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一章:偵察
神沼さん家の事情 04
しおりを挟むそれだから淳志は、司破に対して憤りを感じてしまう。
もっと楽しそうに生きてくれないと困る。
それだけのものを手にしても、人生を楽しく生きることは出来ないのか、と絶望感が胸を渦巻くのが辛い。
言わば八つ当たりであることは、流石の淳志でも、24歳にもなれば自覚があった。
カツン、カツン、と階段を誰かが上がってくる。
司破を待ち始めてから15分程が経った頃だろうか。
淳志は、よっ、と勢いをつけて立ち上がり、靴音の主を待った。
階段の踊り場から淳志のいる場所まで歩いてくる、背の高い威圧的な男は、何処か不機嫌である。
「おっかえりー、司破ちゃん!」
彼が淳志に対して不機嫌なのはいつものことで、気に留めることでもなかった。
溜息を吐く司破の肩に手を掛け、にこやかに挨拶までしたと言うのに、冷たくその手は払われてしまった。
「志島、貴様。人の部屋に変な本を隠すな」
半ば無視する形で彼は鍵を開けている。
淳志がマンションに来ても驚く素振りもない。
何度も同じことが繰り返されれば、否が応にも予想は出来ていたのだろう。
淳志は司破の後にくっついて玄関口に入り込んだ。
睨み付けてくる司破のことなど我関せずである。
「あ、やーっと、気が付いたの? 遅いよー、司破ちゃん」
以前、司破の住居に忍び込んだ時に仕掛けた悪戯に、彼は数年経った今頃気が付いたらしい。
司破の目が更に鋭く淳志を射るが、一々気にしていたら彼とは付き合っていけないのだ。
靴を脱いで勝手に司破の後を追い掛ける。
「何しに来やがった」
玄関を上がり真っ直ぐに進んだ部屋は、ダイニングキッチンになっており、司破はダイニングの中央に置かれているローテーブルのところに腰掛けた。
淳志は戸惑うことなく向かいに座る。
敷かれている座布団はフカフカで気持ちが良かった。
怖い顔で凄んでくる司破に笑いが止まらない。
「弟が兄に会いに来るのに、理由なんているのー? 司破ちゃん、冷たーい!」
あっはは、と声に出して笑うも、結局のところは形だけの笑いだ。
淳志とて、兄弟ごっこに興味はない。
兄だの弟だのと口に出すこと自体、虫唾が走るのだ。
それは司破も同じなのだろう、彼は額に手を宛て、息を吐き出している。
「ふざけるな、兄だと思ってもいない癖に」
呆れた響きを持たせて呟かれた言葉は、淳志の本心などお見通しなのだと、暗に言われているようで、淳志の心を、ぞわぞわ、と気持ちの悪い悪寒が走り抜けた。
心臓に巣食った虫が、ズルズルと這い回っては、のたうち回っているような、そんな気色の悪い感覚だ。
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