性教育はコッソリと

一章：教育されてます！

作家様は大学生 15

　羽李の様子に焦ったのは神流である。
いつものように勢いよく拒絶されると思っていたのだ。
こんな恥じらう羽李を目にするのは初めてだ。
胸がキュンとして、今すぐにでもメチャクチャに抱き締めたい衝動に駆られる。
羽李の頭の上にある手で、彼の頭部をぐいっと自分の胸に引き寄せた。
手が震えて興奮が収まらない。
それでも、外であることがどうにか神流にストップを掛けてくれた。

「羽李さん、反則です。僕のこと殺す気ですか？」
「は？　何訳解んねぇこと吐（ぬ）かしてんだ。放せよ」

耳元で囁くように告げられて、羽李は我に返った。
神流の肩に後頭部を預けている形から逃れようと、腹に力を入れて反対側に体重を乗せる。
放して貰えないと思ったが、思いの外、あっさりと解放され、羽李は前のめりになってヨタヨタと数歩前に進んだ。

「行きましょうか。図書館に付き合って貰いたいんですが、良いですか？」
「あ？　まあ、別に。構わないけど」

危ないだろ、と一言文句を言おうとするも、先に神流に問われてしまい、羽李は頭を片手で掻きながら頷いた。


　ありがとう御座います、と礼を述べる神流の後に着いて図書館に足を向ける。
図書館までは歩いて10分程の距離だった。
公園の中に建てられたその施設は、神流のお気に入りだと言う。
執筆の際の資料を借りに訪れるらしいのだが、神流が参考にするような資料が図書館にあるのか、と疑問に思ってしまう。
良く聞けば、エッチの資料ではなく、時代背景や施設の資料とのことで、羽李は己の短絡さに自己嫌悪に陥った。
神流は可笑しそうに笑っている。
その笑顔を見ていたら、まあ良いかと思う羽李であった。




　結局、図書館には２時間程いた。
羽李にとっては詰まらない時間ではあるが、小説のための資料集めだ。
ある意味、それに付き合うのも編集者の仕事である。
次の話は時代物のようだ。
江戸時代の資料を一頻り集め、神流は最終的に５冊の資料を借りていた。
学校の道具が入っているのだろうトートバッグに詰め込んでいく。
パンパンになったバッグを肩に掛けて、そのまま図書館を後にした。


　そのまま店に行くのかと思ったが、流石に重いのだろう、一旦家に戻るらしい。
羽李は神流の背中を眺めながら、彼の少し後ろを歩く。
スーツ姿の自分と、私服の神流との組み合わせは、見ようによっては可笑しいのではないかと、ふとそんなことを考えた。