らの結束を恐れたというわけか。
「そう。私は止めたんだがな」
イグロス帝国はこの世界の二大強国の一角だ。少数の獣人が束になってもどうこうできるような相手ではない。
年間百二十万ダラルぐらいルドルフなら払えないこともなかったんだが、獣人の大人達が帝都に直談判に行った今となっては……
いやいや、俺は何を考えているんだ。ルドルフがカネを用意しても、カネの出処が疑われるに決まっている。俺達一家はランドル王国の大臣達や、母さんの実家であるヴァンテェンブルク王家に狙われているわけで、目立つのは厳禁なんだ。
「いなくなったじゅうじんのおとなたちはどうなったの?」
マリーがそう聞くと、おばば様と呼ばれている獣人は急に両腕を頭の後ろに組んで、胸を強調するセクシーポーズを取った。――意味が全く分からない。
「私はいくつに見える?」
「おばば様の年齢ですか?」
「おい。誰がおばば様だ」
え?
急におばば様はドスの利いた声を出す。出会った時よりも何か怖い。
「え、えっと。獣人の子供達からそう呼ばれているのではないのですか?」
「ルナだな。いいから、お前には私がいくつに見えると聞いているのじゃ」
「まあ二十一か二十二歳ぐらいですかね?」
一、二歳はサービスした。前世ではその方が無難に生きられたような気がするのだ。
おばば様は笑顔で頷いた。
「そうだろう? お前は二十一歳の女性をおばばと呼ぶのか?」
「いえ……呼びませんけど。あの、その、すみません」
確かに、見た目は若い女性だし、おばばとは呼べないだろう。
「ミラと呼べ」
「え? ミラ?」
「うむ。それが私の名だ」
「ああ、はい。ミラ様ですね」
「まあ話を元に戻そう。お前は二十一歳に見えるというが、実はその……それよりも少しだけ上だ。いや結構上かな……」
まあ、おばばという呼ばれ方から、本当はもっと上だと推測しているんだけれどなあ。
「上というと、どれぐらい?」
「その、そうだな。まあ、プラス八十ぐらい」
「百歳……なんですか?」
「うん」
見た目は若いおねーさんで、前世の自分の年齢から考えたら少し年上のお姉さんと呼べなくもないミラ様は、なんと百歳だった。
「……って、ちょっと、何で口に出して、百歳って言うの!?」
ミラ様は目に涙を溜めながら、真っ赤になって怒りだした。
「そんなこと言ったって、ミラ様が言い出したんじゃないですか?」
「ああ、そうだった。つまり私は、獣人は年をとっても肉体は若いままだと言いたかったのだ。二十歳ちょっとで見た目の年齢は止まるし、運動機能は死ぬ直前まで衰えない」
「そうだったんですか」
「そうじゃ。別に私の見た目が若いだろうと自慢したかったわけじゃない」
それだけの説明を聞くのに、大分回り道をさせられたような気がする。
「つまり、人間達にとっては色々と獣人の利用価値が高いということになる」
なるほど。やっと最悪の理由を理解した。
「ワシには人間の考えることは正確には分からないが、恐らく近いうちにグマンの森には帝国の軍隊が来るじゃろう」
俺もこの世界のことにまだ詳しくないが、多分、いや間違いなく当たっているだろうと思う。
帝国の対応を聞くと、無茶な課税も交渉に行った獣人を返さないのも、明らかに挑発目的。獣人達を怒らせて騒動を誘発し、森を攻める口実を得ようとしているとしか思えなかった。
「ところで、お前はこの森の入口で親と魔法の訓練をしている子供ではないか?」
やはり、魔法の訓練は獣人達にも気づかれていたようだ。
「あ、はい。そうです。驚かせちゃったかも。すみません」
「だから、お前の実力は分かっている。無理を承知で頼むが、力を貸してはもらえんか? お前とあの父親が私ら獣人に協力してくれるならば、帝国の兵を一、二度ぐらいは追い返すことはできよう」
俺は、つい顔をしかめてしまったので手で覆って隠す。確かに一度ぐらいなら追い返せるかもしれないが、それでどうする。帝国兵は公称で二百万。その気になれば、森をまるごと灰燼に帰すほどの部隊を何十回も送れる。そんなのを相手にして森を守るのはとても無理だ。
それに、ただでさえコートネイ家は二つの国家から狙われているようなものなのに、帝国にまで睨まれてはたまったもんじゃない。
「ごめん。ウチの家族は目立ったことはできないんだ」
「そうか……。いや、こちらこそ無理を言ってすまなかったな。お前達はいつでもこの村に遊びに来て良いぞ。歓迎しよう」
きっとこれはコートネイ家を懐柔しようとするミラ様の策だろう。ミラ様はコートネイ家が強大な力を持っていることが分かっているのだ。
だが如何に獣人達と仲良くなろうとも、コートネイ家が森の獣人達の味方をして、帝国と争うなど狂気の沙汰としか言えない。協力を拒否する以外に選択肢はなかった。
◆◆◆
獣人達を助けて欲しいという話を断ってからも、マリーと一緒にミラ様と少しだけ雑談を続けた。
しばらくして、俺達は社を出る。
社の外には先ほどの黒耳、黒尻尾の女の子、ルナがいた。
「あまり村に長居してほしくないから送るよ。帰り道が分からないでしょ」
獣人の村に来るまでの道中に魔法でマーキングをしていたので自力で帰ることもできたが、折角だから送ってもらうことにした。
マリーは歩きながらルナに色々と話しかけている。
「にゃにゃにゃーにゃ」
「にゃにゃにゃっ」
先に行く二人は楽しそうに猫語で会話している。
森の大木を通り過ぎたところにある、ちょっと高い段差で、前を歩くルナのショートパンツが俺の目の高さになった。ショートパンツから飛び出ている尻尾がフリフリと可愛い。
「にゃにゃー」
「にゃにゃにゃん」
マリーとルナは二人で盛り上がっていた。俺は猫語が分からないから、少しハブられている気持ちになってしまう。
「なあ、お前らはにゃーにゃーと何を話しているの?」
「んとねー。もりでみたけどレオのまほうはすごいって」
ルナにも見られていたのか。こっちも獣人を森で何度か見かけているから、その時かもしれない。
「す、凄いなんて言ってないよ。マリーが勝手に言っているんだからね」
「えー!? ほかにも、あのこわいおねえちゃんにもひるまなくてすごいって」
「い、言ってない。言ってないから!」
それも見られていたのか。全く気がつかなかった。
「言ってない。本当に言ってないよ。にゃにゃにゃにゃーにゃ!」
ルナは顔を赤くしてさらに先に進んでしまった。
あの時のミラ様の剣幕には本当にビビったし、マリーがいなかったら逃げ出していたかもしれない。そう考えると、あまり凄いとは言えないな。
しばらく森の中を歩き続けると、次第に見覚えのある景色に変わっていき、森の入口が近付いていることが分かった。
「レオー! マリー!」
遠くから俺達を呼ぶ声が聞こえる。
ルドルフが必死に俺達を探していた。アイツはもっと苦労して探せばいいんだ。
「じゃあ、私はこれで……」
ルドルフの姿を見て、ルナが去ろうとする。俺は慌ててルナを引き止めた。
「ちょっと待てよ。もうそろそろ夕飯の時間だし、ウチで飯でも食っていかないか?」
「え? 遠慮しておくよ」
俺は、マリーが森の猫達に牛乳をあげていたという話を思い出す。
「牛乳も沢山あるぜ。肉とか魚とかもあるしさ」
ルナは尻尾を立てた。確か地球の猫で言えばうれしい時の動きだが、まだ躊躇いがあるようだ。
「で、でも……親がいるんでしょ?」
「俺の親は人畜無害だよ。マリーも来て欲しいってさ」
「うん。きてきて」
マリーも大きく頷いて、ルナの手を取る。
「じゃ、じゃあ少しだけ……」
結局ルナはウチに来てご飯を食べ、そのまま泊まっていくことになった。
今、クリスティーナとマリーはルナと三人でお風呂に入っている。
俺も一緒に入りたいが、ルドルフと話す方が先だ。
「――という事情だったんだ」
俺はルドルフに経緯を説明した。
「なるほどね。そういうことか。獣人に興味はないけど、帝国には腹が立つね」
「お、おい。まさか……獣人に協力するつもりか」
「いや、そんなことはしないよ」
「……だよな」
職人肌のルドルフは、政治的な謀略などを憎む傾向が強いようだ。
それでも、ウチは目立ってはいけない。俺はルドルフに帝国に一泡吹かそうなど考えないでほしいと思っていたが、そんな心配はアッサリと否定してくれた。
翌朝、俺とルドルフとマリーでルナを森の入口まで送った。
一晩過ごしたルナは、最初に会った時のクールで硬い印象がとれて、大分笑ってくれるようになった。
ルナは恥ずかしそうに少しだけ手を振って、森の奥へ消えていった。
ひょっとしたら、近いうちにルナも帝国に……と思うと正直辛い。俺は考え込みながら我が家へ歩みを進める。さっきからずっと、ルドルフも押し黙ったままだ。
その時、マリーが言った。
「パパとレオなら、きっとたすけてあげられるよ」
マリーは全て分かっていたのだ。唐突な発言に驚いた俺とルドルフは、綺麗に「マリー」とハモってしまった。
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