CHILDREN CRIME

Neu(ノイ)

文字の大きさ
上 下
53 / 59
一章:出逢イハ突然ニ

再会 12

しおりを挟む


安津もまた、榛伊が気付いていることに勘付いているだろうに、其処に触れることをしない。
榛伊にとってはそれだけが救いだった。


 一歩下がったところで、ぼんやり、と事態を眺めている後輩に「浜本君、行くよ」と声を掛けた。
珍しく静かな後輩は、ふんへー、と相槌なのか感嘆なのか訳の解らない声を出して榛伊の後ろに着いてくる。
京が何故か葉月を凝視しては首を捻っているが、何か言うでもないので、榛伊もすぐに忘れてしまった。


 安津、知有、榛伊、葉月、京の順で玄関に上がり、京はキッチンのある方へと消えていく。
安津を先頭に階段を上がっていくと、教師の癖に長めのボサボサ頭が振り返り榛伊に視線をくれる。

「言っておくがな、坂中。倶利がお前と話をするかは解らないぞ。俺だってテストの監督だとか学校の業務連絡だとか、理由をこじつけてやっと会えるんだ。……それに、相当警察を嫌ってる。暴言を吐くこたぁないだろうが、歓迎はされないだろうよ」

期待はするな、と言外に付与した安津は溜息を吐き出しては頭を掻いている。
あー、と歯切れ悪く声を漏らし前を向いていく彼には何か言い難いことがあるようだった。
躊躇するなど彼らしくなくて眉を顰め先を促す。

「なんだ、安津。ハッキリ言え」

前を向いたまま、がしがし、と乱暴に自身の髪を乱しながら躊躇いがちに開いていく。

「知有から聞いたかもしれないが。アイツ、自傷してるらしいんだわ。そこら辺には触れないでやってくれ。大人にとっちゃあ、愚かなことに映るかもしれねぇが。子供にはのっぴきならない事情があったりすんだよ。強い人間なんていないってことを、大人が忘れちゃいかんよな。知有、お前も言いたいことがあっても我慢しろ。そう言う約束で来てやったんだ。ちゃんと守ってくれよ?」

知有の頭に掌を乗せた安津の顔には、にかり、としたいつもの人を食った笑みが浮かんでいた。
彼は昔から乱暴なようでいて子供という立場の者には優しい。
だからこそ、知有も彼に懐いているのだろう。

「ん、任せといて! 約束を守ってこそ漢だもんな!」

えっへへ、と何故か嬉しそうに破顔し、自身の胸を叩く知有を見て自然と顔が弛んだ。

「其処の兄ちゃんも頼んだぞ? ……つぅか、なんかお前、どっかで会ったこと、あるか?」

階段を上がり切り、廊下で後ろを振り向いた安津の視線が葉月を捉える。
何やら難しい顔で首を捻る安津に葉月のキョトンとした眼差しが返される。

「やー、人違いじゃないっすかね? 僕、何処にでもあるような顔してるでしょ?」

自分の顔を指差し葉月の首が横に倒れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

神暴き

黒幕横丁
ミステリー
――この祭りは、全員死ぬまで終われない。 神託を受けた”狩り手”が一日毎に一人の生贄を神に捧げる奇祭『神暴き』。そんな狂気の祭りへと招かれた弐沙(つぐさ)と怜。閉じ込められた廃村の中で、彼らはこの奇祭の真の姿を目撃することとなる……。

アイリーンはホームズの夢を見たのか?

山田湖
ミステリー
一人の猟師が雪山にて死体で発見された。 熊に襲われたと思われるその死体は顔に引っ搔き傷のようなものができていた。 果たして事故かどうか確かめるために現場に向かったのは若手最強と言われ「ホームズ」の異名で呼ばれる刑事、神之目 透。 そこで彼が目にしたのは「アイリーン」と呼ばれる警察が威信をかけて開発を進める事件解決補助AIだった。 刑事 VS AIの推理対決が今幕を開ける。 このお話は、現在執筆させてもらっております、長編「半月の探偵」の時系列の少し先のお話です。とはいっても半月の探偵とは内容的な関連はほぼありません。 カクヨムweb小説短編賞 中間選考突破。読んでいただいた方、ありがとうございます。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小説探偵

夕凪ヨウ
ミステリー
 20XX年。日本に名を響かせている、1人の小説家がいた。  男の名は江本海里。素晴らしい作品を生み出す彼には、一部の人間しか知らない、“裏の顔”が存在した。  そして、彼の“裏の顔”を知っている者たちは、尊敬と畏怖を込めて、彼をこう呼んだ。  小説探偵、と。

処理中です...