SとKのEscape

Neu(ノイ)

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一章:SとK

時に約束は呪縛のようで 02

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 たかが睡眠、と思われがちだが、睡眠と病気は深く繋がっていると、ボクは考えていた。
少しずつではあるが、睡眠を専門に扱う科を導入する病院も増えてきている。
精神病患者は眠れなくなることで、余計に症状は悪化する。
眠りは症状を和らげてくれるのだ。
それだから、ボクは睡眠を専門にした。
眠れないクロを眠れるようにしてやりたかった。
動機はそんなものだ。
今では遣り甲斐を感じている。
クロとはボクにとって、そういう男だった。
彼にそんな気はなくとも、ボクはいつも彼に乗せられている。
医者になるつもりなどなかったボクに、医者を目指させたのもクロなのだ。


 この患者の場合、肥満気味で脂肪が気道を塞いでしまうことが解った。
そのため、ダイエット指南を行っている。
食事療法から運動まで、細かにチェックしていた。

「食事も運動も問題なしですね。体重も改善されてますから、この調子でいきましょう。ああ、たまには息抜きに出掛けるのも良いですよ」

患者から渡された今週の記録を見ながら言いやれば、患者はドライブに行きたいと答えた。

「そうですね。奥さんとお子さんと行かれたらどうですか? 外食は気を付けて貰いますがね」

頷きつつも釘を刺すのは忘れない。
あはは、と40代半ばの患者は苦笑を溢す。
来週の指導をして、診察を終えた。


 今日は診察もこれで終わりだ。
いつもはこの後も、研究をしたり論文を書いたりするのだが、そうもいかないようだった。
椅子から立ち上がり、腕を上に伸ばす。
首を何度か横に振り、受付側に繋がる扉を開けた。


 精神科からやって来た看護師は、一人で椅子に座っていた。
近付いて行けば、俯いていた顔が上がる。

「あ、お疲れ様です。すいません、私、取り乱してしまって」
「いや、良いよ。それよりも、何があったの? 今日は、川路さん診察日じゃないよね」

一瞬、口が開いて間抜けな顔になっていたが、言わなかった。
静かに問い掛けると、彼女は、はいと答える。

「敷家先生が呼び出したみたいなんです。検査がしたいとかで。何があったのかは、看護師が誰もその場にいなかったので解らないんですけど。ただ、鎮静剤を用意してくれと突然言われて、行ってみたら川路さんが取り乱していて。飛び降りようとしているのを先生が必死で止めていました。取り敢えず、鎮静剤で今は寝ていると思いますが。起きた時に大丈夫かなって。私、なんだか不安で。敷家先生には止められたんですけど、河東先生は、保護者みたいなものだと思ったので、振り切って来てしまいました」
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