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一章:好きです、先輩
先輩の危険と後輩の噂 09
しおりを挟むカタカタと毅の指がキーボードを叩いている。
彰治の双眸が瞬き、ゆっくりと口が動いていく。
「仲は悪くないと思うが。噂は知らない。俺、そういうの興味ねぇんだよ」
彰治の向かいのデスクにいる毅と目が合った。
へえ、と相槌を打つ彼の口元に浮かぶ笑みに不愉快さを抱いてしまう。
「府末先輩ならウワサの真相も知ってるかと思ったんですけど。……暴走族の総長やってたらしいですよ。しかも、社長の息子だって話で、コネ入社なんじゃないかって聞きました。何か知ってます?」
興味がないと言っても話題を変えるつもりのないらしい毅に眉を顰めた。
探るような視線が気持ち悪い。
「知らねぇよ。三田村が暴走族だろうが社長の息子だろうが、他人には関係ないことだろ。それに、たとえコネ入社だったとしても、彼奴はちゃんと仕事と向き合ってる。俺は三田村の頑張りを知ってるからな。他人の噂なんかどうでもいいんだ」
ふん、と鼻で笑ってしまう。
他人の噂など面白可笑しく脚色されているものが多いだろう。
本当が混じっていたとしても、彰治の中の安月への評価が変わることはない。
自分の知る安月だけが彰治にとっては全てなのだ。
「大体、社長の息子つったって、名字が違うだろ。コネ入社は、……否定出来ない程に馬鹿だけどな、彼奴。何にしたって一介の平社員が知れることじゃねぇし、聞く相手を間違えたな」
毅を見ることなくパソコン上の数字を修正していく。
がたり、と音がし彼が立ち上がったと知れるが、我関せずと作業に集中していた。
「珈琲入れて来ますね」
おう、と相槌を打つ間に毅が部屋から出て行くのを気配で察する。
隣の給湯室には珈琲を淹れる機械があり、社員は好きに利用出来る。
簡単な操作で本格的な珈琲が飲める、と評判は良かった。
府末先輩、と声を掛けられ振り向けば背後に毅が立っている。
手には紙コップが二つ、両手に一つづつ握られていた。
「なんだ、俺の分も作ってくれたのか。わりぃな」
「いえ、ついでなんで。いつも迷惑掛けちゃってますし、これぐらいさせて下さい」
自覚があるなら仕事をしろ、と内心思ってしまったが、単純に嬉しかったので何も言わず曖昧に微笑んだ。
受け取った紙コップは熱く、すぐにデスクの上にと置く。
「適当に砂糖入れましたけど。ブラックの方が良かったですか?」
心配そうな毅に「否」と首を振る。
頭を掻いて苦笑を零した。
「ブラック、飲めないんだ。助かるよ」
「そうなんすか? 意外っすね。先輩、甘いの苦手そうなのに」
目を見張る毅からパソコンに視線を移す。
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