上 下
36 / 59
二章:訪れた変化

異端児の場合(2)02

しおりを挟む


情けなくて嫌になる。
神父は意図も簡単にミルの心をほどいて癒してしまうのに。
俺は見当違いな嫉妬に苦しんでいた。




 涙をぼたぼたと溢すミルから逃げて、俺は自宅に帰る。
早かったわね、と声を掛ける母親に適当に返事を返し、自室に入った。
私服に着替えて学校用のバッグを手に部屋を出る。
もう行くの、と母親に問われれば、朝学習があると嘘を吐いて学校に向かう。
今日はもう走らないだろう、と思った。
あんなに泣いて、走れないだろう。
そういった想いとは別に、涙を静かに流すミルを、強引に奪いたくなった己の異常さに腹が立っていた。
これでは同級生達と同じである。
拳を握り、頭の中のミルを追い払う。
彼は綺麗な人間だ。
俺の汚い感情で汚したくはなかった。
本当は、抱き寄せて優しく涙を拭いたかった。
頭を撫でて安心させてやりたかった。
神父がするように、俺もそうしたかった。
だが、原因は俺だし、薄汚い気持ちが邪魔をして、ミルに触れるのが怖かった。
どうにか涙を拭い一度だけ頭に触れた。
それだけで、胸が震えて、悪魔の俺は奪ってしまえと囁く。
劣情を抑えつけて逃げて来たのだ。


 明日からどうしよう、と頭を悩ませる。
泣かれてしまった以上は、少し距離を置いた方が良いのかもしれない。
涙を流すミルは破壊的だ。
理性がもたないと困る。
レンガ造りの住宅街を抜けて坂道を歩く。
学校は坂の上だ。
少しキツいがなんてことはない。
答えが出ないまま学校に着いてしまった。


 教室に入ると、早く来ていた男子と女子に遠巻きに見られる。
いつものことだ。
多数派の人間は、異端児を恐れる。
俺は気にすることなく席に着いた。
話し掛けてくる人間などいない。
あるのはやっかみぐらいのものだ。


 ミルと仲が良いことが気に食わない人間は沢山いる。
哀れみだ勘違いするな、と言われたこともある。
そんなことは自分が一番知っていた。
ミルは優しい。
俺を拒絶したりしない。
だけれど、解ってはいた。
いつかは拒絶されると。
彼は神父になる男で、同性愛を禁じる宗教に於いては、禁忌でしかない。
そんな俺を、いつまでも許容出来る筈がないと、理解はしていた。
同級生がミルにお熱だと言っても、彼等は所詮、思春期の一時期の迷いで、ミルを女の代替にしているに過ぎないのだ。
彼等は同性愛とは言わない。
だが、俺はミルだけが好きで、ミルだけを愛していて、ミルなしでは生きてもいけない。
ミルが男だっただけで、同性愛者ではないが、見てくれは立派な同性愛だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の大好きな旦那様は後悔する

小町
BL
バッドエンドです! 攻めのことが大好きな受けと政略結婚だから、と割り切り受けの愛を迷惑と感じる攻めのもだもだと、最終的に受けが死ぬことによって段々と攻めが後悔してくるお話です!拙作ですがよろしくお願いします!! 暗い話にするはずが、コメディぽくなってしまいました、、、。

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

松本先生のハードスパンキング パート4

バンビーノ
BL
 ほどなく3年生は家庭訪問で親子面談をさせられることになりました。やって来るのは学年主任の松本先生です。嫌な予感がしましたが、逃げられません。先生は真っ先にわが家を訪問しました。都立高は内申重視なので、母親は学校での僕の様子を知りたがりました。 「他の先生からも聞きましたが、授業態度ははっきり言ってよくない印象です。忘れ物とか宿題をやってこないとか、遅刻とか。2学期が特に大事なので、先日も厳しく叱りました」  母は絶句しましたが、すぐに平静を装い何があったのかと聞きました。 「けがをさせるような体罰はしません。本人も納得しているし、躾の範囲だとご理解ください」 「もちろんです。でもひっぱたくときは、なるべくお尻にしてやってください」  松本先生は大きくうなずきました。  理科だけはちゃんとやらないと。でも染みついた怠け癖はすぐには直りません。5月の連休明けでした。理科の授業で僕は松本先生に指名され、教室の前の黒板に宿題の答えを書くように言われました。僕は忘れたと素直に言えなくて、ノートを持って黒板のところへ行きました。でも答えがすぐ思いつくはずもなく、すっかり動揺していました。松本先生は僕に近づいてくると黙ってノートを取り上げました。宿題はおろか板書もろくに取っていないことがばれました。先生は前の席の女子生徒のノートも取り上げました。先生の表情が穏やかになりました。 「きれいなノートだ」  松本先生は女子生徒にノートを返すと、今度は険しい顔で僕にノートを突き返しました。僕はお仕置きを覚悟しました。 「お母さんの前で約束したよな」  僕は前の黒板の縁に両手をつかされました。松本先生は教室の横の棚から卓球のラケットを持ってきて、僕のすぐ右横に立ちました。その卓球のラケットは素振り用で、普通のラケットよりずっと重いものでした。今度はこれでひっぱたかれるのか。僕は前回よりは素直にお仕置きの姿勢をとりました。松本先生は左手で僕の腰のあたりを押さえつけました。パーン! 「痛え」。ラケットはお尻にズシンときて、僕は反射的にお尻に右手のひらを当てていました。「熱っ」。   

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

兄が媚薬を飲まされた弟に狙われる話

ْ
BL
弟×兄

処理中です...