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一章:幸せを知らない男は死にたいらしい
存在しない男 09
しおりを挟む照れた顔で頭を掻いている男を横目に、何枚もある紙に目を通す。
緊張した面持ちで腹の前で拳を握っているサチの額を指で弾いた。
「練習すれば上手く書けるようになる。今は上手く書くことよりも覚えることに専念しろ。……サチ、イイ子だったな」
あて、と呟き額を押さえる青年の柔らかな髪を梳いていくと、サチの口角が上向き、嬉しそうに笑う。
その顔に幸在の胸には充足感が溢れた。
「ユキさん、明日はいなくなったりせぇへんですか? オレ、オレ。逃げへんかったのに、ユキさんおらんから、捨てられたのかと思ってん」
唇を尖らせ上目に窺ってくる男の頭を固定し、額に口付けを落とす。
キスの意味も知らないだろう青年は、もっと、とねだるみたいに顔を上げてくる。
瞼に頬に接吻を与え、鼻の頭を舐めた。
本当は唇に噛み付きたくて、それでも、幸在は我慢する。
ぐっ、と堪え華奢な体躯を抱き締めた。
「悪かった。明日は一日いるから安心しろ。俺がお前を捨てることはない。サチが逃げても絶対に捕まえて死ぬまで傍におく。要らない心配はしなくていい。――好きだよ、サチ」
こつん、と額に額を合わせると、青年の口が頬に触れてくる。
昨日は「身体が好きだ」と言われ取り乱していたが、肉体の傷を連想させない好きは案外すんなりと受け入れられるようだった。
「オ、オレも。ユキさん好きやよ。おっちゃんとおんなじぐらい好きやねん」
へへ、と笑うサチの言う「好き」は、幸在とは違う種類のものだと解っていた。
彼の抱く好意はライクであってラブとは違う。
その違いを理解していなくとも、今はそれで十分だった。
「もやしとどっちの方が好き?」
「えっ!? ええー、そ、そんなん! 選べんですよ」
意地悪く問えば、案の定、もやしと同等だという返答がやってくる。
焦った顔で両手を上げ下げしている男の鼻を抓んだ。
「……口をくっつけるのは俺以外の奴にはするなよ?」
恐らく、青年の中でキスは好きなものにするのだと認識されてしまったのだろう。
誰彼構わずにしそうな気がした。
「ダメなん? キリヤさんにもしたらアカンのですか? オレ、キリヤさん好きやねん」
鼻を抓まれたままで首を傾ぐ青年を睨み付ける。
想像が頭に映像として像を結び、腹が立った。
「駄目に決まってんだろ。お前は俺の犬なんだ。していいのは俺にだけ。されるのも俺からだけだ。解ったな?」
有無を言わせない強い口調で口にすればサチの首は、こくり、と縦に動く。
従順な青年に満足し、男の手を引いてダイニングキッチンにと移動した。
「零仁、外着をサチに」
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