52 / 59
一章:出逢イハ突然ニ
再会 11
しおりを挟む知有は更に顔を赤くし、榛伊の服を掴んで背中に額を押し付けている。
京は気にした風もなく、追い付いて榛伊の後ろに立った安津に視線を投げて首を傾けていく。
「久し振りです、京さん。コイツ、倶利のクラスメイトの知有。昨日会ったそうですね。また倶利に会いたいとか吐かすから連れて来ました。で、此方の刑事は高校の同級生。知有の叔父なんですよ。よう、坂中。倶利に話があるんだってな? でも彼奴、刑事と話なんかしねぇぞ。だからわざわざ忙しい中、この俺が来てやった。感謝しろよ?」
直立不動で頭を下げる安津に知有の口があんぐりと開く。
気持ちは榛伊にも理解出来た。
安津という男は、他人に頭を下げさせはしても自ずから頭を下げることはしないのだ。
体勢を戻した安津の手が無遠慮に知有の頭を、がしり、と掴み榛伊から引き剥がす。
「忠樹君の生徒さんなのは、昨日プリントを持って来てくれて解っていたけれど。そう、個人的に忠樹君と仲良くしてくれていたのね。忠樹君の知り合いなら、あの子も会ってくれるかしら?」
うーっ、と唸り安津の手を何とか剥がそうと暴れる知有を微笑ましそうに眺める京は暢気に安津にと問い掛けている。
榛伊が安津を睨み彼の腹に肘を入れると、安津はあっさりと知有を解放した。
「おい、安津。どういうことだ? どうしてお前が」
「悪ぃな、坂中。言ってなかったが、京さんは俺の叔母さんだ。詰まりは、倶利は俺の従弟に当たる。お前から知有絡みのことで連絡があった時には、起訴されていたからな。特に言う必要性も感じなかったんだわ。お前も何にも言ってこないから、まあいいか、とそのままにしてた」
高校を卒業し疎遠になっていた安津に連絡を入れたのは榛伊からだった。
彼が教師を目指していることは知っていたし、大学も教育関係に進んでいたからである。
唯一と言える友人であり、幼児の相談を出来るのもこの男しかいなかったのだ。
知有の自閉症的な症状から進学の相談、食事について、榛伊が頼れたのは唯一この傲慢な男だけだった。
そして、知有を引き取った時には、確かに粟冠事件は容疑者逮捕、起訴されており、世間的には一応の終息をみせていた。
「……そうだったな。お前はそういう男だった。倶利君から当時の話が聞きたい。案内して貰えるか?」
正直、安津に頼るのは嫌だった。
彼に甘えることに罪悪感を抱き始めたのはいつだったか。
安津の瞳に友情以上の色があることに気付いてからだ。
想いに触れることすらしない癖に、その想いを利用してしまう罪悪感だ。
「坂中の頼み事を、俺が断れる訳ないだろ?」
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
特殊捜査官・天城宿禰の事件簿~乙女の告発
斑鳩陽菜
ミステリー
K県警捜査一課特殊捜査室――、そこにたった一人だけ特殊捜査官の肩書をもつ男、天城宿禰が在籍している。
遺留品や現場にある物が残留思念を読み取り、犯人を導くという。
そんな県警管轄内で、美術評論家が何者かに殺害された。
遺体の周りには、大量のガラス片が飛散。
臨場した天城は、さっそく残留思念を読み取るのだが――。
双極の鏡
葉羽
ミステリー
神藤葉羽は、高校2年生にして天才的な頭脳を持つ少年。彼は推理小説を読み漁る日々を送っていたが、ある日、幼馴染の望月彩由美からの突然の依頼を受ける。彼女の友人が密室で発見された死体となり、周囲は不可解な状況に包まれていた。葉羽は、彼女の優しさに惹かれつつも、事件の真相を解明することに心血を注ぐ。
事件の背後には、視覚的な錯覚を利用した巧妙なトリックが隠されており、密室の真実を解き明かすために葉羽は思考を巡らせる。彼と彩由美の絆が深まる中、恐怖と謎が交錯する不気味な空間で、彼は人間の心の闇にも触れることになる。果たして、葉羽は真実を見抜くことができるのか。
密室島の輪舞曲
葉羽
ミステリー
夏休み、天才高校生の神藤葉羽は幼なじみの望月彩由美とともに、離島にある古い洋館「月影館」を訪れる。その洋館で連続して起きる不可解な密室殺人事件。被害者たちは、内側から完全に施錠された部屋で首吊り死体として発見される。しかし、葉羽は死体の状況に違和感を覚えていた。
洋館には、著名な実業家や学者たち12名が宿泊しており、彼らは謎めいた「月影会」というグループに所属していた。彼らの間で次々と起こる密室殺人。不可解な現象と怪奇的な出来事が重なり、洋館は恐怖の渦に包まれていく。
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
声の響く洋館
葉羽
ミステリー
神藤葉羽と望月彩由美は、友人の失踪をきっかけに不気味な洋館を訪れる。そこで彼らは、過去の住人たちの声を聞き、その悲劇に導かれる。失踪した友人たちの影を追い、葉羽と彩由美は声の正体を探りながら、過去の未練に囚われた人々の思いを解放するための儀式を行うことを決意する。
彼らは古びた日記を手掛かりに、恐れや不安を乗り越えながら、解放の儀式を成功させる。過去の住人たちが解放される中で、葉羽と彩由美は自らの成長を実感し、新たな未来へと歩み出す。物語は、過去の悲劇を乗り越え、希望に満ちた未来を切り開く二人の姿を描く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる