性教育はコッソリと

一章：教育されてます！

作家様は大学生 09

「お友達？」
「いや、その。後輩、です」
「夏木君って、時々動きが面白いよね。お昼、一緒にどう？」

カーナ先生です、とは言えないので、適当に濁し、愛想笑いで誤魔化す。
電話を取る時のことを言っているのだろうか。
なんとなくお笑い要員にされそうな嫌な予感をひしひしと感じながらも、誘いには頷いた。
そろそろ12時を回る。
お腹の具合も空いてきた頃合いであった。

「なに食べようか？　好きな食べ物は？」
「え。俺、何でも食べますよ。先輩の好きなので、大丈夫です」

新人社員一年目、先輩は立てるもの。
必死で慣れない丁寧口調を駆使するも、酒都のテンションは落ちていた。
上品で雅な顔が、しゅんとしている。
ええぇっ、俺なにしたよ、と内心慌てていると、酒都の瞳にジッと見詰められた。

「夏木君！　僕達は、言わば同士。仲間だよ、仲間。そんなカチコチじゃあ仲良くなれないでしょ。楼って呼んで？」

ねっ、と小首を傾げる綺麗な青年。
彼は一つ上の先輩で、少しだけ腹黒い様子で、そして大分、不思議なお方だった。

「と言うことだから、僕も羽李君って、呼ばせて貰うね。可愛い名前、呼んでみたかったんだあ」

がしっ、と肩を掴まれ、ゆさゆさと揺さぶられながら、酒都の提案に異を唱える時間も与えられず、そのまま案は通ったことになってしまうのだった。
強引さも併せ持つ、微腹黒不思議青年のようだ。


　そんな酒都に連れられてやって来たのは、ビルの隣にある寂れたと言っては失礼だが、静かでアンティークな雰囲気を醸し出す喫茶店だった。
酒都曰く、喫茶店というものは、意外とオールマイティーにメニューがあるのだとか。


　ツンデレな雰囲気のおばちゃん店員に案内されて通された四人掛けの席に向かい合って座ると、酒都にメニュー表を渡された。
ラミネート加工された其れは、手作り感満載である。

「鈴見さん、僕はいつもので。また決まったら呼びますね」

ツンデレさんは返事もなく頷くだけで返し、消えて行った。

「彼女、可愛いでしょ？　僕、ああいう人見ると、可愛がりたくなっちゃうんだよね」

雅なキラキラオーラを無駄に放ちながら、台詞はなんともアブノーマルだ。

「そ、そうなんですか。俺は、普通な人が」
「もう、羽李君は堅いなあ。この業界、普通なんて言ってたらヒット商品作れないよ？」
「いや、俺はただの編集者」
「もう、羽李君は解ってないなあ」