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一章:傲慢王子は呪われ奴隷を飼う
奴隷と水浴び 25
しおりを挟むこんなにも切なく悲しくなる理由が解らない。
胸が締め付けられて上手く呼吸が出来ない。
嫌いな男に対する反応ではないと解っていても、それなら何なのか説明することが難しい。
「嫌い、っ、なの、に。ど、っ、して、会いた、く、なる、っ、の?」
止まらない涙を拭いもせずに、ふんぐふんぐ、と唸っていると、そっ、と頭を抱き込まれていた。
「あ、ギーチ。ごめ、っ、起こし、ちゃっ、た?」
「ううん、起きてた。寂しくなっちゃった? 大丈夫だよ。皆、同じだから。泣きたいだけ泣いたら、少しは楽になれる。アンクには泣く権利も与えられていないから、隠れて皆も泣いてるんだよ。何があっても泣かないなんて、人間には無理なことなんだよね。辛いことや悲しいことがあったなら、泣いていいんだよ。アンクの前なら問題はないから。メシアは頑張り屋さんだから、頑張り過ぎちゃったね」
ふわり、と優しく笑うギーチの胸元を握り締め、彼の肩口に額を押し付ける。
アンクとして生きていくには、心を幾つも殺していかなくてはならない。
奴隷商の所有物であるアンクに自由など認められてはいないのだ。
家族とは二度と会えない者の方が多い。
恋しいと泣けば奴隷商から鞭打ちされることもある。
アンクに余計な感情など必要ない、と奴隷商は躾けていく。
ただただ穢れの処理を行うだけの傀儡であることを求められる。
「ギーチ。僕、怖いんだ。知らない感情が僕のこと押し潰そうとする。苦しくて堪んない」
何も考えない方が楽だった。
誰かに触れて欲しいなどと考える自分は異常だ。
シヴァの温もりを恋しいと想うのは、おかしいことだった。
「そうか。メシアは自分を見ないようにして生きてきたんだね。知らない感情は、今までメシアの中にあったのに、メシアが無視してきたものだと思うよ。怖がらなくても大丈夫。元々メシアのもので、いきなりメシアを乗っ取った訳じゃないから」
ギーチの声は心を撫でるように柔らかい。
安心してしまうのは彼の人柄なのか。
「で、も。おかしく、ない? 触って欲しいとか、甘えたいとか、そんなこと考えるの、変だ」
ふるふる、とキノコを揺らすと、ギーチが笑った。
ゆっくりと背中を撫でられ、おずおずと目線を上げる。
「メシア。それがおかしくて変だったら、世の中の生き物は皆が全員、おかしくて変になっちゃうよ? 大丈夫、メシアはおかしくない」
言い切ってくれたギーチに安堵が胸を満たしていく。
ホッとしたら眠気がやって来て、メシアはギーチに抱き着いたままウトウトしてしまう。
聞こえた「おやすみ」の言葉に眠りに落ちていた。
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