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三章
株式会社ジャストライフ・下
しおりを挟む「起業する時に、元いた会社の社長が俺の上司だった人を送ってくれたのよ。今の常務取締役だな。で、今の第二社屋を手に入れて、法人化を完了し、資本金一千万で株式会社ジャストライフがスタートした、というわけだ」
「転機が訪れたのが、その三年後、でしたよね」
「そう、離婚を決意して、優里を徹底的に追い詰めた。優里の浮気相手と言うのが光徳社の会長の息子で、会長は記者会見を開いて、記者の前で俺に頭を下げた」
「有名な記者会見ですね。ITベンチャー企業と大手出版社グループが手を組む」
誠によって概要欄に当時の記事が複数張られた。
「そう、この時に取引を開始、光徳社と共同運営の小説サイトの立ち上げ、小説の表紙や挿絵を優先的に回してもらって、半年後には更にグループ会社のサイトを手掛けた。俺は離婚を商売に反映したんだ。従業員十人だった会社は一気に大きくなる」
「この時って、ずっと家に居なかった?」
「ああ、ミュウの精神状態が心配だったし、社屋を二階建てから三階建てに改築する為に、全社員リモートワークだった」
「なるほど。あれ、すごくうれしかったけど、いないとめちゃくちゃ寂しかった」
仕方のない事なので、美優希はそれ以上のアクションはせず、コメントもとやかく言わなかった。
「すまん」
「しかし、そんな早くからリモートワークだったんですね」
「改築中は仕事ができないからな。改築は半年ぐらいで終了して、従業員は五十人近くまで増えた。というか増やさなかったら、サイト管理部の残業がヤバかった」
「緊急で雇入れた感じですね」
「そう、だからほとんど派遣だな。そのまま契約変えてうちに就職してもらった。そう言う派遣会社から取ってたからな。この時だな、専門家集団ができ始めたのは。資格持ってる人間が多くてね。知識の放出をしてもらった」
そして、この頃に、ベンチャー企業のシングルファーザの社長としての、取材の申し入れが多数あったが、これも伏せてしまった。
「所持資格を公開してもらっての知識の放出だったから、ライティング部の収益は考えられない程伸びた。これに合わせて、社宅と今の第一社屋の建設計画が持ち上がった。社内投資による税金対策だな」
「この頃の社長の生活ってどうなってたんですか?」
「家の事やってからだから、九時出社して、十五時ごろ退社して、ミュウが帰って来るのに備える感じだな。この頃に今の奥さん、副社長の春香と再会して、どうしようもない時のミュウの世話を頼んだりしてたかな」
「あー・・・再会ですか?」
ミノマエ選手が聞いたように、コメントも再会と言う言葉に反応している。
「春香は幼馴染で、俺が行きつけるカフェのパティシエールとして帰って来てね」
「そのカフェで再会ですね」
「そ、春香が俺の離婚を鼻で笑って、俺が春香の結婚相手が見つからないのを鼻で笑うような仲、割と気心知れた仲よ。昔はよく俺の家に遊びに来てたぐらい」
「私の視聴者なら分かるかな。お菓子作りの動画の先生は私のママだよ」
「大学入学から全く会って無かったし、その容姿でできない方が不思議だと思ってたら、春香にプロポーズされた。ミュウは誕生日ケーキが春香の作ったケーキじゃないと泣き出すぐらい好きでね。すんなり受け入れてくれて結婚したよ。昔から好きでいてくれたみたいだ」
重い話の後だからなのか、春香との仲は『初めからそんな人と結婚すればよかったのに』と書かれるほど、同情が集まった。なお、胃袋を掴まれた美優希の存在も突っ込まれている。
「だって、美味しいんだもん」
「俺もすっかり餌付けされたよ。コンビニスイーツとかに手を出せなくなった。それはそれだ。事業は順調に拡大していって、大野家具からある依頼が入る」
「ECサイトの立ち上げですね」
「そう、社屋の新築で大口発注掛けたら、ネットビジネスに興味を示して、大野家具のサイトを手掛けた。これをきっかけに取引開始だ。あと、社屋の新築に対して、地元の銀行とも取引を開始して、サイトの改修を手掛けてる」
「この頃だよね、私がe-sportsに興味を示すのって」
これを待っていたのか、コメントがざわつく。
「そうそう。ミュウが夏休みに二つの自由研究を行う。これがパソコンに関する事とe-sportsに関する事、ミュウが小学四年生の頃だな。この自由研究が、学校の先生のおかげでe-sports教会と四月一日電算の目に止まった」
「四月一日電算との本格的な取引とミュウ選手が生まれるきっかけですね」
「実は四月一日電算はその前からなんだ。昔から俺が懇意にしてて、会社で使うパソコンの購入だけだったのが、サイトが目に止まってレビューを任されるようになるのもその前だな。きっかけは俺の方じゃ分からないんだよ」
「そうなんですね」
きっかけも何も、拡大を続けるベンチャー企業を見過ごす方がどうかしている。
「最初はね、パソコンが欲しかったの。Falcon選手ってカガヤキのお兄さんじゃん?この時にお兄さんがやってるFPSゲームを見る機会があって、パパがね、私がパソコン欲しいのに気づいて、話したらパパにやらせてもらってね。それが自由研究のきっかけだよ」
「平静を装ってたけど、あれはびっくりした。父子家庭だし、目が覚めてから一人で寝れなくなった時に、ゲームしてる俺の腕の中で眠ったりしてたから、当然と言えば当然の流れかもしれない」
「可愛いとかいらないからね」
圧を掛けられたココノエ選手とミノマエ選手は口を噤んだ。
「ミュウばっかりはアレだから、ママのあれ暴露する?」
「んー・・・うん!」
「いやね、春香って、オタクなのよ。フランス修行時代に、いまの翻訳部の部長にアニメ沼に嵌められてね。ぬいぐるみだらけだった当時の部屋に、硬派なゲームを好むミュウ、俺に『ギャップが凄くて萌え死にそう』って言ってるのよ」
『これは本物』『本物だ』と凄まじい勢いでコメントが流れていく。
「翻訳部の部長っていつ会社に入ってきたんですか?」
「春香のコネ、結婚して日本にいたから翻訳部の立ち上げで来てもらった」
「じゃあ、副社長と再会したぐらいですかね?」
「いや、第一社屋の完成の後だから、もう少し後だな」
「察しがいいね。そうだよ、翻訳部の部長が着た時に、コーチのクリスの事は知ってるよ。知ってるだけだけど。ね?」
「はい」
クリステルはカメラの外だが返事をした。
「話を戻すと、自由研究がきっかけで四月一日電算がRyzerをうちと繋いでくれたの。だから、Ryzerとの取引はここがきっかけだね。で、第一社屋完成に合わせて、ゲーミング部以外はここでそろったね」
「社宅が年を越しちゃったんだっけ?」
「そう、それはしょうがないかな。七階建ての社屋に五階建ての社宅だから。あ、社宅はマンションみたいな感じだよ。うちのホームページに行けば見れる」
この言葉でようやく、一義もコメントを見ている事が伝わった。
「んで、自由研究をやった翌年の夏休みに、ミュウがFalcon選手をコテンパンにしたらしくて、俺のこと知ってたみたいで、プロに成りたいから、って言って指導をお願いしに来たのね」
「ここが計画の本格的な出発点になるわけですね」
「そうそう。Falcon選手のお母様が、うちに勤めてて、この時にはすでに、俺の絵の事業を引き継いでまとめてくれてたのね。Falcon選手の親御さんと話をして、計画をスタートさせるわけ」
「これが、ハチノスミカでやってたサンドバッグが効いてくるわけですね」
「そう、Corsairの名前って、業界では俺が思っている以上に有名だったのよ。夏休みから指導を開始して、半年後、一月半ばにムーンシスターズのオーナーがFalcon選手のスカウトに現れるわけです」
いつ来たのか『その節はお世話になりました』と、コメントに隼人が現れた。
「皆もね、よく聞いててほしいんだけど、Falcon選手はこの時から俺も一緒になって配信をやってたの。一人でやっても同じ実力が出せる。それを動画、あるいは生配信で示せるようになって、ムーンシスターズが声をかけてきたわけなの」
「ポートフォリオって、形はどうでもいいの。でも、どれだけ強いか分かるよね」
「ムーンシスターズが一番だったからムーンシスターズだったけど、実は他のチームからも来てたんだ。チームを立ち上げなかった理由は、手元にFalcon選手しかいなかったからだ。ある程度人脈はあったが、そんな状態で立ち上げてもな」
「失敗しそうですね。FPSゲームは人数がほしいですからね」
送り出すのが正解、コメントも同じ見解だ。
「そして、Falcon選手はムーンシスターズへ、それから三ヶ月後、ミュウがカガヤキとNonNonを連れてきて、バーチャル配信をやってみたいと言い出した」
「Falcon選手の刺激があったんですね」
「そう。Falcon選手と言うモデルもあって、最終目標はプロゲーマー、プロをやめた後の事も話し合って、配信者事業から開始した。中学生だからね、結構苦労したけど、労基の許可も取ってる」
「それで年明けて一月ね、クリスと顔合わせをして、私の誕生日に家が新しくなって、二月初めに妹が生まれるの」
『懐かしいな』と、コメントと一体になった。
「クリスはこの時合流はしなかった。クリスの状況的に労基が判断する前に、無理だと判断した」
「クリス、いいの?わかった。クリスはこの時、交通事故で歩けなくなってたの。リハビリもあったから、そっちが優先、ってなったの」
『そらそうだ』とコメントは納得の嵐だ。
「配信者事業はFalcon選手のプロモーションと海外向けも同時に手を付けてたからね。一気にチャンネル登録者が伸びたのはその所為だな。皆が知らないだけで、海外の登録者が過半数、同時翻訳を翻訳部の部長がやってくれた結果だな」
「マネジメント課の課長も一緒に入ったよね」
「だな。だからマネジメント課の課長はゲーミング部のプロデューサーでもある。配信の企画は全部課長のプロデュースだな」
「え、課長もいいの?わかった。NonNon選手のお姉さんだね。もしかしたら、配信者のリリーブロンドって言えば、知ってる人多いかも」
梨々華のチャンネルは登録者が二百万人にまで膨らんでいる。広告を付けないチャンネルとしては、国内で一番大きい。
その為、コメントは騒然となっている。
「やりたいようにやりたいから、要らないんだって。半分趣味だから仕事にしたくないんだってさ。え、今も?」
「今もだよー。十分お給料もらってるからね。これ以上はおかしくなりそうだから」
「それはそれだ。皆が知らないのはここまでか」
「そうだね。配信ではいろいろ報告しちゃってるし。ここから先はマシュマロンにしよっか」
そう言って数秒、配信に映っていない、者たちが涙目になった。理由はとんでもない量のマシュマロンが届くからである。
「あちゃー」
「せっかくだし、休憩にしましょう」
「もう、三時間近く喋ってます」
「そうしようか」
「その間はパパの作品のスライドショーだよ。十五分後にねー」
一階の社員食堂で、スタジオに居なかった選手たちが軽食と飲み物を準備していた。軽食は春香お手製の様々な洋菓子で、皆が笑顔で舌鼓を打つ。
「パパ、ごめんね」
「ん?あー、お前のやりたいことはできてるか?」
「うん、できてるよ。ありがとう」
「子供のやりたいことを実現してやるのが親の矜持だ。社会の目もあるから加減は必要だが、美優希も輝ちゃんも、それくらいの気概を持ってね」
「うん」「はい」
返事を聞いた一義は、野々華とクリステルを見て頷いたに過ぎないが、二人とも笑顔で頷き返してきた。
休憩が終わり、スタジオに戻って配信を再開すると、『元パティシエールのお菓子は美味しかった?』と言うコメントが付き、笑うしかなった。そのアカウントは春香のものだったからだ。
「美味しかったよ、いつもありがとね。ママ」
美優希の笑顔に魅せられた視聴者によって、コメントはプロポーズの嵐となる。
「はいはい、旦那が嫉妬するからそこまでだ」
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