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一章:出逢イハ突然ニ
出逢い 07
しおりを挟む「いるの解ってんだから! あーけーろーよー! もう、勝手に開けるからなー!」
息を潜めていればその内、諦めて帰るだろうと高を括ったのが間違いだった。
ばーん、と勢い良く開け放たれた扉の向こうには、背の低い少年が立っている。
その顔は、正(まさ)しく七が成長したものに思えた。
「宇津井、七?」
思わず口を出た名前に、部屋の惨状に目を丸くしている少年の体が跳ねる。
拳を握り締め、噛み締めた唇は震えていた。
頭の中では七であることを否定する。
現実的に考えて有り得ないことなのだ。
何かを見落としている、と記憶を探る。
「双子の兄か。確か、宇津井、知有」
やっと思い出した存在の名を口に乗せ、乱入者を窺えば、顔面蒼白な顔で、両の眼からは涙を流していた。
嗚咽を必死で堪えているのだろう、噛み締めた唇が切れ、僅かに出血しているようだった。
どさり、と彼の手に握られていた横断バックが床に落ちる。
どしどし、と乱暴に部屋まで入り込み知有がすぐ傍まで近付いた。
「なん、で?」
「何が?」
茫然とした表情の知有の手が、血を垂れ流す倶利の手首を掴んだ。
悲壮な顔で流れる血液を眺め、震える唇を動かしていく。
「七の、知り合いか? 何で、血。怪我、してんの? 自分で、やったの?」
知有の眼が、倶利の右手に握られた血塗れのカッターを捉えていた。
吐く息の荒い彼が、何かに耐えるかのように目蓋を閉ざす。
「見たら解るだろ? 宇津井 七とは、一度だけ会ったことがある。それだけだ」
嘲笑を口元に張り付ける倶利は、内心動揺していた。
知有には解らない内面の変化ではあるが、確かに知有の存在が倶利の心に波紋を齎したのだ。
「なっ、ん、でっ! 自分で死のうとするんだよ? こんなん、こんなの、オレは! イヤ、だ」
止まりかけていた涙は先程よりも大粒になって知有のふっくらとした頬を伝っていく。
嗚咽が溢れるのを厭うように唇を噛み締めても、堪え切れずに知有の唇から漏れる音が倶利の脳を犯す。
訳の解らないざわつきが胸を覆った。
七は決してこんな風には取り乱さなかっただろう。
双子とは言え、その性質は異なっているように思えた。
それが何故だか倶利の心を押し潰していくのだ。
「其れは君のエゴだろ? ボクにはボクの信念がある。君が嫌だと思うのは君の事情でしかない。ボクを動かすのは君の感情ではなくボクの信念だ。君に口出しされる謂れはない」
冷たく言い放ち倶利は冷笑を浮かべる。
意地悪だと解っていて、胸を覆い尽くすザワザワを消したい一心で言葉を投げていた。
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