僕等は愛の意味を履き違えている

一章：援交とタローさん

性交はイコールで愛になるか 23＊

気持ち良いだけではない胸の痛みも含めてセックスなのだと知った。
温かな充足感も、この零れてしまいそうで、それなのに行き場のない焦燥感も、掴めそうで掴めない相手の気持ちも、おかしくなりそうな恐怖も、ごちゃごちゃに入り混じった複雑なモノが性交なのだ。
ただ黙って足を開き、男の欲の捌け口になることがセックスではない。
其処に愛などなかった。
一方的な行為に愛を求めても無駄だったのだ。
求め合うからこそ性交は愛となり得るのだろう。
そんな当たり前のことが、僕には今の今まで解らなかった。
今更過ぎて後悔も過ぎらない。
ただただ切なさだけが胸にある。
互いの欲をぶつけ合うのがセックスならば、お兄さんに伝えるべき言葉が僕には存在した。

「タ、ロー、っ、さ、ん。タロー、さん」

何度も縋るみたいに呼んだ名前は彼の唇に吸い込まれていく。
そのまま激しく男の欲望を抽挿され、合わさった口唇から色の籠もった呻きが漏れる。

「キィ君。中で、っ、出してもいい？」

本当は伝えたい言葉があった。
けれども、襞という襞を擦られ、奥の奥を抉られ、僕の頭からは言語というものが消えてしまう。
コクコク、と頷き両脚を彼の腰に巻き付けた。
男の欲を受け止めることしか考えられない。

「ぁっ、あ、っ、っ、だ、して」

必死で口にしたのに、またもや唇に塞がれて何も言えなくなってしまう。

「っ、ふ、っぁ、っっ、っ」

一際深く強く奥を穿たれ、抉られて、僕は体躯をビクつかせる。
イッたばかりの陰茎からは白濁掛かった液体が少量飛び散り、軽く達していた。
タローさんの腰に絡めた足に力を込めて仰け反ると、自然に下腹部に力が入る。

「あー、ヤバイ。イキそう。イクよ？　キィ君、キィ君！」

何度も名前を呼ばれた。
偽物の名前を愛しそうに口に乗せられ、胸に湧いた寂寥感が僕を苛む。
最奥に肉塊を打ち込んだお兄さんの身体が、ビクビク、と微動し、熱いモノが拡がっていく感触に涙が零れた。
温かい愛に身の内が満たされ、溢（あふ）れ返っているのに、虚しい虚無感に支配されている。
嬉しさを悲しみが覆い尽くし、僕の体内は罪悪感で埋め尽くされた。

「ごめんね、中出しは流石に……嫌だった？」

静かに頬を濡らすのを男の指が拭っていく。
勘違いさせてしまったことに、また心が痛んだ。
ナカにいる彼の欲も萎れていくのが解る。

「ちがくて。うれ、し、っ、かった、けど。タローさんとは、もっと違う形で、会いたかった。……愛は、お金でも買えないんだね。気持ちがなければセックスに意味はないんだね。もっと早く知りたかった」