CHILDREN CRIME

Neu(ノイ)

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一章:出逢イハ突然ニ

記憶の断片 02

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それならそれで、その方が良いと知有は嗤った。
愛されていなかったことだけは憶えているのだ。
わざわざ思い出す必要もない。
榛伊さえいてくれれば、父も母も兄弟も要らない。
自分には唯一叔父だけが必要で、榛伊だけが知有の全てなのだ。
無意識に母の温もりを求めてしまった己を罵倒したかった。
要らないものに縋っても虚しいだけだと解っている。
手に入らないものは要らない、必要ない。
馬鹿みたいに無いものねだりをしても、結局は傷付くだけだと知っている。
知有は嘲笑を浮かべて玄関の扉を開け中にと入った。
靴を脱ぎ捨て玄関を上がり廊下に出てすぐの階段を昇る。


 安津から聞いた話によると、クラスメイトの倶利は不登校児であるらしい。
一年から六年まで一度も登校したことのない生徒。
それなのに成績は優秀だと言う。
教師付添いの下、倶利の家で他の生徒と同じテストを受けているとのことだが、今までのテストは全て満点だった。
飽くまでも安津情報ではあるのだが、ルックスも整っているとのことだ。
まさに天から二物を与えられし人間なのだろう。


 その話を聞いて思い出したのは弟の七のことだった。
神童と謳われていた七は、確かに頭が良かったのかもしれない。
その当時の記憶はひどく曖昧で、七が地元メディアに担ぎ上げられていた事実は知っていても、だからと言って実際にどの程度の秀才であったのか、知有には解らなかった。
知る必要もないことだと考えること自体、放棄している。
未だに家族のことは、どうやって気持ちの整理を付けたら良いのか、解らないでいた。


 鬱々しい想いのまま言われた通りに進んで行く。
ぐるぐると頭中を廻(めぐ)る余計なモノを無視して、知有は目の前の扉を眺める。
木製の大きな扉は威圧感を放っている。
何かの模様が彫られている立派なものだ。
一つ息を吸い込み、ゆっくりと吐き出していく。
握った拳で、こんこん、と叩いた。
暫く待っても返事はない。

「粟冠ー! いるんだろ? クラスメイトの宇津井だけど、おばさんに上がっていいって言われた。えっと、安津先生に頼まれて学校の物、届けに来たのな。開けて?」

中にいるであろう人間に聞こえるようにと声を張り上げ、自分が何者かを告げても、物音一つしなかった。
引き籠もりとは聞いているが、そんなことは構っていられない。
安津に頼まれた物をちゃんと渡さなくては帰れないのだ。
どんどん、どんどん、と何度もしつこく扉に拳をぶつける。

「いるの解ってんだから! あーけーろーよー! もう、勝手に開けるからなー!」
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