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二章:悲劇の日から
記憶に取り残された幼馴染 12
しおりを挟む眦(まなじり)を指先で擽るとクロの双眸が細まる。
擽ったそうに微かに上がる口端に、嫌がってはいないと察し安堵した。
「なんか腰が痛い気がするけど。この年で腰痛かなあ」
腰を擦るクロに肩がピクリと動いてしまった。
男達に陵辱されたことを覚えていない言動に動悸が速くなる。
確かめてみたいと思った。
本当に記憶を捏造してしまうのか、この目で真実を見てみたいと欲求が膨らんでいく。
ごくり、と自分の喉が鳴る音が何処か遠くで聞こえた。
「湿布でも貼ろうか?」
ボクは欲求を抑え込むように軽く息を吐き出す。
覚えていないとはいえ、彼の体躯に掛かった負担は大きなものだ。
確かめるにしても、今日でなくともいいだろうと自分を納得させる。
「うーん。そういう感じ、ではなくて。なんか奥の方が重いような。……それに、なんかお尻がヒリヒリする。痔かなあ」
ぼけぼけとした顔で首を傾けているクロと目が合った。
彼は恥ずかしそうにはにかんでいる。
「……薬を塗ろうか?」
「へっ? や、いや、だだだ、大丈夫、だよ」
間抜けにも口を半開きにした次の瞬間、意味を理解したのかクロの頬が一気に朱に染まった。
そして、勢い良く左右に頭(かぶり)を振る様に悪戯心が芽生える。
「クロ君。痔を甘く見ていると痛い目にあうよ。放置して悪化したら手術も有り得るんだ。クロ君は今ここで恥を忍んでボクに薬を塗られるのと、知らない医者に手術されるのと、どっちが良い? 選ばせてあげるよ」
努めて真面目な表情を崩さずに告げると、クロはモゴモゴと口の中で「でも、たけど、でも、だけど」と呟いて俯いた。
うううう、と唸った彼はボクの腕を掴んで上目で窺ってくる。
「手術は、その、嫌だから。あの、あ、の。サン君が、い、いや、嫌じゃ、ないなら。お願い、したい……です」
涙目になっているのが可愛く思えてクロの顔をマジマジと見詰めていた。
クロが瞬きをする度に睫毛が震え、そんな様子にさえ胸が高鳴る。
「支度するから横になって。言っておくけど、これは飽く迄も治療だからね。君は肛門科にでも診察に来たつもりでいたらいい」
自らに言い聞かせるようにクロに言葉を掛けた。
指示通りにベッドに体を横たわせるクロを横目にボクは立ち上がり、机の抽斗から半透明のゴム手袋と消毒液、痔用の塗薬を取り出した。
抽斗の中には医者が使う様々な用具(危険度の低い物)が入っている。
クスコや肛門鏡などの使い道に困る物もあった。
兄や妹の机にも同じ物が存在し、河東家に於いて、誕生日に与えられたプレゼントの品々が医療器具の数々なのである。
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