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二章:悲劇の日から
悪夢と白井教授 01
しおりを挟む2.押し込めた劣情
【悪夢と白井教授】
人形かと錯覚させる美貌を持った男は、透き通る白い肌に白に近い頭髪で、瞳は赤味が強かった。
サラサラの髪を自然に流している彼は中性的で女性にも見える。
照須 月(テラス ユエ)という存在を知ったのは、川路 深黒(カワミチ ミクロ)が17歳の時だった。
その日、僕は幼馴染の河東 参(カトウ サン)と本屋に行く約束をしていた。
高校生になったサンと、中学を卒業し就職した僕との関係は、今までと変わることなく続いている。
休みの日にサンと会うことだけが楽しみだった。
サンと過ごす時間だけを心の支えにして生きていた。
心を委ねられる唯一の存在がサンであり、彼がどんなに毒舌で偏屈で暴言ばかりを言う男でも、僕にとっては一緒にいて落ち着く人間なのだ。
鬱の傾向にある僕をどうにか現し世に繋ぎ止めてくれる。
サンでなくては駄目だった。
約束の時間より三時間も前に施設を出た僕は、何度か訪れたことのあるサンの高校にやって来ていた。
待ちぼうけを食らうことを解っていて早く出て来たのは、時間に余裕を持たせないと不安で気持ちが不安定になりそうだったからだ。
何かあったらどうしよう、とありとあらゆる不測の事態が脳裏を埋め尽くして悶々としてしまうので、いつも待ち合わせの時には何時間も前に発つようにしている。
それだけで精神が落ち着く理由は解らないし、予定よりも早くに支度をしないといけないのは、それはそれで大変ではあるのだが、どうしよう、と漠然とした不安に苛まれるよりはずっとマシだった。
私立の進学校は、立派な校門を有している。
趣のあるレンガ造りの壁には圧倒されてしまう。
いつも校門近くのバス停に設置されているベンチに座りサンを待つ。
この日もベンチに腰掛け、以前サンから勧められた本を鞄から取り出した。
ファンタジーに分類される、少年少女の冒険を画いた革命と恋愛の物語だった。
彼にしては珍しいチョイスだと思ったが、案外楽しく読んでいる。
サンが読む本は医学書が多く、僕には理解出来ない。
彼が物語、況してや恋愛物を読むだなんて、と最初は驚いたが、聞けばサンも知人から勧められて読み始めたのだと言う。
「言っておくがね。ボクが自発的に恋愛話を選んだ訳ではないよ。頭のイカれた変人がしつこく勧めてくるものだからうっかり読んでしまってね。意外と面白かったし、こういう系統なら君でも楽しく読めるかと思っただけだ。大体、恋愛などという現象は子孫繁栄の為に脳が作り出すまやかしに過ぎないのであって、そんなものに現を抜かす行為は愚行としか言いようがないね」
そう言っていたサンを思い出す。
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