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一章:山のクマさん♪
クマさんと少年 01
しおりを挟む【クマさんと少年】
雨の音が窓を打つ。
しつこいぐらいにシトシトザァザァ弱くなったり強くなったりの繰り返しでウンザリとベージュ色のカーテンを閉めた。
溜息を吐きながら部屋の明かりを付ける。
一面が人工的な光に覆われて、不思議な気分に陥る。
「おい」
その気分に浸る暇もなく扉が開いて熊顔が視界に入った。
髪は無造作に伸ばされ首筋を隠し、耳の辺りから口までを髭と言う体毛が彼の顔を飾っている。
その顔から想像を裏切らない見事な体躯。
180cmは優に越しているであろう身長に、地なのか一年中黒い肌。
その肌の下に存在する鍛えられた筋肉。
見事と言うしかないだろう。
そう、彼は立派な熊さん体型なのだ。
視界に入った彼の体をウットリと眺めて駒谷 志那(コマヤ シナ)は僅かに口端を持ち上げた。
志那は筋肉が好きだった。
純粋に憧れる。
「……あのさ、アンタの趣味には口出しする気ねぇんだけど、そうやって自分の世界に入り込むのは止めてくれっかね?」
熊男は返事が返ってこないからか、困った様に眉尻を大袈裟に下げて自らのボサボサの髪の毛の中へと頑丈な手を突っ込んで掻き回す。
「え? ……いや、入ってませんカラ。そういうアンタこそ、入ってくる時はノックしやがれ」
彼の指摘にハッと我に返り目を瞬かせるも急いで反論、ついでにとばかりに不満を口に乗せてフイと顔を反らす。
別に、彼を嫌ってのことではない。
指摘されたことが気恥ずかしいのだ。
「へぃへぃ。そういうことにしときますか。ノックは5回ぐらいしたけど、聞こえなかったんだな」
サラリと大人の余裕を見せ付けるような笑顔で反論をかわされた上にノックをしたと言われバツが悪い思いしか頭をよぎらない。
なんとなく悔しくなりそのまま相手に背を向けて床に座り込んだ、親父座りで。
暫く沈黙が続く。
此方の様子を窺っているのだろう。
やがて、動きも喋りもしないことに焦れたのか、熊男の吐く息が聞こえてきた。
「悪い、そう拗ねんなよ。話も出来ねぇじゃないか。……とにかく、邪魔すっからな」
雨の音に負けないぐらいの声で熊男は言いたいことをズラズラと言って、押さえていた扉の内側へと入ってくる。
バタンと扉の閉まる音。
此方側に近付いてくるパタパタと響くスリッパが床に当たる音。
我慢ならなくて腰を捻り振り向いてキッと睨み付ける。
「……別に、拗ねてないデス。勝手に入ってくんな、熊野郎」
ボソボソとした小さな声で告げて。
それが精一杯で。
体を戻した。
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