あべらちお

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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼

秘密の関係(勉強合宿編)17

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此処からまだ一時間も登るらしいと聞いて明紫亜は挫けそうになりながら、ごろん、と横向きになる。
リュックを器用に降ろし、上体を持ち上げた。
首から掛けている水筒を開け、ごくごく、と喉を潤す。

「宿泊先に着いたら昼食の時間になりまーす。その後、お待ちかねのお勉強ターイム! なので、皆さん頑張りましょうな。んで、16時から夕食作りでーす。17時に夕食。19時から21時まで二回目のお勉強タイムですって! 挫けず頑張りましょうや。22時に消灯。以上が本日の大まかな予定となるそうな。……ハイ、メア! 始まる前から、挫けちゃいそうだよ僕、みたいな情けない顔をしない! テキトーにやれば世の中どうにかなるのだよ、少年!」

担任に招集を掛けられ外していた班長の報告に、ばたん、と倒れ「おおう、ぐぬぬ、うぐ」と唸っていると、もふもふ、と頭を足蹴にされた。
足の爪先でコツコツと頭を叩かれ、痛くはないが何とも背徳的な気持ちに陥る。
見下ろしてくるツインテールの少女を見上げ、ふんぐ、と返事をした。

「だってさ、アミちゃん。後一時間も山登るんだよ? 此処まで来るのだって必死だったのに。こんなにハードな予定にしたの誰なの? イジメなの? 無理ゲーなの? 班長、元気の補給がしたいデスー。笹垣先生を襲ってもいいですか?」

うぐうぐ、と泣き言を漏らす。
視界の端でA組の生徒といる司破に触れたくてどうにもならない。
頑張るのに少しのご褒美が欲しかった。

「そうなー。うむ、許可しよう! 行ってよし!」

ふうむ、と腕を組んだ状態で顎を擦った愛弥の手が、ぴしり、と司破がいる方向を指差す。
途端に起き上がった明紫亜は一目散に駆け出した。

「笹垣、センセーっ!」

足元を優しく包む草を踏み付け、愛しい人を呼びながら彼の背に、ぼふん、と飛び付く。
驚愕にキノコと司破を交互に見遣ったA組の生徒達は、そっ、と静かにその場から離れて行った。
司破の表情が強張っていて恐ろしかったのは、彼等だけが知る秘密である。

「どうした、神沼。いきなり飛び掛かって来るな。危ないだろ?」
「班長から許可は貰いましたー。元気の補給なんですー。少しだけ、ダメ、ですか?」

ふぐふぐ、と変な声を上げて司破の肩甲骨に頭を擦り付ける。
溜息を吐いた司破が「仕方ねぇな」とボヤくのを耳に、ふへへ、と笑った。

「もうバテたか? ほら、こっち向いて」

司破に促されるままに彼と向き合い、一緒に草の上にと座る。
相変わらず無機質な無表情は若干怒っているようにも見えた。
だが、明紫亜の頭を撫でる手付きは優しい。
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