26 / 59
一章:出逢イハ突然ニ
出逢い 02
しおりを挟むふと、鏡に映る自身の姿が目に入る。
短い黒髪に、他人を威圧するような鋭い黒目。
愛想のない顔。
生気がないのか、太陽光に当たらない肌の色は青白く不健康に見える。
今にも死にそうな顔だ。
死んでしまえば良い、と思う。
しかし、母親を一人遺すことは憚(はばか)れた。
ただでさえ、殺人者の妻という辛い立ち位置に居るのだ。
これ以上は悲しませたくなかった。
詰まり、自殺は出来ない。
其れだから、疑似自殺で誤魔化すのだろうか。
無意識に、包帯の巻かれた左腕を掴んでいた。
隠れている皮膚は、ズタズタに傷付いている。
傷が消えそうになる度に、新しい傷を増やした。
そうでもしなければ、倶利は自分を保てそうになかったのだ。
其れは、世間からすれば疑似自殺に過ぎない行為であるが、倶利にとっては、食事や呼吸と同じく、生きるためには必要不可欠な行為だった。
自分に生きる価値を与えるには、罰が必要なのだ。
大人が気付かないのだから、自分自身で罰するしかない。
最良の選択だと、彼は思い込もうとしていた。
宇津井 七が死んだと知った日から、倶利は堪えられなくなったのだ。
己の罪の重さから逃げないように、償うために、彼はひたすらに自分自身を傷付ける。
それを間違っていると、指摘する人間はいなかった。
否、人間と出逢うことを拒否しているのだ。
誰にも倶利を止めることなど出来はしない。
顔を洗い終えてキッチンに向かう倶利の鼻に、美味しそうな香ばしいパンの香りが漂ってきた。
「あら、今日はゆっくりなのね。おはよう、倶利」
「……寝坊したから。今日は昼から?」
台所を覗けば、母親の京(ミヤコ)がトースターの前で弁当箱におかずを詰めている。
扉を開けて柱に寄り掛かると、倶利に気付いたのか、京の顔が此方に向いた。
続いた台詞に、苦々しく笑うと弁当箱を見詰めながら問い掛ける。
京は看護婦として働いていた。
今は近くの市民病院に勤務している。
夜勤や昼勤、時には不規則な時間帯でシフトに入ることもあった。
「ええ、夜は遅くなるから適当にやって頂戴ね」
申し訳なさそうに微笑む彼女から視線を外して頷きだけを返す。
切ない顔をさせたいのではないのに、今の自分では何も出来ないのだ。
無力感に襲われた。
「倶利もトーストで良いかしら? 焼いちゃうわよ」
そんな倶利の気持ちを知ってか知らずか、努めて明るく宣う京にもう一度頷く倶利であった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
リモート刑事 笹本翔
雨垂 一滴
ミステリー
『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。
主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。
それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。
物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。
翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?
翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!
グリムの囁き
ふるは ゆう
ミステリー
7年前の児童惨殺事件から続く、猟奇殺人の真相を刑事たちが追う! そのグリムとは……。
7年前の児童惨殺事件での唯一の生き残りの女性が失踪した。当時、担当していた捜査一課の石川は新人の陣内と捜査を開始した矢先、事件は意外な結末を迎える。
ヨハネの傲慢(上) 神の処刑
真波馨
ミステリー
K県立浜市で市議会議員の連続失踪事件が発生し、県警察本部は市議会から極秘依頼を受けて議員たちの護衛を任される。公安課に所属する新宮時也もその一端を担うことになった。謎めいた失踪が、やがて汚職事件や殺人へ発展するとは知る由もなく——。
暗闇の中の囁き
葉羽
ミステリー
名門の作家、黒崎一郎が自らの死を予感し、最後の作品『囁く影』を執筆する。その作品には、彼の過去や周囲の人間関係が暗号のように隠されている。彼の死後、古びた洋館で起きた不可解な殺人事件。被害者は、彼の作品の熱心なファンであり、館の中で自殺したかのように見せかけられていた。しかし、その背後には、作家の遺作に仕込まれた恐ろしいトリックと、館に潜む恐怖が待ち受けていた。探偵の名探偵、青木は、暗号を解読しながら事件の真相に迫っていくが、次第に彼自身も館の恐怖に飲み込まれていく。果たして、彼は真実を見つけ出し、恐怖から逃れることができるのか?
ティーチャー - TEACHER
Neu(ノイ)
BL
R-15/スピンオフ/虐待/暴力/片想い/同級生/高校生/教師→刑事/etc.
【忠樹→榛伊/片想い】
13歳で父を事故で亡くし母子家庭となった安津 忠樹(アンヅ タダキ)は、父がいなくなってから精神を病み始めた母との間に生じた溝を埋められないままに月日を過ごしていた。
ノイローゼ気味の母に暴力を加えられる日々から数年。
高校に進学した忠樹は、クラスメイトの男に興味を抱くようになる。
坂中 榛伊(サカナカ ハルイ)は、無表情で周りと馴れ合う気の全くない一匹狼だった。
そんな彼に近付こうと躍起になる忠樹は、榛伊の抱える事情を知る度に彼に惹かれていき、気付けば恋心を抱いているのだった。
恋心を押し殺し親友として十数年も榛伊の傍に居続けた忠樹が、我慢出来なくなって榛伊を押し倒すまでのお話(「CHILDREN CRIME Ⅱ」の途中辺りまで)
忠樹→榛伊が忠樹×榛伊になるかは、まだ決まっていませんが。
榛伊が結婚しないことは決まっているので、いっそ両想いになればいいのにと作者は思っております。
*不定期更新。
軽い性的描写があります故、中学生含む15歳未満の方は、自己責任に於いて判断をお願い致します。
当方では、如何なる不利益を被られましても責任が取れませんので、予めご理解下さいませ。
タイトル横に*印がある頁は性的描写を含みますので、お気を付け下さい。
此方の作品は、作者の妄想によるフィクションであり、実際のものとは一切の関係も御座いません。
また、作者は専門家ではありませんので、間違った解釈等あるかと思います。
「CHILDREN CRIME」から派生したお話となります。
ネタバレが含まれてしまうこともあります。
本編の「CHILDREN CRIME」は、BL要素はありつつもBLではありません。
苦手な方は読まれないことをオススメ致します。
以上のことご理解頂けたらと思います。
ミッション・オブ・リターンゲーム
桜華 剛爛
ミステリー
・主人公である御鏡 連夜(みかがみ れんや)が気が付いた場所は、何処かのホテルの一室であるかの様な場所で、自分の寝ていたベッドと衣装ケースがあるだけだった。
そして、彼の腕には腕輪が着けられていた・・・。
訳が解らず直ぐにこの部屋を出た彼を待ち受けていたのは・・・・、彼は何かの刃物で首を切り落とされてしまった。その状況は一瞬だったので痛みも感じず、しかし彼の脳内には強く記憶された・・・・。首を飛ばされた自分の身体とその首を飛ばしたものを見ながらそっと目を閉じ、その後何故か脳内でノイズの様な雑音とともに意識が途切れた・・・・・。
・
・
・
なぜか、また同じ部屋で目を覚ましたのであった・・・・・。
あれは夢だったのかそれとも現実なのか、それはわからない。 それに夢の中で同じ様な夢を数回見ている。 いよいよ訳が解らなかった。
これは、始まり何のか?それとも・・・・・・。
これより始まる彼のいや、彼らによる奇妙な事と夢か現実か区別のつかない体験、そして彼は・・・いや彼らは生還できるか?それとも消えてしまうのか? これから死と隣り合わせミッションゲームが始まる。 そして、脱出でき平和な日常に帰還できるのか・・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる