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二章:変化の夏

ろく

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確かに、女生徒がいたことは覚えている。
綴じた目蓋を開けて羽李をマジマジと見詰めていた。

「なんで、言って下さらなかったんですか?」
「んー、何だろうな。なんか助けたのに悪者みたいになって意固地になってたのもあるし。その子に飛び火するのも嫌だったし。ホントは謝るべきだって解ってたんだけどな。どうにも面白くなくてさ。ごめん」

苦笑を浮かべつつも頭を下げてくる羽李を茫然と眺める。
神流は言葉を失い、大きく息を吐き出すと彼の肩に手を置いた。

「顔、上げて下さい。事の顛末は承知しました。もう良いですよ。僕もいつまでも怒ってしまい申し訳ありませんでした」
「良いんだ、怒って当然だろ? 嫌な奴だと思われたって仕方無いさ」

ゆっくりと持ち上げられた羽李の顔は、今にも泣いてしまいそうで、いやに艶やかに見えた。
トクン、と逸りだす心臓を無視すると、神流は立ち上がり、ズボンに着いた土を払う。

「先輩が馬鹿なのは、よぉく解りました。さて、さっさと終わらせてしまいましょうか」
「はっ!? 誰が馬鹿だよ! おまっ、後輩の癖に偉そうだぞ! 謝ったからって調子にのんなっ!」

意地悪い笑みと共に煽るように言葉を放つ神流に、先程までのしおらしい態度を一変させた羽李が立ち上がった。
そんな羽李を鼻で笑いながら、神流は花壇から離れ、校舎の方に向かう。


 嫌っていた先輩に対する評価が変わったのだろう。
やけにすっきりとした心持ちで彼と接することが出来た。
今更、優しい態度など取れはしないが、前よりも確実に穏やかな想いを抱いている。
それと同時に、羽李の表情の変化に胸が騒ぐ自分にも気付いていた。
いつも明るい彼が、もしも泣いたらどんな表情をするのだろうか、と。
想像すると体が熱くなった。


 雑念を追い払い、ホースの先を持つ。
蛇口を捻り水を出した。
勢い良く水が飛び出すのを確認して、ホースの先を花壇に向ける。
まんべんなく水をまいていく最中、ぼんやりと立つ羽李の姿が目に入った。
むくむくと湧き上がる悪戯心に勝てず、彼に向かい水を放つ。

「うわっ!? つめてっ! 何すんだよ!」
「気持ち良いでしょう? ね、先輩?」

案の定、頭から水をかぶり、慌てて体の位置を変える羽李を見て、得も知れぬ優越感を抱いた。
濡れた白いシャツが肌に張り付いている姿は、何とも官能的で、ヒドく興奮を覚えてしまう。

「そりゃあ、まあ、気持ちは良いけど……。乾くまで帰れねぇだろ」
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