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一章:SとK
担当医 01
しおりを挟む【担当医】
死ねない僕は、臆病者だろうか。
死にたいと思ったその頭で、僕は思い出すのだ。
サンの懇願にも似た願いと、そうせざるを得なかった悲しい状況を。
そして、申し訳なく思う。
敢えてキツい言葉を選ぶサンの優しさと、あの日の願いは同じなのだろうか。
僕には解らない。
僕が知ることを、サンは恐れているようにも思える。
彼は自分の気持ちを、あまり口にはしない。
毒舌と無表情で隠してしまう。
昔から変わらない。
サンは出逢った頃からそういう男だった。
サンの担当する科を受診し終え、続いて精神科を受診するため、エスカレーターで4階から2階に降りていく。
5階までの建物が三棟あり、内一棟は入院施設である。
内装は、病室と同様に白で統一されており、少々眩しく感じられる程だ。
清潔感を出したいのだろうか。
素人には良く解らない。
昨今の流れなのだろう、電球はLEDで統一されている。
余計に眩しく感じるのは先入観だろうか。
錯覚ではあるだろう。
大学病院と名乗るだけあり、無駄に広いようにも感じられる。
其れだけ沢山の科があるのだろう。
無駄に、などと言っては失礼ではあるが、そう言いたくもなる程に広いのだ。
救いと言えば、通う科が同じ棟にあることである。
人によっては、棟が異なり、移動も大変らしい。
サンから聞いた話だ。
これだけ広いのに、何故睡眠科の診察室は狭いのだろうか、と素人考えで思ってしまうのだが、何でも研究室や検査を行う部屋が多いのだそうだ。
これもサンからの情報である。
本当かどうか、真偽の程は解らない。
部外者の僕には知る手段も必要もない。
僕も其処までの興味は持ち合わせていなかった。
しかし、一つだけ釈然としない部分はある。
睡眠科は狭いが、何故か精神科の診察室は広いのだ。
確かに、科によって必要なスペースも異なるのだろう。
大した疑問ではないが、ふとした瞬間に思う。
こうも違いがあるのか、と。
睡眠科の六帖に対し、精神科は十帖程の広さ。
扱っている患者も、大半は精神科と睡眠科で同じである。
精神科に通う患者の殆どが睡眠科も受診する。
それなのに、この広さの違いは何なのか。
大した疑問ではない。
其れだからこそ、余計に気になるのだ。
しかしながら、サンに聞いたことはなかった。
当然、担当医師の敷家 継生(シキヤ ツグナ)にも、である。
継生の話を出すと、決まってサンの機嫌は悪くなる。
継生は継生で、サンの話をすると面白くないようだ。
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