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二章:悲劇の日から
記憶に取り残された幼馴染 13
しおりを挟むクローゼットからバスタオルを二枚取り出し、ベッドに戻る。
クロの腰の下に一枚バスタオルを敷き、もう一枚を彼の下半身に掛けやる。
純粋に薬を塗って楽にさせてあげたいと言う想いと、治療目的であればクロに触れても大丈夫なのかをあわよくば知りたいと言う邪な想いがボクの中で渦を巻いていた。
理由は何にせよ、薬を塗った方が良いことに変わりはないのだ。
一つ息を吐き出し、バスタオルの下に手を差し入れる。
「脱がすけど、大丈夫?」
最終確認をしウエスト部分に手を掛けた。
クロは神妙な顔で小さな頷きを返す。
「お、おね、お願い、します」
下腹部に掛けたバスタオルを、ぎゅう、と掴んで目を閉ざすクロに、胸が熱くなった。
愛しいという想いが溢れて止まらない。
愛らしくて可愛くて、心の内が温かくなる。
それと同じだけ、どうにも憎らしく思えて苦しくなった。
ボク以外の男の腕に抱かれるクロなど、想像もしたくない。
どうして彼は、いつでも他の男に抱かれるのだろうか。
「嫌だったら言い給えよ。その、あまりに不快なら自分で塗っても問題はないから」
渦巻く憎悪の感情が気持ち悪い。
ボクは一つ息を吐き出し、クロの足から下履きを下着と共に脱がしていく。
クロは目を瞑ったまま、コクコク、と首を上下に揺らしている。
羞恥心が強いのだろう、仄かに染まる頬が色っぽい。
脱がしたズボンをベッドの隅に置き、患部だけが見えるようにクロの両膝を立たせた。
「さ、さ、サン、くっ、ん! あ、あああ、あんまり、見ない、で」
手にゴム手袋を嵌め、消毒液を吹き掛ける。
クロは茹で蛸のように真っ赤になり、薄っすらと開けた瞳は潤んでいた。
一々クロを煽情的に捉えてしまう自分が嫌で、気持ちを切り替えるようにクロから視線を外す。
「見ないと薬が塗れないとは思わないかい、クロ君? 大丈夫、別に君が初めてでもないから。それとも自分で塗るかい? ボクはどっちでも構いやしないよ」
敢えて突き放す口調で告げれば、クロは口をパクパクと開けたり閉めたりし、暫時言葉もなく考え込んでいた。
「……そ、の。本当に、嫌じゃ、ない? 汚い、よ?」
飽くまでもボクの心配をしているクロに、思わず顔が弛んだ。
思わず抱き締めたくなり、ぐっ、と衝動を抑え込む。
「肛門科医は汚いからと言って治療を放棄するのかい? まあボクの希望は精神科ではあるけどね。一応、どの科でも通用する医師になりたいとは思っている。クロ君は丁度いい練習台だよ。ギブアンドテイクだね。君は薬を塗って貰える。ボクは診察の練習が出来る。どうする?」
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