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二章
一人暮らし
しおりを挟む「中学校の夏休みから本格的に、パパの、チームオーナーである社長の指導を受けてやってきました」
試合後インタビューを受ける美優希たちの様子を眺め、『来るところまで来たんだなぁ』と一義は漏らした。
「世界の強豪と言われるように頑張らないといけませんね」
「来年度からは、そう言うことも任せるからね」
「もちろんですよ。マネージャーですから」
梨々華は当然と言う表情を見せつつも、気合を入れて頑張ると言った。
「クリスが本格的に加わったのは高校に入ってからです」
「私は技術的に三人の誰にも勝てません。ですが、ボードゲームやチェスなら、絶対に三人に勝てます」
実は、クリステルが本格的に加わってから、一義が直接指導することがなくなった。それくらい、クリステルの能力はずば抜けている。
「コーチ陣にもてあそばれる選手志望の動画の再生数がかなりいいようですが、今はどうですか?」
「そのコーチ陣に勝てるようになったのは今年に入ってからの話なんです」
「でも、自信が付きました。それくらい、一筋縄ではいかないくらいの相手なんです」
「その自信がなければ、優勝は難しかったです」
インタビューが終われば、ファン、観客との交流会だ。
美優希たちは沢山のプレゼントをもらい、他の選手も負けないくらいのプレゼントをもらったのだった。
交流会が終わった後は選手たちのパーティーだ。
立食形式でビュッフェ形式、留学をしていたおかげで、コミュニケーションに問題はなく、選手たちが思い思いに食事と会話を楽しんでいた。
そのパーティーでは、オーナー同士も顔を合わせて、合同練習会を話し合う等、良きライバルとして和気藹々と話をしている。
一義は話し合いをアレクシアと梨々華に任せて、静かに退出しようとすると、美優希に引き止められた。
「帰るの?」
「ホテルの部屋にね」
「疲れてる?」
「いいや」
「じゃあ、こっちに来て」
ドレスを身にまとう美優希は一義と腕を組んで、輝と野々華がいるところに引っ張っていった。
そこにはクレイジーラグーンの魔王ことRAST、TSMのIPEX部門リーダーであるiHalがいた。
「私のパパだよ」
「あなたがCorsairさんですね」
「はい」
「話は知っていますよ。約六年、長かったでしょう」
野々華とクリステルが通訳となり、一義と二人の仲を取り持ってくれる。
「長かったけど、運も良かった。美優希の親友たちは才能を持っていたからね」
「あなたは良い指導者です。そして、私たちが本気で行ったのに、優勝してくれた」
「私たち選手は皆、出来レースなどではない、と先ほどSNSで言いました。安心してください」
「ありがとう。感謝してもしきれないよ」
クリステルから頭を下げるなと言われて、ぎこちない感謝になってしまった。
「私はあなたとも戦ってみたい」
「私も」
「それでは、何時か、エキシビションマッチでもやりますか?」
「「勿論」」
互いにIPEXのIDと、RINEのIDを交換までして、更に談笑は続いたのだった。
その後、配信で祝福されて、学校で祝福されて、会社で祝福されて、インタビューに車の免許取得で大忙し、卒業式にはいくつかメディアが駆けつけて、美優希たちの心休まる日々が訪れたのは三月の下旬だった。
「あ、こっちに移動したんだね」
春香と買い物に出かけていた美優希は、家に帰って来て、リビングに飾られたトロフィーを見てそう言った。
ガラス窓の恒温恒湿、防塵棚を寝室の前に設置し、そこにトロフィーと楯が収められている。
「お前の成果だからね。お客様にも見えるところに置いて自慢したいんだ」
「自慢しすぎないでよ?」
「大丈夫だよ。そこまで壊れてはないさ」
棚を眺めながら、美優希が感慨に浸ろうとした時だった。
「私もお手伝いしたんだよ」
「そうなの?美春ありがとうね」
「美春のおかげで楽に移動できたよ。ありがとね」
えっへん、と手を腰に当てる美春、美優希はそんな誇らしげな美春を抱き上げた。
「わー、美春もおっきくなったなー。もう抱っこは無理かなー」
「えー」
「俺でもしんどいんだよ。お膝はしてあげるから、普通の抱っこはもう我慢しておくれ」
「分かった」
「でも、今は良いよ」
「やったー」
美春を抱いたままトロフィーや楯を眺める美優希はややあってこういった。
「ねぇ、パパ、今後もらうトロフィーとか楯は、ずっとここでいい?」
「いいよ。自分の家に飾りたくなったら、いつでも移動してあげる」
「ううん、ずっとここがいい。始まりはここじゃないけどさ」
「そうか。この棚、高いんだからな。そう言うなら、その高さに俺が悲鳴を上げるくらいには取って来いよ。じゃないと許さないからな」
「えー、変だよー」
「パパらしいじゃない」
パントリーから出てきて、美優希の横に並ぶ春香は、そう言いながら棚を見て一つ溜息を付いた。
「美優希、よく頑張ったわね。あなたの大好きなプリンアラモードを準備してるから、美春と一緒に食べなさい」
「うん!美春、食べよ」
「たべるー」
ダイニングで春香の作ったプリンアラモードを、仲良く並んで『あーん』と食べさせ合いながらつつく二人、それをキッチンから眺めつつ夕食の準備をする一義と春香だった。
翌日、会社のプロゲーミング部には四つの白いデスクトップパソコン一式と、とあるチケットが用意されていた。
中身はすべて最新式で、グラフィックボードも簡易水冷化され、おおよそどうやったらこのスペックを使い切れるのか分からない程だ。
モニターは湾曲型のウルトラワイド、キーボードとマウスはRyzer製のピンク、ヘッドセットはRyzer製のピンクの猫耳モデルである。
また、マイクとミキサーはプロが使うハイブランドで、RGBライティング可能なRyzer製の白い大判マウスパッドも用意してある。ウエブカメラはフルHDの60fps撮影が可能なフルスペックモデルだ。
これらはプレゼントではなく、会社からの支給品であり、大学生活が一人暮らしとなるので、変わらず配信してもらう為の物であり、帰ってきたら返さなければならない。
「こいつらは、会社から引っ越し先に送る。日程は合せられるから、各々引っ越し先と日程が決まったら必ず教えてくれ。それから、このチケットを持って、今から洋服店に行ってもらう。スーツだが、結果を残したからな、俺からのプレゼントだ」
「「「「ありがとうございます」」」」
チケットは事前に近くの洋服店に話を付けて、事前に支払いが済んでいる。追加で費用が必要な場合、一義に請求が行く。
なかなかの老舗洋服店で、職人の手作り、質が良く、わざわざ遠方から買い求めに来るくらいだ。
ビジネススーツとして一式、大学生となった以上は、必要な時が来るのでプレゼント、というわけだ。
「ん?クリスちゃんは杖なのか」
「はい、やっと病院から許可が下りました。今月から良かったんですけど、忙しくて車椅子に乗ってました」
社用車の六人乗りのミニバンに乗せて連れて行こうとして気付いたことだ。
「そっか、良かったな。右足はやっぱりだめなのか?」
「はい。走ったりすることはできませんけど、でも、一人で色々できるようなります」
「そうだな。まぁ、クリスちゃんなら大丈夫だな」
「はい」
四人を連れて洋服店に向かい採寸を済ませると、昼食をごちそうして会社に戻ってきた。
会社に戻ってくると今度は部屋探しである。
全員、梨々華の部屋に遊びに行ったりするので、よほど憧れがあるのか、1SLDK若しくは2LDKを希望した。
梨々華は年収五百万近くあり、割と優雅な暮らしをしている。
週休二日の内、一日が掃除でつぶれてしまうようだが、偶に彼氏を連れ込んだり、夫婦喧嘩で逃げて来た野々華を泊めて掃除をさせたりして、楽できる時は楽をして、料理をしたくなければ出前を頼み、春香を招いてお菓子作りの個人レッスンを受けている。
配信は仕事である為、梨々華のアドバイスで公私を分ける為に全員2LDKになり、美優希とクリステルは同じ大学に通うので、同じマンションの同じ階の部屋になった。同じマンションにしたのは、クリステルに何かあった時に助けを呼べるようにする為だ。
三日後、不動産会社との契約が済み、スーツも届いたので、引っ越しの準備を始めた。
四月一日、一義のステーションワゴンを追う、典昭のミニバン、同じマンションなのでそうしようと話し合っていた。因みに大野家具のトラックもついてきている。
因みに、一義のステーションワゴンを運転するのは美優希、買い替え時期だから傷つけも大丈夫だとやらされている。
「レースゲームやっててよかったかも」
パーキングエリアでの休憩中、美優希はそんなことを漏らした。
フットペダルにシフター、ハンドルコントローラーをパソコン部屋に置いて、自動車学校に通っている時は、日常再現部屋に参戦する等して練習していた。
「どうしてそう思うの?」
「んー、ママの軽自動車で慣れたつもりだったけど、パパの車って意外と大きいんだよね。感覚が違うからさ」
「大変?」
「大変だけど、私が生涯乗りたいのは、パパと同じステーションワゴンだから、勉強になったかも」
そう言えるのなら大したものである。大野家具の人たちとも談笑して数十分、パーキングエリアを後にした。
パーキングエリアを出て数時間、不動産会社から鍵をもらい、目的のマンションへ到着した。
大野家具が荷物の搬入と組み立てをしていると運送業者が到着、会社から発送したパソコンが届く。先に準備してもらっていた配信部屋に運び込み、パソコンを準備する。
今回、引っ越し業者には何も頼んでない。頼むほどの荷物がなかったからである。
美優希の部屋が終わるとクリステルの部屋だ。
作りが同じなので代わり映えはしないのだが、淡いピンクを基調する美優希に対して、クリステルはワインレッドを基調としている。
二人の部屋の大きな違いは、リビングに置くソファーであろう。ローソファーに炬燵を置く美優希、クリステルはワゴンと高めの座面のソファーだ。
クリステルの配信部屋にもパソコンを設置し、コード類はマジックバンドでまとめた。
「社長、申し訳ない」
「いいんですよ。ここまでくると専門機器なので、使ったことがないと倍の時間がかかるでは済まないですから」
不甲斐なさそうにする典昭だが、こればっかりはどうしようもない。おおよそ一般人には縁のない物である。
「さて、美容室に言ったら夕食にしよう」
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