あべらちお

Neu(ノイ)

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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼

秘密の関係(勉強合宿編)08

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嘲笑を向け現実を突き付けてくる涙夏の言葉は、明紫亜の中にも存在していた。
言われるまでもなく解っていることだ。
明紫亜が解っていると知っていて敢えて言葉にしているのだと思えた。

「うん。結婚するって約束したから。幸せを受け入れるって決めたんだ。その為にも、お母さんとちゃんと向き合いたい。……愛されなくてもいい。愛じゃなくてもいい。何も求めたりしないよ。そんな資格ないもん。ただ、お母さんに伝えたいことがあるから、会いたい」

涙夏と密着していた体躯を離し、体育座りで膝に顎を乗せる。
司破の顔を思い浮かべると、荒ぶっていた気持ちも不思議と落ち着いていく。
くふり、と笑い涙夏に視線だけを投げた。
下から見上げる涙夏が無表情で何を考えているのかは想像も出来ない。

「メシアは自分から危険に身を投じるのか。彼奴は普通の堅気とは違う。関係を築くなら気を付けないと、殺されるよ? あそこの家には悪魔がいるからね」

溜息を吐き出しソッポを向いた涙夏の言葉に、浮かんできたのは司破が恐れていると言う彼の異母兄のことだった。

「お兄様?」

小さく呟いたのが聞こえたのか、頷きを返す涙夏が見えた。

「倉本 純。32歳。跡取り息子として今は組長補佐を勤めている。危ない界隈の中でも絶対に手を出すなと恐れられている悪魔だよ。あの男に目をつけられるぐらいなら死んだ方がマシ、って話。薬漬けにされたり、肉体を欠損させられたり、他にも色々とヤバイらしい。そんな男の家族と、メシアは結婚しようって言うんだろ? 涼子さんが許す訳がない。犯罪一家の人間だなんて弁護士の叔母さんは絶対に反対するよ」

横を向いたままの涙夏の口から出て来る情報に目を丸くする。
すっ、と双眸を細めた彼の視線が明紫亜に向けられた。
嘲るように嗤い涼子の名を口にする。
ぴくり、と眉を真ん中に寄せ、額を膝に押し当てる。
視界が一気に暗くなった。

「わかってる。難しいことは知ってるよ。でも、簡単なことなんて今までもなかった。どんなに困難でも、一緒に生きて行くって決めたんだ。僕は諦めたくない」

ぎゅう、と足を抱き込んで自分に言い聞かせるみたいに涙夏にと言葉を返す。
どうしても司破と生きたいのだ。
司破は嫌がるかもしれないが、出来ることなら司破の家族からも祝福されたい。
どんなに怖くとも倉本 純(クラモト ジュン)という男が司破の家族である以上は、避けては通れない人物だ。

「馬鹿メシア。本当にメシアは、馬鹿だ。心配する身にもなれ」

ぼそり、と聞こえてきた呟きが泣き出しそうなものに思えた。
ぐっ、と唇を噛み締める。
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