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一章:出逢イハ突然ニ
記憶の断片 07
しおりを挟む「ご飯にしよう。着替えてくるから、先に支度しておいてくれるか?」
何を言っても無駄だと感じたのだろう、倶利の話を出すこともなく彼は立ち上がり踵を返す。
目に入った大きな背中に縋り付きたくなったのが何故なのか、知有には解りそうもない。
「……うん」
榛伊と衝突したのは初めてのことで、知有はどうしていいのか途方に暮れながらも小さく頷いてキッチンにと向かって行った。
世界の中心はいつであれ叔父でなくてはならない。
それが幼い知有が無意識に心へと植え付けてしまった決まり事である。
心の奥深い場所に踏み入っていいのは榛伊ただ一人だけなのだ。
心地良い二人だけの世界に酔い痴れて、他のもの全てから目を逸らして生きている。
他の生き方など知らないし、叔父以外の余計なモノなど要らないと思ってきた。
そんな矮小な世界にヒビが入ったのだ。
ごく小さな亀裂は、気付くこともなく段々と歪みを拡げていくのだった。
想イ出ニハ何モ無カッタ。
叔父ダケノ世界ニ縋ル事デ、
記憶カラ逃ゲタノダ。
始マッタ世界ノ崩壊ハ、
誰ニモ止メル事ナド出来ハシナイ――
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