CHILDREN CRIME

Neu(ノイ)

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一章:出逢イハ突然ニ

出逢い 08

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「宇津井 七は、もっと理論的だった。君は少し感情が勝ち過ぎているようだね」

七と比べる台詞を放った途端、知有の顔から感情が消えた。
倶利にはそう見えただけの話だが、顔を歪めて泣いていた表情が、スッと『無』になったのだ。
倶利でなくともそう感じたであろう。

「もういいよ。粟冠の行動原理なんか探ってもオレには何のメリットもないし。手当てすんぞ! 救急箱ある?」

だが、『無』に感じられたのも一瞬のことで、諦観した顔付きで頭(かぶり)を振った知有は、すぐにニカッと元気な笑顔を魅せた。
片腕を上げて勝手にやる気を出した知有の顔が部屋を見渡しながら探るように動き出す。

「な、に勝手に」

戸惑うのは倶利で、胸の違和感を消したいが為にした意地悪も功を為さず、それどころか余計に酷くなっている始末だった。
好き勝手に人の部屋を歩き回る知有を止めようと、カッターを床に落とし彼に腕を伸ばす。
その腕を掴むも、振り解かれてしまった。

「あのな! 粟冠の信念が粟冠を動かすことにオレが口出し出来ないように、オレの信念でオレが行動することに粟冠は口出し出来ないの! オレは怪我人を放っておくのはイヤだし、ハルだって困っている人には親切にしなさいって言ってた! オレにとってハルの言葉は絶対なんだ! こんな血塗れ野郎を放って帰ったなんて知れたら、ハルに合わせる顔がないよ。そんなの困るもん」

眉を真ん中に引き寄せ怒った顔を晒す知有の口から出て来た知らない人間の名に自然と嫌悪感を抱く。
今まで抱いたことのない未知の感情が倶利を襲う。
気付くと振り解かれた手で今度は強く知有の腕を掴み引き寄せていた。
彼の小さな体は意図も簡単に倶利の方へと引き寄せられる。
知有の目が丸く見開かれるのを見て、倶利は無意識に口角を少し上げていた。

「ボクは困っていないから親切はいらないけど。ハルって、誰?」

それでも迷惑そうに眉根を寄せて知有を凝視する。

「バカヤロー、他人の親切は有り難く受け取っておくもんだってハルが言ってたぞ! はーなーせー! オレは救急箱探すの!」

知有がワザとらしくぶーぶーと口にして唇を尖らせつつ腕をバタつかせた。
細い知有の腕を大人しくさせることは倶利にとっては簡単なことで、問いに返答を返さない少年を睨む。

「だから、誰それ?」

もう一度強い口調で問うと、知有は黙り込み俯いた。
ちらり、と上目で倶利を窺い目を細める。

「笑わない? バカにしないなら、教えてあげてもいいよ」

言いたいけど言い出せないのだと、そんな雰囲気を醸す知有に見詰められていた。
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