17 / 25
序章:俺、刑事辞めるわ
動かない片足 01
しおりを挟む【動かない片足】
どれだけの時間をその男が大の男を抱えて歩いたのか。
足を負傷した神田 博信(カンダ ヒロノブ)を隣の市の病院まで担いで歩いた荻原 定義(オギワラ サダヨシ)は、博信を医者に任せ、諸々の手続きを終えた後に意識を失ったと言う。
博信が目を覚ました時には、定義の姿はなかった。
集中治療室だからか、震災の影響なのか、慌ただしい中で、博信は喉がカラカラに渇いていることに気付く。
日付が変わり朝なのだろう、と掛け時計を見て判断した。
「神田さん、気付きましたか? ご気分はどうです?」
看護師が目聡く近付いて来て顔を覗かれる。
あー、と掠れた声で間延びした声を上げた。
「大丈夫、です」
手首から伸びる点滴の管の中を、ぽたぽた、と雫が落ちていく。
身動ぎしようとして、股間に違和感を覚えた。
手術のため尿道に管をさしたことを思い出し眉を顰める。
「お昼まで様子見て大丈夫なようなら一般病棟に移れますよ。お連れ様も一般病棟にいますけど。あんな瓦礫の中を大人一人抱えてお一人で歩いて来るなんて無茶を良くもまあされたもので。神田さんを預けた後、暫くして倒れたんです。先生が怒っていましたよ」
血圧計を腕に装着しながら看護師に呆れを含んだ目で言われた。
博信は瞬きを繰り返す。
状況を呑み込めていない。
「……俺も止めたんですがね。人の言うことなんか聞きゃあしない上司なんですよ。彼奴、大丈夫なんですか?」
ふしゅふしゅ、と看護師が黒いポンプを押す度に腕に巻かれた帯に締め付けられる。
帯と腕の間に聴診器を当てる看護師が笑顔で頷くのを見て安堵した。
「疲労と緊張状態が続いたことによる一過性のもので問題はないそうですよ」
血圧を測り終えると人差し指に機械を着けられる。
酸素飽和度を測る機械だと説明されても詳しいことは理解出来ない。
数値に問題ないと告げた看護師は他の患者の元にと去って行った。
昼になってもう一度バイタルチェックを行った。
異常なしと言うことで集中治療室から一般病棟にと運ばれる。
ベッドに横たわったまま看護師に運ばれる最中、お腹空いた、とそればかりを考える。
地震が起きてから何も食べていないのだ。
空腹を訴えても仕方ないだろう。
夜までは飲食を禁じられている。
夕餉に予定されているのは重湯だった。
おかずは当然の如くない。
何にせよ腹を満たすことは数日の間は無理だと知っている。
明後日までお粥だと献立表に書いてあった。
おかずが出るのも明後日からだ。
栄養は点滴で取っているので肉体的には問題ないのだろう。
精神的にはかなりキツイ。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる