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一章:幸せを知らない男は死にたいらしい
兄と弟 02
しおりを挟む慌てて答えるサチの額に手を置き頷く安存の表情は優しい。
ホッとして、ふにゃり、と頬が弛んだ。
「大丈夫だよ。これから知っていけば問題は何もないからね。取り敢えず、僕と零仁はさっちゃんに危害を加えたりはしない。それは約束させて貰うし、出来うる限りの援助はするつもり。本当は大事なゆっ君を誰にも渡したくはないんだけど。さっちゃんになら譲ってあげてもいいかな。……こんな大切そうに抱えて幸せ一杯な顔をされたら、お兄ちゃん応援するしかないよね」
寂しそうに、それでいて嬉しそうに、幸在を見詰める安存の手が少年の頬を突付く。
睡眠を貪る幸在が身動ぎ、サチの首筋に顔を埋めてくる。
寝息を耳元で感じ擽ったくて仕方がない。
「でも、さっちゃん。君は生きる努力をしないといけない。もしも生きる意思がないのなら、僕が殺してあげるよ。ゆっ君と生きるか、今ここで死ぬか。どっちを選ぶ?」
にこやかに笑う安存の瞳に凝視され、ゆっくりと瞬いた。
ニコニコとした愛嬌のある男の目は笑っていない。
幸在に対して真剣なのだと伝わってきた。
「オレ。おっちゃん死んだのに生きててええのかわからへん。おっちゃんのとこに行かなアカンのやないかって思います。でもオレ。ユキさんと生きたいんよ。許されるなら、ユキさんといたいです」
そっかあ、と口にした安存の掌がサチの頬に触れる。
さわり、と撫ぜられ肩がビクつく。
「ゆっ君と生きるなら、さっちゃんは僕の家族でもあるからね。伴侶にするつもりらしいし、義弟になるのかな」
ふっ、と息を吐いた安存の双眸が細まり、切なそうに微笑んだ。
こつん、と額がぶつかり目の前に可愛らしい顔が広がる。
「ゆっ君のこと、頼んだよ?」
唐突に真顔となった男に凄まれ、反射的に頷いていた。
可愛らしさからは想像出来ない程に迫力があり、思わず唾を呑み込む。
首肯するサチを見て満足したのか、安存が離れていく。
「一つだけ、忠告。僕とゆっ君の生まれた家は、いけないことをして生計を立てる職業だから、人から嫌われるし嫌がられる。幾ら家を出たところで偏見の目はなくならない。誰かと生きると言うことは、抱えた物を共有すると言うことなんだよ。さっちゃんの傷をゆっ君は絶対に蔑ろにはしない。君を生かす為に全力を尽くすんだろうね。だからさ、さっちゃんもゆっ君の傷を見捨てたりしないで欲しいんだ。今はよく解らなくてもいいよ。ゆっ君が傷付いた時に傍にいてくれるだけで、それだけでいいんだ」
縋るみたいな眼差しだとサチには思え、意味もよくわからずに「はい」と返事をしてしまう。
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更新ありがとうございます。
幸が、とても可愛いかったです😊
幸せになって欲しいです!!
感想有り難う御座います!(*‘ω‘ *)
幸の可愛さを解って頂け、とってもテンション上がりました(笑)
途中、辛いこともありますが。幸在さんが人生を賭して幸を幸せにします。
これからもユキサチの二人を温かく見守ってやって下さいませ。