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一章:鬼畜極道は似非王子を騙す
王子とキノコと学校生活 05
しおりを挟むベッドに腰を下ろした明紫亜が震えながら蒼護に抱き着いているのが見えた。
額を蒼護の肩口に埋め、すりすり、と擦り付けている。
聞こえてくるのは啜り泣く音だ。
蒼護の手が明紫亜の背中を撫でている。
「あ、蒼真! メシアが大変だったんだよ! 涼子に連絡したんだけど、ちょっと抜けられないみたいだから、悪いけど早退してメシアと帰ってくれるかな?」
人の気配に気付いたのか、蒼護が振り向いた。
明紫亜の肩が、ビクリ、と跳ねて、ゆっくりと顔が上がる。
涙を浮かべる瞳が蒼真を捉え、すぐに逸らされた。
「や、っ、ソーマ、だめ。帰んない!」
ぶんぶん、と首を振りたくり拒否を示す明紫亜の背を叩いて蒼護は困ったように首を傾ける。
「メシア? 蒼真と喧嘩でもした?」
「ソーマ、僕のこと、っっ、もっ、嫌い、なった、もん! 帰って、くれない……もん!」
グズグズ、と鼻をならして答える明紫亜は、溢れる涙を拭きもせずに、ぎゅう、と目蓋を閉ざし、蒼護の腕を掴んでイヤイヤと首を振る。
「蒼真がメシアを嫌いになるなんてこと、ある訳ないよ。ね、蒼真?」
有り得ない、と目を見張った蒼護の顔が同意を求めるように蒼真を窺う。
「メシア。僕はメシアのこと、嫌いになれないよ。こんなにも好きなのに、嫌いになれる訳がないだろ? 何があったの? もう大丈夫だよ、メシア。一人にしてごめんね」
うううう、と呻きながら恐る恐る目線を蒼真にやる明紫亜に近付いていく。
蒼護の肩を叩くと彼は、そっ、と明紫亜から体を離して数歩下がった。
「でも、だけど、だって。僕は考えを変えられないもん。ソーマ、怒ったじゃん。だから、もう僕のこと嫌いでしょ? ……だから、だから、っ、助けて、なんて言えなかった」
ベッドに座る明紫亜の上半身に腕を回し抱き締める。
細い体躯は震えていた。
ぎゅうぅう、と背中に回された華奢な腕が愛しい。
肩に押し付けられる額が、ぐりぐり、と摩擦してくる。
小さな声で告げられた台詞に、もっと早くに謝るべきだったと後悔した。
明紫亜という存在は、とても繊細な生き物なのだ。
「悪かった、メシア。本当はあの後すぐに謝ろうと思ったんだよ。僕が言い過ぎた。助けて、って言えよ。そしたら僕は、何があったってメシアのこと守るから。絶対に傷付けたりしない」
ふぐう、と唸った明紫亜は、ただ首を横に振って何も言おうとはしなかった。
身体を離し顔を覗き込めば、彼の唇が微かに動く。
「こわ、っ、かっ、た。ソーマ、ソーマ、っっ、ぼ、く。こわ、っ」
ボロボロ、と大粒の涙が溢れては零れ、零れては溢れていく。
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