62 / 97
一章:SとK
時に約束は呪縛のようで 02
しおりを挟むたかが睡眠、と思われがちだが、睡眠と病気は深く繋がっていると、ボクは考えていた。
少しずつではあるが、睡眠を専門に扱う科を導入する病院も増えてきている。
精神病患者は眠れなくなることで、余計に症状は悪化する。
眠りは症状を和らげてくれるのだ。
それだから、ボクは睡眠を専門にした。
眠れないクロを眠れるようにしてやりたかった。
動機はそんなものだ。
今では遣り甲斐を感じている。
クロとはボクにとって、そういう男だった。
彼にそんな気はなくとも、ボクはいつも彼に乗せられている。
医者になるつもりなどなかったボクに、医者を目指させたのもクロなのだ。
この患者の場合、肥満気味で脂肪が気道を塞いでしまうことが解った。
そのため、ダイエット指南を行っている。
食事療法から運動まで、細かにチェックしていた。
「食事も運動も問題なしですね。体重も改善されてますから、この調子でいきましょう。ああ、たまには息抜きに出掛けるのも良いですよ」
患者から渡された今週の記録を見ながら言いやれば、患者はドライブに行きたいと答えた。
「そうですね。奥さんとお子さんと行かれたらどうですか? 外食は気を付けて貰いますがね」
頷きつつも釘を刺すのは忘れない。
あはは、と40代半ばの患者は苦笑を溢す。
来週の指導をして、診察を終えた。
今日は診察もこれで終わりだ。
いつもはこの後も、研究をしたり論文を書いたりするのだが、そうもいかないようだった。
椅子から立ち上がり、腕を上に伸ばす。
首を何度か横に振り、受付側に繋がる扉を開けた。
精神科からやって来た看護師は、一人で椅子に座っていた。
近付いて行けば、俯いていた顔が上がる。
「あ、お疲れ様です。すいません、私、取り乱してしまって」
「いや、良いよ。それよりも、何があったの? 今日は、川路さん診察日じゃないよね」
一瞬、口が開いて間抜けな顔になっていたが、言わなかった。
静かに問い掛けると、彼女は、はいと答える。
「敷家先生が呼び出したみたいなんです。検査がしたいとかで。何があったのかは、看護師が誰もその場にいなかったので解らないんですけど。ただ、鎮静剤を用意してくれと突然言われて、行ってみたら川路さんが取り乱していて。飛び降りようとしているのを先生が必死で止めていました。取り敢えず、鎮静剤で今は寝ていると思いますが。起きた時に大丈夫かなって。私、なんだか不安で。敷家先生には止められたんですけど、河東先生は、保護者みたいなものだと思ったので、振り切って来てしまいました」
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男
湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。
何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。
部室強制監獄
裕光
BL
夜8時に毎日更新します!
高校2年生サッカー部所属の祐介。
先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。
ある日の夜。
剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう
気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた
現れたのは蓮ともう1人。
1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。
そして大野は裕介に向かって言った。
大野「お前も肉便器に改造してやる」
大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる