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一章:学園の闇
失ったもの 04
しおりを挟むそれだからこそ、真哉の存在に戸惑いを隠せない。
関わりたくないと思う気持ちと、どうにかしてやりたいという想いが、ぐるぐると廻っているのだった。
* * * * * *
ねえ、勝。
と、声を掛けたい衝動を、あやはぐっ、と抑え込んだ。
一歩先を無言で歩く勝の背中を見詰める。
いつもならば、隣にある彼の姿が、この日ばかりは遠い。
解っているつもりだ。
自分だけは、勝の気持ちを理解している。
そう思い込みたかった。
だが、無理なのだ。
こればかりは、あやにも出来ないことだった。
勝の傷を癒すことなど、誰にも不可能なのだろう。
アスファルトの隙間から雑草が生えている。
どうして頑張るの、と胸中で問い掛けた。
こんな粗悪な環境でも生きようと頑張るのは、何故なのか。
頑張って無理をして、そうして手に入れたのは、幸せなのか。
答えは知っている。
雑草に問い掛けたのではないことも解っていた。
彼を思い出す時、胸は張り裂けそうに痛み、それでも少しだけ甘く疼くのだ。
ぎりっ、と唇を噛む。
鉄の味が口内に広がった。
ああ、愚か者。
そう自身を詰ったところで、遅かった。
「あやちゃん。ごめんね。巻き込んで。兄さんのこと、思い出したくなかっただろ?」
嗚咽を堪えようとした時だった。
それまで背中しか見えなかった勝が振り返る。
彼は困ったように微笑んでいた。
悲しみを呑み込んで、ようやっと刻んだ笑みに、あやには見えた。
「……バカね。私は、私には、勝がいるわ。独りじゃないもの。大丈夫よ。勝の方こそ、辛いでしょ?」
「うん、そうだね。罪は、どんなに償っても消えないと思うんだ。それでも、兄さんのような人間がこれ以上出ないようにするのが、加害者家族である僕の役目だと、そう思って。だけど、道のりはまだまだ遠いね。全然届かないや」
勝の拳が握られる。
悔しいよ、と呟いた彼の言葉に、胸が詰まった。
一歩前に出て、あやは勝の体に腕を回す。
「勝。カタルさんは、カタ兄は。私達のこと大事にしてくれた。今度は、私達がカタ兄のために頑張る番だよね。どんなに遠くても、きっと届くよ。私達には、仲間がいる。水紀も悠理も、雷紀だっている。一人で遠い道も、皆がいればその分近くなるよ」
勝の胸に頬が当たる。
彼の鼓動が聞こえている。
生きている証だ。
あやは知っていた。
生きていれば、いつかはこの証を天に返す時がくると。
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