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一章:出逢イハ突然ニ
記憶の断片 04
しおりを挟む倶利の家の前の歩道で、彼の瞳と弟の瞳の類似性について考えてしまった。
あの拒絶を示しながらも何かを求めている瞳が、昔から知有は恐ろしくて堪らない。
ふと過ぎる映像だとか音声は、ノイズ混じりに加えて、まるで早送りでもしているかのような速さで、不明瞭だ。
それでも時折拾う記憶の断片は、知有の胸をキツく締め上げる。
「さっきの、記憶も……。なんで心中だったのに、七は生きてオレに話し掛けてきてたんだろ。オレの為って、どういう意味……」
深く考えようとして、また酷い頭痛に襲われる。
考えることは諦め、そう遠くない我が家に足を伸ばして行く。
坂中宅は、倶利の家から徒歩で5分程の距離にある。
榛伊が学生時代に遺産として相続したらしいその家は、豪邸でもなく狭小でもなく、普通の広さの平凡な一軒家だった。
知有は鍵で玄関を開けて誰もいない家に帰宅する。
空腹を感じて昼なのだと認識したが、食事をする気分になれず、リビングの床にランドセルと横断バックを放り投げ、ソファーにダイブした。
頭の中がゴチャゴチャで気持ち悪い。
俯せで肘置きに頬を預けて目を閉ざした。
* * * * * *
狭い子供部屋には弟の為に用意された物だけが溢れている。
窓から外を見下ろす知有の肩を掴む七の顔には溢れんばかりの笑顔が浮かんでいた。
知有の口唇が何かを喋り、首を左右させている。
途端に七は怒りを露にした。
掴まれている肩が痛い。
何事かを怒鳴っている七に体を揺さぶられた。
何故だろうか、何を言っているのか聞こえない。
怒りに眉を吊り上げていた七が急にケラケラと笑い出した。
狂気に満ちた顔で笑い転げている。
肩から背中に回った手に押され前のめりになり、窓から体が飛び出そうで、窓枠を掴む。
眼下には父と母が仲良く血溜まりの中で横たわっているのが見えた。
ぴくり、とも動かない死体が二体転がっている。
数分前まで動いていた人間が二人、二体の死体となった。
その一部始終を見ていた知有の心には、ただただ後悔だけが拡がっている。
そんな知有を、父母の場所に連れて行こうとする七の力は強かった。
抵抗する知有と、知有を突き飛ばそうとする七。
気付けば二人とも無我夢中で互いの体を押し合っていた。
* * * * * *
チユ、と聞き慣れた低音が耳を擽る。
揺さぶられる感覚に薄っすらと目蓋を開けると、目の前には榛伊の顔があった。
心配そうに見詰められている。
「怖い夢でも見たか? もう大丈夫だ」
「ハ、ル。おか……えり、なさい」
濡れた頬を榛伊の指先が辿って行く。
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