ポリス - POLICE

Neu(ノイ)

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序章:俺、刑事辞めるわ

動かない片足 01

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【動かない片足】


 どれだけの時間をその男が大の男を抱えて歩いたのか。
足を負傷した神田 博信(カンダ ヒロノブ)を隣の市の病院まで担いで歩いた荻原 定義(オギワラ サダヨシ)は、博信を医者に任せ、諸々の手続きを終えた後に意識を失ったと言う。
博信が目を覚ました時には、定義の姿はなかった。
集中治療室だからか、震災の影響なのか、慌ただしい中で、博信は喉がカラカラに渇いていることに気付く。
日付が変わり朝なのだろう、と掛け時計を見て判断した。

「神田さん、気付きましたか? ご気分はどうです?」

看護師が目聡く近付いて来て顔を覗かれる。
あー、と掠れた声で間延びした声を上げた。

「大丈夫、です」

手首から伸びる点滴の管の中を、ぽたぽた、と雫が落ちていく。
身動ぎしようとして、股間に違和感を覚えた。
手術のため尿道に管をさしたことを思い出し眉を顰める。

「お昼まで様子見て大丈夫なようなら一般病棟に移れますよ。お連れ様も一般病棟にいますけど。あんな瓦礫の中を大人一人抱えてお一人で歩いて来るなんて無茶を良くもまあされたもので。神田さんを預けた後、暫くして倒れたんです。先生が怒っていましたよ」

血圧計を腕に装着しながら看護師に呆れを含んだ目で言われた。
博信は瞬きを繰り返す。
状況を呑み込めていない。

「……俺も止めたんですがね。人の言うことなんか聞きゃあしない上司なんですよ。彼奴、大丈夫なんですか?」

ふしゅふしゅ、と看護師が黒いポンプを押す度に腕に巻かれた帯に締め付けられる。
帯と腕の間に聴診器を当てる看護師が笑顔で頷くのを見て安堵した。

「疲労と緊張状態が続いたことによる一過性のもので問題はないそうですよ」

血圧を測り終えると人差し指に機械を着けられる。
酸素飽和度を測る機械だと説明されても詳しいことは理解出来ない。
数値に問題ないと告げた看護師は他の患者の元にと去って行った。




 昼になってもう一度バイタルチェックを行った。
異常なしと言うことで集中治療室から一般病棟にと運ばれる。
ベッドに横たわったまま看護師に運ばれる最中、お腹空いた、とそればかりを考える。
地震が起きてから何も食べていないのだ。
空腹を訴えても仕方ないだろう。
夜までは飲食を禁じられている。
夕餉に予定されているのは重湯だった。
おかずは当然の如くない。
何にせよ腹を満たすことは数日の間は無理だと知っている。
明後日までお粥だと献立表に書いてあった。
おかずが出るのも明後日からだ。
栄養は点滴で取っているので肉体的には問題ないのだろう。
精神的にはかなりキツイ。
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