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一章:好きです、先輩
好き過ぎて 05
しおりを挟む「ふ、ッ、ゥン、は、ぁ」
侵入を果たした安月の舌は我が物顔で彰治の口内を嬲る。
歯列を撫で擦ったかと思えば、奥に引っ込んでいる彰治の肉を絡め取ろうと舌先を伸ばしてきた。
「んっ、んぅっん、っ、ん」
ぴちゃり、と触れた舌先に安月の熱を感じ不覚にも腰に覚えのある心地良さを抱いてしまう。
「……っ、……はは、流石は先輩。流されてはくれないっすね」
「バッ、カ、ヤロウ! 調子乗んな!」
深く彰治を捕えようとする安月の舌に噛み付いた途端に解放され、彰治は勢い良く口元を拭った。
安月は噛まれた舌を出し、痛い筈なのに何故か嬉しそうに笑っている。
そんな彼の肩を力任せに殴るのは照れ隠しも入っていた。
本気で怒っていると言うよりも、駄犬がバカをした時の「何してんだコイツ」感が強く、結局は仕方ないと許してしまう心境になるのだ。
「すんません。一時的に理性が役に立たなくなりました。好き過ぎて時たま俺の理性ぶち壊れるんで、遠慮なくぶっ叩いて下さい」
叩かれた肩を片手で擦り、安月は心底幸せそうに馬鹿なことを告げる。
彰治は顰めっ面で安月のパソコン画面を指差した。
「此処と此処、数字が違う。単純なミスだな。後は大丈夫そうだから、そこ直したら声掛けてくれ」
冷たく言い放ち自分のパソコンに向かう。
了解です、と返ってきた安月の言葉は、矢張りどことなく浮かれているようだった。
結局、安月のお陰で日付が変わる前に仕事が終わり、帰り支度をしている時だ。
安月が珍しくも重々しい雰囲気で口を開く。
「府末さん。あの、お願いがあるんです。……阿形には気を付けて下さい」
至極真面目な顔で宣う安月に両目を瞬かせ首を傾げる。
言葉の意味を理解出来なかった。
「気を付ける、つったって。何をどう気を付けりゃ良いんだよ?」
「二人だけにならないようにするとか、っすかね? とにかく警戒して欲しいんっすよ。あと、何かあったら俺を頼って下さい。……今日のも嫌がらせとしか思えねぇし」
一緒になって首を傾ける彼を目に彰治の胸中を過ぎったのは、可愛いな、という訳の解らないものだった。
徐に両手を握られ真顔で「頼れ」と口にする後輩を凝視する。
何かって何だ、と聞き返そうとした彰治の視界に恐ろしい表情が拡がった。
ボソリと呟かれた台詞は低過ぎて聞き取ることが出来なかったが、何時ものヘタレ然とした雰囲気と異なりピリピリと空気が張り詰めている。
「み、みた、む、ら?」
戸惑いと本能的な恐怖に声が震えてしまう。
安月は慌てたように笑みを刻むと彰治の指を優しく撫でては指先で辿っていく。
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