CHILDREN CRIME

Neu(ノイ)

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序章:点ト点ト、ソノ先

虐待 03

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 服の袖で涙を拭き取る。
深呼吸をして息を落ち着かせた。
手紙を折り畳み、可愛らしい動物の絵が描かれた封筒にしまう。
其を引き出しの奥に隠した。


 椅子から立ち上がる。
振り向いて部屋を見渡した。
狭い子供部屋。
二人で共有している筈の空間には、七の物しかない。
机も本棚も、玩具箱すらも七の物なのだ。
知有には何一つ与えられない。
かと言って、七に与えられてきたものが幸せな訳でもなかった。
お互いに手に入らぬものを望んでしまったのだろう。
本棚の前で座り込み、絵本を読む知有を眺めてはそんなことを思った。


 知有は感情を閉じ込めた。
言葉も封じた。
七が追い詰めた。
心が痛む。
これからまた知有を傷付けるのだ。
心を鬼にしたところで、安穏は訪れない。
それであっても、七は行動に移す。

「邪魔だよ。まだそんなの読んでるんだ? 馬鹿だね、知有は」

上手く嘲笑出来ているだろうか。
知有は七を見ることもなく絵本を眺めている。
七は知有の体に蹴りを入れた。
ふっくらとした肉付きの体は、されるがままに本棚に倒れ込んだ。
反動で知有の顔が上向く。
無だった。
虚空を見詰めている知有には、何も無かった。
ふと知有の視線が七とかち合う。
一瞬、悲し気に歪んだようにも見えた其は、矢張り無表情でしかない。


 責められている気がした。
七は必死で平常心を保ち、本棚から一冊本を抜き取る。
七は狂っているのだ。
狂った人間がすることをしなくてはならない。
知有に向けて投げ付けた本は、彼の腕に当たり床に落ちた。
七は知有を一瞥して子供部屋から逃げ出すのだった。




 其は、狂宴が始まる数時間前の出来事。
予期せぬ結果に終わるなど、この時の七には知る由もない。




タダ、君ダケヲ想ッテ、狂人ヲ演ジテミセルヨ。
コノママ弐人シテ堕チルグライナラ、自分ダケガ堕チテ行クカラ。
ダカラ、君ハ幸セニナッテネ。

愛シイ愛シイ、オ兄チャン
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