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一章:幸せを知らない男は死にたいらしい
存在しない男 15
しおりを挟む一つ一つ指差し説明を加える。
取り敢えず、必要最低限のことを教え、スーパーの方角に足を向けた。
* * * * * *
スーパーで大興奮するサチに数と量の概念を軽く説明し、無事に必要な物を購入し終えて帰途に着く。
買い物袋を片手に提げ、もう片手は青年の手と繋がっている。
買い物の最中も握っていた手と手は、他の買物客の視線を誘ったが、幸在は気にもしなかった。
サチは気付いてもいない様子で初めて知る世界に夢中だった。
マンションの部屋に戻り、冷蔵庫にしまう食材と常温の食材とに分ける。
仕舞う場所をサチに教え、遅い昼食作りを始めた。
時間的には夕食になってしまうだろう。
青年に器具の場所と、使い方の知らない物は説明もし、指示を出しながら一緒に調理する。
一通りのことは出来る様子だったが、使い慣れた器具でない為か色々と戸惑っているようだった。
数や量の概念が抜けているので、大さじ1、などの指示も通らなかった。
聞けば野菜炒めや温野菜などの簡単な調理しかしたことがなく、それ等を作る時の調味料の適量は体で覚えていると言う。
言葉で言われても理解できないが作ることは出来るらしい。
今後それでは困るので、一から教えていく。
真剣な顔で料理をしているサチはとても楽しそうにしていた。
食事が遅くなっても気にならないぐらいに男に教える行為は幸在にも得も知れぬ高揚感を与えている。
「あ、ご飯炊けました! ユキさん、オレ、腹ぺこや。楽しみやね」
ぴーぴー、と炊飯器が鳴り、サチは全身で喜びを現す。
青年が茶碗に白米をよそう間に、幸在は平皿にと麻婆豆腐を乗せていく。
二人で茶碗と平皿を部屋のローテーブルまで運び、向かい合って座った。
食事を済ませ、入浴を終えて、自室にと向かう。
ローテーブルの前に男を座らせ、入浴時に短く切り揃えた青年の髪をドライヤーで乾かしていく。
大きな音にも慣れたのか、サチは心地良さそうに幸在にと背を預けきり、されるがままになっていた。
「明日は一日、ユキさんと一緒なん、オレ、すんごく楽しみです」
ドライヤーの電源を切り、コードを抜いた幸在を振り向き様に見詰め、えへへ、と笑う青年の痩せ細った体躯に腕を伸ばす。
ぎゅうぎゅう、と抱き竦め、額に口付けた。
擽ったい、と身を捩る男を抱き上げ壁際の電気を消し、ベッドに転がす。
「俺も宿題をするから、サチは平仮名の勉強だな。料理も一緒に作ろう。おやすみ、サチ」
寝るには早い時間だったが、試合の疲れもあり、眠気に襲われる。
抱き締めたサチの首筋に鼻を埋め目を瞑った。
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