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二章:悲劇の日から
記憶に取り残された幼馴染 16
しおりを挟むバスタオルで顔を隠している彼に笑いが込み上げてきた。
恥ずかしいのだろう、恐る恐るバスタオルを下に下げ見えた顔は真っ赤になっている。
「だっ、て。だってさ……」
言葉に出来ずに「だって」を何度も繰り返すのを笑って聞いていた。
「だって、じゃないよ。君が恥ずかしがるとボクも恥ずかしいじゃないか。ただの治療行為なのに」
ぎしり、と椅子に腰を落ち着かせ、クロの手からバスタオルを奪い取る。
治療行為だと強調させ、ボクは彼に異変がないかを確認した。
「うううう。サン君は慣れてるかもしれないけどさ。ぼ、僕はその、他人に、……お、お尻を触られるなんて、経験ないから。……恥ずかしいよ」
矢張りクロは、実の父親から受けていた性暴力についても、つい数時間前の輪姦も、覚えてはいないのだと解る。
膝を抱き締め顔を埋めた彼は、今にも泣いてしまいそうな目をボクに向けてきた。
「生きていれぱそういうこともあるさ。ボクだって否応なしに座薬を挿れられたことが何度もある。でも一々看護師に恥ずかしいだなんて言わないよ。気にするから恥ずかしくなるんだ。大体、こんなことで恥ずかしがっていたら、女性と抱き合うだなんて君には一生無理なんじゃないか?」
ふん、と鼻で嗤い奪ったバスタオルを洗濯物入れに放る。
揶揄する響きを持たせ女性との性行為を思わせる台詞を意識的に放った。
「だ、だだだ、抱き合う、なんて。無理だよ。人間は、その、怖い」
「怖いと言ったて、君ね。クロ君だって大人になれば子供を作るだろう? 抱き合わなければ子孫は残せないよ」
顔全体を膝に埋め表情は窺えない。
鈍いクロには伝わらなかったか、ともう少し具体的に述べた。
「え? 赤ちゃんはコウノトリさんが運んでくるだろ?」
しかしながら、ボクはこの純な生き物の純度を侮っていたのだと思い知る。
巫山戯ているのではなく本気で言っていると、顔を上げたクロのきょとんとした表情で察し、頭が痛くなった。
「は? 中学の授業で習わなかったのかい? いや、習ったよね? 習った筈だよ。これだからちゃんとした性教育が必要だって言うんだ」
信じられない思いでクロを眺め、髪をガシガシと掻き混ぜる。
当の本人は事の重大さに気付いていないのか、呑気に照れ笑いを浮かべ頬を掻いている。
「授業は殆ど寝てた。なんかよくわかんなくて。知ってるだろ? 僕はその、勉強が苦手なんだ」
何かがボクの中で、ぷつり、と切れた。
椅子から立ち上がり徐にクロの隣に腰を下ろす。
「まさかとは思うけど。精通は来てる? 射精は解る? 小学校で習ったよね?」
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