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二章:変化の夏

よん

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途端に肌という肌から、汗がだらだらと滴っていく。
この暑さは尋常ではない。

「あっちぃな。このまま焼き殺されそうだわ」

羽李がいつの間にやら隣に立っていた。
掌を額に翳している。
日差しが強いためだろう。
効果の程は知れているが、しないよりはマシなのかもしれない。

「じゃあ、死んだら骨は埋めて差し上げます」

半ば本気で返せば、彼はケタケタと笑った。
明るい人だ。
神流は羽李を窺い見た。


 光の効果でいつもよりも明るく見える茶髪。
大口を開けて笑う口許には八重歯が覗いている。
キツく見える若干のつり目も、笑えば雰囲気が柔らかい。
何故だか解らないが、この時、初めて彼を犬みたいだと感じた。
今までは嫌いと言う意識が働き、あまり近寄りもしなかったのだ。
子犬のように無邪気に笑う姿を、何処かで可愛らしいと思った自分に戸惑いを隠せずに、意味もなく咳払いをする始末だった。

「ひっでぇなあ。まあ、宮原からしたら死んで欲しいぐらい俺のこと嫌いなんたろうけど。一応は心配ぐらいしようぜ」

羽李は神流の様子に気付くことなく校庭に歩き始める。

「……冗談ですよ。大体、先輩が焼き殺されるなら、同じ場所にいる僕だって焼死は免れませんから。二人で骨になるのが関の山です」
「そりゃそうか。それなら、日本人みんな極楽浄土だな!」

羽李の後ろを歩きながら苦笑交じりに言い遣ると、納得だとばかりに振り向いた羽李と目が合った。

「地獄に行く人はいないんですか?」
「さあ、どうだろうな。俺は地獄かも」

さり気なく目線を逸らした。
直視出来なかったのは、嫌いだからか、はたまた真っ直ぐだったからか。
羽李は真っ直ぐな人間だと思う。
正直、純粋無垢な人間は苦手だ。
自分が真っ直ぐにはなれないせいか、とても近寄り難い。
汚してしまいそうで怖いのだ。


 くだらない会話をしている内に、校庭と校舎の間にある花壇に辿り着いた。
色とりどりな花々と、花壇を違えて夏野菜も気持ちだけ植えられている。
ミニトマトや胡瓜、ヘチマなんかも育てていた。

「取り敢えず、水やれば良いんだよな? ホースは」

校舎の壁に水場があり、其処に近付こうとする羽李を制止した。

「先に雑草を抜くんですよ。委員長の話、聞いていました?」
「あー、わり。聞いてなかった。雑草たって、どれが何だか解んねえけど」

校舎に向かう体が振り返り、苦々しい表情で花壇に視線が向けられた。
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