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一章:恋に堕ちた悪魔の子
告白された場合 03
しおりを挟む差し出されたガラスのコップを受け取り、ゆっくりと口を付けた。
喉を、すぅ、と潤していく。
ごくごくごく、と一気に飲み干してしまった。
それだけ、不味かったのだ。
おかわりが欲しいぐらいである。
「フィンが来たら起こしに来るから、それまでは寝ていなさい。昨日は疲れただろう? おやすみ、ミル」
空になったコップを回収し、ブランの片手は僕の頭を撫でて去っていく。
僕は頷くとベッドに上体を横たわせる。
ブランが布団を肩まで掛けてくれた。
「おやすみなさい、養父さん」
眠くはなかったが、そう声を掛ける。
目を瞑る。
世界は真っ暗になった。
気配で神父様が部屋を出て行ったのが解った。
そっ、と瞼を開ける。
フィンが来る。
気持ちの整理も付かないのに、彼はやって来る。
受け入れてはならないと理性は言う。
彼を救いたいと、本能は叫ぶ。
どちらを選んでも、僕は辛いような気がした。
他人を救うと言うことは、自分を棄てる覚悟がなければ、中途半端に終わってしまうのだろう。
僕にはまだ答えは出せそうになかった。
フィンを見捨てる覚悟も、自分を棄てる覚悟も、結局はどちらもないのだ。
中途半端な自分に嫌気が差す。
これでは神父見習い失格だ。
彼が大人になるまでの間に、覚悟を決めようと、心に誓うのだった。
気付けば眠っていたようで、僕は体を揺すられる感覚で目を覚ました。
目の前に広がったのは、黒い髪に黒い瞳。
幼さの残る顔。
フィンだった。
「あ。おはよう、御座います?」
「起こしてごめん。神父様が良いって言うから。おはようって言うか、もうこんばんはだけどね」
寝惚け眼を擦りながら上体を起こそうとする。
フィンの顔は離れていった。
「何時ですか?」
「17時ぐらい。昨日は、迷惑掛けて、悪かったよ。母さんもお礼、言ってた」
「そう、ですか。仲直り出来たなら、僕は良いんです。熱も下がりましたし」
「アンタ、良く死なないね。あんな薬飲んだのに」
不思議なものを見るように、フィンの視線が僕の顔を撫でていく。
「死ぬほど不味いですよ、あの薬。でも、効果はあるから不思議なんです」
「ふーん。俺は死んでも飲まないけどな」
苦笑を滲ませる僕から視線を外し、フィンはぼそりと呟いた。
「それはそうと、態々お見舞いに来て頂いて申し訳ありません。有り難う御座います」
「別に。ただ会いたかっただけだし」
礼を述べれば、ふいと顔を逸らされてしまう。
しかし、その頬は僅かに紅潮しており、照れ隠しなのが見て取れた。
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