CHILDREN CRIME

Neu(ノイ)

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序章:点ト点ト、ソノ先

電話 03

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 二人はそういうものだった。
正反対だからこそ補い合う、そういうものに見えた。
榛伊にとっては、得体の知れぬ感覚だ。
あの二人だけが周りとは違った。
友情でも親愛でもない、信頼も疑心も何もない、無の上に成り立つ関係は、やけにくっきりと浮かび上がる。
ギブアンドテイクだけではない。
何かを与えては奪われ、何かを奪っては与えられる。
奪った以上のものは与えられないし、奪われた以上のものが与えられることもない。
人間はそうやって生きていくものだと思いたかった。
その方が楽に生きられると、そう思っていたかった。
ギブアンドテイクだけで十分だったのだ。
それなのに、神田と荻原の間には、ギブアンドテイクだけではない何かが確かに存在する。
奪うだけ奪い合い、与えるだけ与え合い、理解することもなく離れていく他人にはない何かが在った。


 だからだろうか。
榛伊は二人が苦手だ。
厳密に言うならば、二人の揃った空間が嫌だ。
居心地が悪い。
嫌いではないのに、嫌で嫌で仕方がなかった。
単体でいる分には何の問題も示さない。
要は、二人の間に流れる空気が苦手なのだ。
あまりにも当然かの如く互いの存在を認め合っている。
良く解らなかった。
否、解りたくなかった。
まるで、今までの自分が憐れだったと、認めることになりそうで、榛伊には認めることが出来なかった。


 無意識の内に神田を凝視していたようで、ボールペンを持つ手が止まっていた。
彼は、書類そっちのけで、だらけた体を椅子に預けている。
榛伊の視線に気付いたのか、顔を上げた神田が怪訝な目で窺ってきた。
何とはなしに気まずくなり、視線を下にずらす。
ちょうど視界に入った書類は、後少しで全部片付きそうだった。

「何でぇ、坂中。言いてぇことがあんなら言ったらどうだ」
「いえ、何でもありません。少し考え事を」

していたもので、と言う語尾は扉の開く音で掻き消されてしまった。
神田の仏頂面がニヤケ顔に変わる。
来訪者の訪れに榛伊も顔を上げた。
部屋の中央には、ストーブの上に水の入ったヤカンが、加湿の為に置かれている。
其処から昇る湯気が仲介して、曇って見える先には、荻原が立っていた。
神田の片腕が上がる。
荻原は無言で首を縦に振った。
これが彼等の挨拶だ。
特に会話をするでもなしに、二人は各々(おのおの)に動く。

「坂中は考え事かい。んな暇あんなら、俺の仕事でも分けてやろうか?」

意地悪く神田の指がデスクを叩いた。
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