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一章:幸せを知らない男は死にたいらしい
存在しない男 13
しおりを挟む「引き続きその男について調べてくれ。消えた子供の情報も詳しく手に入れろ。20年~15年程前の幼児の行方不明者をリストアップしておけ。何か解ったらまた連絡を。今日は助かった。有り難う零仁」
いえ、と軽く頭を下げた零仁が踵を返す。
扉に手を掛けた男が振り返り、幸在に笑みを向けてくる。
「では、私は帰りますが。安存様に伝言があればお伝えしますよ?」
食えない男だ、と内心舌打ちをしたくなった。
俯き首を左右させてから緩慢に顔を上げる。
普段ならば伝言など託さないが、調査をして貰う立場でそういう訳にもいかなかった。
「協力感謝する、また礼に伺う。そう伝えて欲しい」
了解致しました、と部屋を出た零仁の後に続いてダイニングキッチンにと向かう。
「では、サチさん。私は帰りますが、続きのお勉強は幸在さんから教わって下さい」
もたもたと着替えているサチに言葉を掛けるとスーツの眼鏡は出て行った。
煩い姑がいなくなり、知らず知らず溜息を吐き出す。
兄の元に戻った零仁から報告されるだろう内容と、今後齎されるだろう兄からの揶揄いが面倒に思える。
「サチ。上に羽織れば見えないから大丈夫だ」
デニムパンツを穿いている男に声を掛けながら薬局の袋からヘアゴムを取り出す。
白地に幾何学模様がプリントされたシンプルなTシャツは長袖で、首元からは傷痕がチラチラと覗く。
痩せているからか、首周りから中が見えてしまうのは仕方がないだろう。
この時期、タートルネックでは流石に暑い。
それでも気になるのか、ズボンに足を通しながらも何度も首に手をやる青年に畳まれている上着を放り投げた。
薄い黄色の薄地パーカーがサチの頭に、ぱさり、と掛かり、男はきょとんとした面持ちで頭上のパーカーを掴む。
「はい、おおきにです。あの、オレ、ホンマにスーパー行ってもええのですか?」
立ち上がりチャックを閉め上着に腕を通す青年の表情に戸惑いが浮かぶ。
幸在の伸ばした手がサチの頬を撫でた。
「覚えて貰うことが沢山ある。買物も勉強だ」
傾いでいく頭を撫で、長い髪を指で梳いていく。
昨日洗いはしたが、傷んでしまっている髪はキシキシとしていた。
トリートメントも必要か、と胸中で買う物リストに追加し、髪を一つに括りゴムで縛ってしまう。
「べんきょー、は。オレのする仕事だって聞きました。字を覚えたり買物に行くのが、オレの仕事、なんやろか?」
羽織ったパーカーのジッパーを上げ切った男は長い袖口が気になるのか、其処をジッと凝視している。
徐に余った部分を何度か握って離してを繰り返し、唇を尖らせた。
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