僕等は愛の意味を履き違えている

一章：援交とタローさん

性交はイコールで愛になるか 04

彼の唇から熱い吐息が吐かれる。
もう、マンションのロビー入口の前まで来ていた。
自動扉が開き、中に入る。
お兄さんは郵便受けを確認した後で、部屋に繋がる自動扉の横にあるタッチパネルを操作した。
うぃーん、と扉が開いて、二人で奥に進む。
廊下を少し歩くと、彼は立ち止まった。
エレベーターで上まで行くようだ。

「何階？」
「10階だよ。高いトコって、ワクワクしない？」
「する。夜景が綺麗なんだろうな」

エレベーターに乗り込みながら、他愛ない話を交わす。
どくんどくん、と五月蝿い心臓は、初めてのホテルでないところに緊張しているのだと、無理に理由を付けた。
ちーん、とエレベーターが音を鳴らして止まる。
昇降する箱から降りて、一番隅っこの部屋まで歩いた。
お兄さんは鞄を探り鍵を取り出す。

「どうぞ、大したとこじゃないけど」
「お邪魔しまーす」

開けた扉を押さえてくれる彼と、手が離れていく。
寂しいな、と思う自分を押し込めて、勧められるままに中に入る。
一人暮らし用のマンションだという其処は、１ＤＫだった。
玄関は少し狭いようにも感じるが、一人暮らしの男性には充分だろう。
靴を脱いで上がり込むと、少し広いキッチンで、ダイニングキッチンと言うのだと教えて貰った。
奥に扉があり、彼は引き戸になっているその扉を開けて、僕の背中を押した。
勢いで入った部屋には、ダブルサイズのベッドと、仕事で使うのだろう机が置かれていた。
後は、押し入れとクローゼット、収納棚があるだけで、至ってシンプルだ。
ベッドに座って、と言われたのでぼふん、と弾む其処に腰を下ろす。

「お風呂、ユニットなんだ。使い方解るかな？　ビジネスはユニットが多いけど、ラブホは違うからね。使ったことある？」

コートを脱いで、クローゼットに仕舞い、彼はスーツを脱ぎながら聞いてくる。
僕は首を横に振った。

「じゃあ、使い方教えるよ」

手早くＴシャツとスラックスというラフな格好に着替えたお兄さんに手を引かれてベッドから降りる。
キッチンに戻り、引き戸のある場所を右に向くと扉があった。
そこを開ければ、トイレと浴槽が見える。
浴槽と洗面台の境に、水玉模様のカーテンがぶら下がっている。
淡い水色が可愛らしいな、と呑気に思う。


　シャワーの時は、カーテンを浴槽の中に入れる。
お湯を張る時は、カーテンを浴槽の外に出す。
シャワーは蛇口の真ん中のレバーを左に回す。
蛇口はレバーを右に回す。


　一通り説明を聞いて、うんうんと頷いたが、出ていこうとする彼に気付いて、慌ててお兄さんの腕を掴んだ。