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一章:幸せを知らない男は死にたいらしい
閑話:ユキさんとちょきちょき 09
しおりを挟む痛々しい痕の残る肌は、痛みはないと認識していても、触れることに躊躇してしまう。
彼が受けてきた痛みを思うと、自分の胸が張り裂けそうだった。
「痛くないか?」
古傷だから痛まない、と青年の口から先日聞いたことを覚えてはいる。
それでも聞かずにはいられなかった。
「大丈夫ですよ。せやから、ユキさんがそないな顔せんでもええのです。ホンマに痛くないねん」
きゅ、と眉間に皺を寄せ困惑を示す男に仄暗い喜びを覚えた。
それがどういった感情なのか、少年には解らない。
ただ彼の中に自分の存在が刻み込まれていく感覚が、得も知れず嬉しい。
「……お前の傷を一つ残らず消し去れたら、俺の痕だけを着けられるのにな」
無理だと解っていて零れ落ちた言葉に青年は更に困惑顔にとなり、口唇がパクパクと開閉している。
そんな様子ですら愛しく思え、少年の口元は知らずに弛んでいた。
入浴を終え身体から立ち昇る湯気を引き連れ脱衣所で男の水気を拭う。
青年の短くなった髪にバスタオルを引っ掛け、くしゃくしゃと撫でた。
浮浪者のようだった男が幸在の手で徐々に変わっていく。
昨日暴れたのが嘘のように大人しくされるがまま拭かれているサチに所有欲が満たされていく。
「好きだよ、サチ」
本意など伝わる筈もない言葉を口に乗せ、少年は華奢な男を腕に閉じ込める。
逃げ場などないのだと青年に知らしめるかのように強く掻き抱いていた。
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