最初で最後の告白を。

柊 利音

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拾い集める君との日々

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誰もいない家に帰るのが辛くて毎日遅くまで学校に残る。
医者になる意味が見つからないまま、ただただ淡々と教科書や参考書を読み込む。
何かに集中していないとセナのことを思い出してしまう。
思い出しなくないわけではない。
セナがいない現実を見るのが怖い。
いつか来るとは思っていた現実が、こんなに早く来るとは思わなかった。
セナが死んでから今まで一粒たりとも涙を流さなかった。
泣いてしまったら現実を受け入れてしまう気がしたから。
"病弱だったんだから病気で死ぬんじゃないのか。"とか"一人であの部屋は広すぎるだろ。"とかどうでもいいことばかりを葬式の間ずっと考えていた。

聞き慣れた最終下校のチャイムが校舎に鳴り響く。
「もう…そんな時間か…」
窓の外は薄暗く、教科書を開き始めたときには数人残っていた教室には俺一人。

「また今日も残っていたのか、勉強熱心なのもいいけどそろそろ帰れよ」
「あっ、はい。すぐ帰ります」

先生に声をかけられ重い腰を上げて大学を後にする。
大学から家までは歩いて約10分。
行きも帰りもこの10分が辛い。

セナと時間が合うときは一緒に歩いたこの道。
少し早く家を出て、自分の大学を通り過ぎてセナの大学にセナを送ってから俺は大学に戻るそんな日々。
家から大学まではセナと一緒に歩いた様々な思い出が詰まっている。
春夏秋冬、季節に合わせたいろいろな思い出。
たった10分がこんなに重く感じるなんて思ってもみなかったな。

『トア、今日から大学生だね!今年も桜が見れてよかったよ!お花見しような』
大学1年目の春は新生活でバタバタしているうちに枯れちゃったよな。2年目は一緒に花見が出来てよかった。

『猛暑日だって!海に行きたいね!」
海に行って日焼けたよな。ヒリヒリする皮膚に悲鳴を上げながらシャワー浴びたり服を着る姿に思わず笑った。

『トアが休講の日まで俺を送らなくていいんだよ?寝てていいのに』
そういうから次の休講のときに起きなかったら"来ないの?"って起こしに来たよな。

『少し風邪気味なだけだから大丈夫だよ』
微熱があるくせに止める俺を無視して学校に行って、次の日には高熱出してなかなか下がらなかったよな。

『へへっトアが終わるの待ってたんだ』
雪が降る中俺の大学の校門の前で小学生たちと小さい雪だるま作ってたよな。
持って帰るとか言い出して家の前で滑ってこけて雪だるま潰したよな。

あっというまに家に着く。
ドアノブが酷く冷たく感じる。

「ただいま」
誰もいない部屋。灯りのない闇のような空間に声をかけた。
返事なんて返ってこなくても少しだけ期待をしてしまう。
セナがいないこの家は酷く寒く感じる。

「ただいま。セナ」
リビングに置いてあるセナの写真にも声をかける。
少しの期待を込めて。

「おかえり、十碧トア
「おう、ただい…ま…?」

懐かしい声が背後から聞こえた聞こえた。俺は反射的に答えてしまった。

待て待て待て…ここには俺しかいないはず。
…いや、でもセナの声が聞こえた気がする。
俺がセナの声を間違えるはずない。
だからあれはセナの声だ。
セナのいない現実に顔を背けすぎてついに幻聴まで聞こえ出したか…?
きっと振り向いても誰もいないはずだ。
ただ、願わくば幻覚でもいい。
セナに会いたい。
よし、振り向くぞ。


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