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二章:訪れた変化
神父見習いの場合(2)02
しおりを挟む僕よりも大きくなってから、フィンはよくこういった仕草をとるようになった。
「おはよう御座います。その、どうして」
「一緒に走った方が楽しいでしょ? 俺、邪魔かな?」
「いえ、邪魔だなんてことは! 一人のつもりだったので」
最初は一人で行っていたジョギングだったが、ここのところフィンも一緒に走っている。
理由を聞こうとして、反対に悲し気な瞳に見詰められてしまい、僕は大袈裟なぐらいに首を横に振った。
フィンは、ふふ、と笑って上体を伸ばす。
僕は彼の悲しそうな顔に弱かった。
フィンはそれを解っているのだろう。
年を取るにつれて、彼はあざとくなっていくようだった。
「ミルも準備体操、しないと駄目だよ。ほら、急いで」
「あっ、はい」
結局、彼の気持ちに応えられないと想いつつも、拒絶することも出来ず、こうやってまた彼は僕の中に入り込んでくるのだ。
溜め息が口を吐いた。
そんな僕を急かすようにフィンの手が、僕の肩に触れる。
どくん、と胸が跳ねた。
些細な触れ合いだ。
何の意味もない。
それなのに、僕は逸る心臓を抑えられないのだ。
「ミル? 気分悪い?」
俯いてしまう僕を心配してか、フィンが膝を着いて下から僕を見上げてくる。
真っ黒な瞳が僕を貫く。
「顔、真っ赤。熱でも」
「だ、大丈夫、です。ごめんなさい、何でもないんです」
フィンの手が伸びてくる。
額に触れようとした直前、僕はその手を振り払っていた。
ふるふると左右に首を揺らすことしか出来ない。
「ミル、俺の顔、ちゃんと見て。最近、見てくんないよね。そんなに俺のこと、嫌?」
違う、と叫びたかった。
フィンを傷付けてしまう自分に嫌気がさす。
悲しませたい訳ではないのに、上手く言葉に出来ない。
僕は何も言うことが出来なかった。
ただひたすらに、俯いたまま首を横に振る。
目尻に涙が浮かぶ。
目線の先が歪んで見えた。
「ねえ、何で、何にも答えてくれないの? 拒絶なら拒絶で良いよ。でも、黙るのはズルい。嫌ならはっきり言って」
フィンの声は震えていた。
僕が傷付けているのだと解っている。
それでも、頭の片隅では、これで良いのだと囁いていた。
このまま僕に幻滅して、僕を嫌いになってくれたら、きっと道を外さずに済むのだ。
狡い考えだと思う。
酷く胸が痛んだ。
ポタポタ、と水滴が地面を濡らす。
覚悟なんてまだないけれど、僕はこれ以上彼に惹かれていくことが恐怖でしかない。
自分から離れることも出来ない。
なんて弱いのだろう。
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