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序章:俺、刑事辞めるわ
14:17、地震発生 04
しおりを挟むあまりの八潮の怯え方が面白く、博信はついつい笑ってしまう。
はは、と笑いながら定義に凭れている状況から体勢を立て直そうとすると、掴まれた手首に抵抗を感じた。
「神田、少し良いですか?」
「あ? ここじゃあ出来ねぇ話か?」
そのまま手を引いて部屋から出ようとする定義に訝しむ目線を送る。
彼は曖昧に微笑み、躊躇する博信などお構い無しで手を引いて部屋の外にと向かって行く。
その様を眺めている八潮は困ったと眉尻を下げて頭を掻いている。
傍観者を決め込み無表情の榛伊ではあるが、定義と博信が揃う空間が苦手だと宣う彼は緊張したのか溜息を吐き出した。
連れて行かれたのは、鑑識課を出てすぐにある自販機とベンチの置かれたちょっとした休憩スペースだった。
片手首を持たれたままの状況に居心地悪く唇を尖らせる。
「なんでい、荻原。俺は忙しいんだ。手短にしろや」
「僕だって忙しいですよ? 手続き頼むと勝手を言って電話を切った、上司を上司とも思っていない部下が一人いましてね」
くすり、と口角を持ち上げた定義の両手が博信の頬を包み込んだ。
咄嗟に体を退こうとして定義の目が笑っていないことに気付く。
表情は怒っていないが、ヒシヒシと圧を感じて動けなくなった。
普段は優男なのに定義には言い知れぬ迫力があるのだ。
「そりゃあ何か、俺のことか?」
「他に誰がいるんです? この業界広しとも僕をパシリのように扱うのは君しかいませんよ。まあ、そういうところも含めて好きなんですがね」
さわり、と指先が頬を撫でていく。
定義の始終ニコニコとした顔が近付いてくる。
にこやかな癖に相変わらず目だけは何かに怒っているようで、好意を伝えられても博信は怖くて身動き一つ取れない。
「ただ、八潮君の前で無防備にしている君を見ると、腸が煮えくり返って酷いことをしたくなります。僕が同じことをしたら嫌がるでしょうに大人しくされるがままにして。……消毒しますよ」
「は? 何の話……って、ちょっ、おい!」
何の話なのか理解出来ずに目を白黒させている間にも定義との距離は縮み体が密着していた。
顔が見えなくなったと思えば頬に湿った感触を感じ、眼を大きく見開く。
「なんで神田は昔から八潮君にだけ無防備なんです? 幼馴染なのは知っていますが、普通は幼馴染でも頬擦りなんてしないって、解ってます?」
「や、ちょ、落ち着けよ。八潮ちゃんは特別だろ。彼奴は家族同然だし、熊みたいで可愛いじゃねぇか。珍獣手懐けてるみたいで」
流石に顔を舐められ無抵抗ではいられず、定義の肩を掴み引き剥がそうとするが、離れていかない。
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