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一章:出逢イハ突然ニ
再会 12
しおりを挟む安津もまた、榛伊が気付いていることに勘付いているだろうに、其処に触れることをしない。
榛伊にとってはそれだけが救いだった。
一歩下がったところで、ぼんやり、と事態を眺めている後輩に「浜本君、行くよ」と声を掛けた。
珍しく静かな後輩は、ふんへー、と相槌なのか感嘆なのか訳の解らない声を出して榛伊の後ろに着いてくる。
京が何故か葉月を凝視しては首を捻っているが、何か言うでもないので、榛伊もすぐに忘れてしまった。
安津、知有、榛伊、葉月、京の順で玄関に上がり、京はキッチンのある方へと消えていく。
安津を先頭に階段を上がっていくと、教師の癖に長めのボサボサ頭が振り返り榛伊に視線をくれる。
「言っておくがな、坂中。倶利がお前と話をするかは解らないぞ。俺だってテストの監督だとか学校の業務連絡だとか、理由をこじつけてやっと会えるんだ。……それに、相当警察を嫌ってる。暴言を吐くこたぁないだろうが、歓迎はされないだろうよ」
期待はするな、と言外に付与した安津は溜息を吐き出しては頭を掻いている。
あー、と歯切れ悪く声を漏らし前を向いていく彼には何か言い難いことがあるようだった。
躊躇するなど彼らしくなくて眉を顰め先を促す。
「なんだ、安津。ハッキリ言え」
前を向いたまま、がしがし、と乱暴に自身の髪を乱しながら躊躇いがちに開いていく。
「知有から聞いたかもしれないが。アイツ、自傷してるらしいんだわ。そこら辺には触れないでやってくれ。大人にとっちゃあ、愚かなことに映るかもしれねぇが。子供にはのっぴきならない事情があったりすんだよ。強い人間なんていないってことを、大人が忘れちゃいかんよな。知有、お前も言いたいことがあっても我慢しろ。そう言う約束で来てやったんだ。ちゃんと守ってくれよ?」
知有の頭に掌を乗せた安津の顔には、にかり、としたいつもの人を食った笑みが浮かんでいた。
彼は昔から乱暴なようでいて子供という立場の者には優しい。
だからこそ、知有も彼に懐いているのだろう。
「ん、任せといて! 約束を守ってこそ漢だもんな!」
えっへへ、と何故か嬉しそうに破顔し、自身の胸を叩く知有を見て自然と顔が弛んだ。
「其処の兄ちゃんも頼んだぞ? ……つぅか、なんかお前、どっかで会ったこと、あるか?」
階段を上がり切り、廊下で後ろを振り向いた安津の視線が葉月を捉える。
何やら難しい顔で首を捻る安津に葉月のキョトンとした眼差しが返される。
「やー、人違いじゃないっすかね? 僕、何処にでもあるような顔してるでしょ?」
自分の顔を指差し葉月の首が横に倒れた。
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